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なろうモノ嫌いの異世界記  作者: 不連続がと
サイドストーリー:召喚屋ポタルの大会記

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Ex9話 準決勝第二試合!

 ――王都オルタナピア、競技場・観客席、バックスタンド中段。


「さて、次の試合は……。そうか、ダーウェイ対クイダ、か。」


 サジは、手元のチラシと、競技場を交互に見て、つぶやいた。


「そうだね。ここで勝った方が決勝で、わたしと戦うってこと。」


 試合を終えたポタルが、客席に戻って来る。


「お、ポタル。お疲れ様。おめでとう。」

「うん、ありがとー♪」

「試合の後だもんな、ちょっと飲み物でも買ってこようか?」

「お、いいねぇ♪でも、飲み物は自分で選びたいのがわたしの性分、なのでありますっ。」


 ハルの口調を真似ておどけるポタル。


「オン、ちょーっとだけ、席を取っててねー?」


 そして、サジとポタルは売店に向かった。

 ちょこんと、席に座るオン。


 そんなこともありつつ、時間は経過した。

 そして、二人が戻ってきて、飲み物を飲み終わった、その頃に、試合は始まった。


 ◇◇◇


 準決勝、第二試合。

 先攻は、ダーウェイ。


「[ティアマト 召喚]。」


 海を纏ったような、濃い青色を基調に、水飛沫のような模様を纏った巨大なドラゴンが召喚される。翼こそないが、母なる海を思わせる威圧感を放っている。

 ティアマトは、ダーウェイの使用する中ではエース級と呼べる強さの召喚獣である。

 また、先程のクイダの試合を受け、翼竜砲に対する強い対策用のカードとして、機械を腐食させる潮風、『海を纏う』ドラゴンを繰り出したのである。


 それを目にしたクイダは、驚いていた。

 ただし、それは恐怖ではなく、意外、と言った風の。そして、呟く。


「(先の試合を見て、完璧に対策出来る召喚獣がいるとは)嘘やん。」


 トン、トコ、トン。


 クイダは太鼓を叩くと、続けた。


「(だが、こちらにも水属性に強いエース級がいる。運が)ついとったで。」


「[ここ、やね]。」


 [桜雷虎(オウライコ)の召喚]。先程の戦いと同じく、独自の詠唱で召喚獣が姿を表す。


 桜色の二足歩行の虎が、鋼の防具と、雷のオーラを纏っている。

 水属性のティアマトが苦手とする雷属性の召喚獣、桜雷虎(オウライコ)。ダーウェイは、相手の弱点を狙い撃ったつもりで、逆に弱点を突かれる形となった。

 一瞬、苦い顔をしたが、観客の誰にも、対戦相手にも、気取られることなく、クイダに向き直る。


 否、実際には、客席のオンは、唯一、その一瞬の表情の変化に気づいていたのだが、他の誰に伝えることもなく、試合を見守っていた。


 お互いの召喚獣が対峙する。

 激戦の、準決勝第二試合、開始。



 桜雷虎(オウライコ)は、先程の試合と同じく、素早い先制攻撃を仕掛けた。二体の召喚獣のサイズにはかなりの差がある。飛び上がり、雷を纏った拳をティアマトの左前脚に叩き込まんとする。


 それを、ティアマトの眼光が光ると同時に現れた、青い防御壁が弾いた。

 壁に弾き返されて着地したところを、今度は、ティアマトの口から吐かれる青い光線が狙い撃つ。

 桜雷虎(オウライコ)は、飛び退き身を躱す。


 拮抗する戦い。その緊張感に、競技場が、湧いた。


 ◇◇◇


 クイダ・レフト・オルトロス。


 王都西地区、初代王を支えたリダヒー・オルトロスの流れをくむ名門に生まれた、”変人”。

 本人にも理由はわからなかったが、彼は、平和な王都西地区を眺める、ということに無上の幸せを感じていた。

 彼は、役人としての業務が無い時間には、趣味として、西地区の巡回を行った。

 自らの足で歩き、平和な街を見守る。

 そして、トラブルや事件が発生した際には、虎の召喚獣によって、それを収めた。

 その正体は誰からも知られないままに、私的な治安維持活動をしていたのである。

 

