Ex8話 準決勝第一試合!
――王都オルタナピア、ホテル内のレストラン。
「おつかれさまー!いやぁ、勝ったねぇ!よかったよかった!」
ポタルが、上機嫌に夕食を楽しんでいる。
大会の日程は、一回戦、準決勝、決勝と、一日ずつ進むため、サジとポタル、そしてオンは2泊3日の計画で王都に滞在していた。
イニシアの召喚屋ギムズには、『召喚獣大会参加のため臨時休業』の札が掛かっている。
「おー、おめでとう。」
サジも軽く拍手して見せる。
「ありがとうありがとう。ふふん。どう、どう?」
得意げにポタルが胸を張っている。だが、その後すぐに表情を切り替えると、翌日の話題へと移る。
「明日の相手は、ゲンキ・パープルオーガさんだね。あの人の一回戦、けっこう衝撃だったよねぇ。」
「そうだな。っていうか、俺には全試合が衝撃の連続だったけどな。特に最後のクイダさん。」
「ね、サジ。これまでに何試合かさ、試合の展開予想とかしてたじゃない?だからさ、明日のわたしの試合も、展開予想、したい?わたしの作戦、教えてあげよっか。」
ポタルが、『観光用』に、サービスの提案をしてくれる。
「ほら、身内に教えたって、減るもんじゃないし。」
サジは、しばらくの間うーんと腕を組んで悩むと、一言。
「いや、減る……な。うん、減る。やめておこう。」
ポタルの意外そうな表情を受けて、さらにサジは付け加えた。
「美味しいものは、色んな食べ方をしたい……、」
そう言うと、サジは皿に残ったソースを最後のひと切れのハンバーグに絡めて口に運ぶ。
「今回に関しては、最後までワクワクして味わってみよう、と──。まぁ、そんなとこかな。」
◇◇◇
――翌日、競技場。
競技場には、ゲンキ・パープルオーガと、ポタル・ギムズが、相対して、試合の開始を待つ段階にあった。
残る四強のうち、ゲンキ、ポタル、ダーウェイ、クイダの誰が優勝するのか。
会場のボルテージが、高まりつつあった。
先攻、競技場東側に位置するポタルが、詠唱する。
「[サモンド・ビースト―ブルースカイ・ランサークン!]」
天から光が舞い降り、召喚獣が現れる。
メタリックライトブルーの鎧に身を包み、大きな槍を携えた女騎士。柔らかなブロンドが、風になびく。
後攻のゲンキは、先程の試合と同様に、巨大な召喚獣[シマオニ]を召喚した。観客ですら恐ろしく感じるほどの、大きさの暴力が、威圧感を放つ。
――試合、開始。
◇◇◇
幻鬼・紫鬼。鬼人種族の召喚術士。
鬼人種族の中でも、紫色を冠する彼らの一族は、自らを誇りと高貴さを併せ持つ血族と自負し、種族の発展に尽くしてきた。
彼が、王都ランクを持たないため多額の参加費が必要、という不利な条件な下でもこの大会に挑んだ理由は一つ、鬼人種族の術士の実力をアピールするためである。
鬼と言う種族に対しては、彼の体躯が表すように、世間的にその筋力・暴力については高い評価があった。
しかし、彼ら紫鬼種族は、それだけでは、種族のそう遠くない未来に行き詰まりが起こる、と考え、積極的に魔術、その中でも召喚術を身に着けてきた。
そして、他の種族よりも経験が浅く不慣れである分、その差を埋めるため、ルールの範囲ギリギリの、召喚術士自体を狙うような、「鬼らしい」喧嘩術や、他にも”トリック”を活用しているのである。
◇◇◇
一方、ポタル・ギムズ。彼女が召喚した[ブルースカイ・ランサークン]は、彼女が開発した中で、現時点では最高傑作の召喚獣である。
特徴として、青空のエネルギーをマナとして活用出来る機能を持っており、そのため、日中の晴天下でなくては使えないという大きな制約がある。だが、その欠点を持ってなお、彼女の召喚獣の中では最強と呼べる性能を持っていた。
そして、ポタルは、ゲンキのトリックを、半ば見抜いていた。
それは、「ゲンキの召喚獣は、それ自体がフェイクである」ということである。
あれだけ大きな召喚獣や、ギラギラを一発で怖気づかせた圧倒的な破壊力に”見える”トゲの攻撃。あれらは、常識的なマナ容量やマナ出力で可能な芸当ではない。とすると、考えられる可能性は二つ。
①ゲンキは、圧倒的な、稀代の、「超」がつく天才召喚術士である。
②召喚獣や攻撃そのものが、幻術のようなものでサイズを盛っている。
だが、ポタルは①の可能性はかなり低いと踏んでいた。
なぜなら、
・圧倒的な天才であれば、そもそも異国の大会にわざわざ出場してアピールする理由がない。
・キンネコを吹っ飛ばした際の棍棒のスイングによるヒットが、最も威力のある先端近くでなく、根本であった
この2つの点から、ポタルは、自身の持つ最強の召喚獣で、小細工無しの真っ向勝負を挑むと決めたのである。
だが、[シマオニ]の圧倒的な大きさは、ポタルの心を揺さぶった。ポタルの思考が巡る。
(もしも、昨日、この作戦をサジに言ってたら……、サジはなんて言ったかな)
想像のサジの声が聞こえる。
『じゃあ、もしも、答えが①で、アイツの実力が、全部規格外の本物だったらどうするんだ?』
(そうしたら、わたしは、たぶん)
『そのときは、潔く散るしかないね。――だからこそ、後悔しないように、全力で、挑んでくるよ。』
そんな、「起こらなかった」過去に思いを巡らせながら。
ポタルと、女騎士の鬼退治が始まるのだった。
◇◇◇
[シマオニ]が、ギラギラとの試合の攻撃と同じように、召喚獣ごとポタル本人を狙っているであろう、地面から突き出るトゲの攻撃を仕掛ける。
大きく振りかぶった棍棒で、競技場を叩きつけると、トゲがポタルに向かって連続で生成されていく。
[ブルースカイ・ランサークン]は、その攻撃を避け――、ることなく、槍を構えてトゲに向かって真っ直ぐ突撃した。
地面から生える大きなトゲの連鎖は、――観客から見れば意外にも――脆く、槍と鎧によってへし折られる。槍を構えたまま、女騎士は、巨大な鬼に向かって突進し、そして。
(トゲはハリボテだった。)
(だけど、次に狙うのは、ハリボテじゃない、実体の部分。ここを逃すと、相手に時間を与えてしまう。)
(幻じゃない、実体があるのは、少なくとも、あの場所……!)
大きくジャンプし、[シマオニ]が棍棒を握る右手を槍で狙う。
――ズドンッ!
槍が[シマオニ]の右手を貫くと、風船のように、破裂し、消えた。
威圧感と緊張感に押され、息を切らせるポタル。
その姿をちらりと見ながら、ゲンキが、小さく呟く。
「ここまで、か……。見抜いた?否、腹を括ったか。……大した胆力だ。」
クイダの試合に勝るとも劣らぬ速攻。
ポタル・ギムズ、勝利。
決勝戦、進出――。