 なぜ、自らの足で平和な街を守り、眺めることに幸福を覚えるのか。

 考えてもその答えは出そうになかった。


 いずれにしても、彼は、その本能のまま、王都西地区という狭いエリアにおいて、影のヒーローとなっていた。

 また、その独特な見た目から、本人も、ちょっとした名物にもなっていたのであった。その真の活動内容は知られないままに。

 彼の生き様と強さは、こんな言葉で表されるだろう。



 井の中の蛙、大海を知らず。



 されど、空の深さを知る。



 ◇◇◇


 一方、ダーウェイ・ケンリス。


 王都に本店のある、大手召喚屋『サモン・サモン』の次世代を担うと目される人材。

 ポタルをして『秀才』と評価される、高い能力をバランス良く持つ、優秀な召喚術士。


 イフリート、ティアマトをはじめとする計7種類の召喚獣をいずれもハイレベルに使いこなし、高練度かつ隙のない采配を見せる、今大会の優勝候補。

 恵まれた生まれによる、周囲からの目線、期待。そして、それによって生じる、不安、恐怖。

 ダーウェイは、それらを跳ね除けるのではなく、受け入れ、それでもなお、自分の糧としてきた。

 自分の生まれ持った運命が、恵まれているのか、あるいは、呪われているのか。常人ならば、そんな迷いを抱くところである。


『自ら(ケン)を持て。(ケン)であれ。(ケン)を取れ。』


 ケンリスの一族が信仰する男神ケンリのその教えが、ダーウェイの迷いを断ち切り、その魂を支えた。

 

 大手召喚屋『サモン・サモン』には、彼の若さゆえに未だその才覚が十二分に発揮されないことを惜しむ声はあった。

 だが、彼の器を疑う声は一つもなかった。


 それが、生まれながらの将。生きる召喚の教科書。

 ダーウェイ・ケンリスである。



 ◇◇◇



 戦闘は一進一退の展開が続いた。


 雷属性のクイダの召喚獣が有利、と見ていた大方の観客の予想とは裏腹に、ダーウェイの召喚獣は粘り強く攻撃を防ぎ、また攻めていた。

 勝負は拮抗し、完全に五分と五分の様相を示す。


 ダーウェイの先の試合では、粘りを見せて、一手ずつ追い込むスタイルを観客に見せている。

 むしろ、追い込まれているのはクイダの方なのでは、という空気が競技場を占めていく。

 ラエがそうだったように、状況を打破できなければ、クイダは、オッズ通り順当に、ダーウェイに押し切られるであろう、と。



 そう、例えば、何か、切り札が、ない限りは。



 トン、トン、トコ、トン。


 クイダが、小太鼓を、小気味良く叩く。


 クイダは、まさに切り札を、持っていた。そして、呟く。


1()0カウントで、()り注ぐ、()


「略して、[J・F・K]。」


 桜雷虎(オウライコ)が天に向かって両手を掲げる。


 そして、それを両手でスローイングするように、前方に向かってぶんと振ると――、

 ティアマトの頭上に、小さな雷雲が生まれる。

 雷雲からは、パチパチと、まるでロックオンするかのように、ティアマトの頭にレーザーポインターのような光が伸びており、数字が”10”と映写されている。


 ティアマトは振り払うように首を振ったが、光は照射されたまま。

 上を向いて、口から雷雲に向かって青い光線を吐くと――、雷雲には穴が空いた。だが、それを物ともせず、雷雲はどんどん大きくなっていく。


 数字のカウントが”9”になる。

 勘の良いダーウェイは、これが、カウント0とともに発動する、いわば”必殺技”であることに気づいた。


 ならば狙うべきは敵本体、桜雷虎(オウライコ)

 ティアマトの首は改めて桜雷虎(オウライコ)を向くと、桜雷虎(オウライコ)本体に向けて、さらに苛烈な攻撃を加えた。前進し、光線を連射する。

 しかし、桜雷虎(オウライコ)は後退しながらそれをかわす。光線によって地面が繰り返し焼けた。身軽さと、俊敏さの利を活かし、ティアマトの攻撃を受けないまま、時間稼ぎに徹していく。


 “8”。”7”。


 無情にも過ぎていくカウントとは裏腹に、ティアマトは桜雷虎(オウライコ)を仕留めきれない。


 “6”、”5”、”4”、”3”、“2”。


 カウントが進むにつれ、雷雲のサイズは加速度的に大きくなっていく。

 ついには、スタジアム全体を包まんとし、雷雲はゴロゴロと音を立てる。


 そして――、”1”、”0”。

 眩い光とともに、観客席を揺るがすような大きな音とともに、そのときはやってきた。



 ドッカァァァァン!!!



 雷が、まるで天罰の如く、蒼き龍に向かって落ちた。


 クイダの趣味の治安維持活動で、人知れず、王都西地区の悪人を懲らしめていた、落雷。

 その正体である。


 召喚獣ティアマトは、雷の直撃を食らい、マナを維持できず、消滅した。

 準決勝第二試合、勝者はクイダ。


 大きな落雷の音と、本命の敗北に、競技場は静まり返った。

 そして、数秒の静寂の後、大きく湧いた。



(さながら、『勝利の方程式』だな……。あれを打ち破るのは骨が折れそうだ……。)


 ラエを破ったダーウェイを、さらに力で押し切ったクイダを見て、サジは、そう感じていた。


 一方のポタルは、素直に決勝戦を楽しみにしているようであった。



 競技場からホテルに移動する際も、サジの[地の駆動]を真似た魔法を使い、オンが落ちないようにしっかりと強く抱っこして地面を滑って帰りながら、陽気に翌日の決勝戦に備えていたのだった。




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