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なろうモノ嫌いの異世界記  作者: 不連続がと
サイドストーリー:召喚屋ポタルの大会記

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Ex7話 一回戦第四試合、シゴローVSクイダ!

――王都オルタナピア、競技場・観客席、バックスタンド中段。


「さて、次のカードは……シゴロー・セティ対クイダ・レフト・オルトロス……か。……ん?なんだ、あれ?」


 サジが気づいたのは、スタンドの一番外側、四隅の席。

 そこに――スロットマシンを模したような、奇妙な着ぐるみたちが、それぞれ一体ずつ立っている。

 その異様な姿に、サジは思わずポタルに尋ねた。


「なぁなぁ、ポタル、なんだあれ。」


「ん……?なんだろうね、応援用の召喚獣なのかな?シゴロー・セティって、軍団を率いているって話だったでしょ? 景気づけに、ああいう派手なことするタイプなのかもね」


「応援、ねぇ。なるほど……。」


 確かに、よく見ると、近くに術者らしき人影がある。この距離と、サジの感覚では気ぐるみのように感じられたが、状況を鑑みれば、人型サイズの召喚獣と考えるのが妥当だろう。

 ただ、納得はしつつも、サジは内心に違和感を抱えていた。

(でも、普通の応援っていったら、もっと集団で、横断幕とか掲げて……わかりやすく団結するもんじゃないか?)

 実際には、サジも、ポタルも、両方が『正解』していた。


 あの召喚獣たちは、単なるマスコットではない。

 セティ軍団の“共有特化型”召喚獣 ──[クレバー・スロット]なのである。


 観客席の四隅に散らばらせることで、彼らは今まさに「戦場そのものの情報」を分析・共有し、勝率を最大限に引き上げるための"戦略的応援"を展開しようとしていたのだった。


 ◇◇◇


 シゴロー・セティ。セティ軍団を率いる頭目。

 彼らの戦い方は一貫している──「数とシステムによる勝利」である。

 シゴローが管理する召喚獣[クレバー・スロット]は、術者が誰であれ、過去、及び現在の戦闘経験を共有し、召喚獣を強化させるという機能を持っていた。

 これにより、セティ軍団は、常に、最新にアップグレードされた召喚獣を使う事ができる。

 団員が、[クレバー・スロット]を使用して、勝っても、負けても、その経験はチームに蓄積される。

 また、平行した多人数で召喚を行い、多対一で対峙すれば、あらゆる方向から相手を分析することが出来る。複数の視点で敵を解析し、相手の情報を素早く掴むのである。

 セティ軍団は、このようにして勝利確率を上げることを「期待値を積む」と称していた。

 そして、この大会の条件は、「期待値」の塊、軍団の言う、「ツモ」った──つまり、勝算の高い状況だと判断していた。

 下準備を整えて、競技場にシゴロー・セティが入場する。「軍団の親玉」と呼ぶにはいささか爽やか過ぎる印象がある、見方によっては好青年にも見える、彫りの深い顔をした男性術師が、西側のゲートから姿を表す。


 そして、反対側のゲートからも──。


 ◇◇◇


挿絵(By みてみん) 


 東側から入ってきたクイダ・レフト・オルトロスの姿に、サジは驚愕した。


(おいおいおい、なんだあれ!?イロモノ過ぎるだろ!?)


 上下、黒づくめのスーツとジャケットには、黄色いストライプのライン。そこに、同じ柄のシルクハットを被っている。そして、大きな黒縁の丸メガネ。これだけなら、ちょっとした、少し個性的な大道芸人、くらいで済んだのだが……。


 クイダはさらに、背中に大きな太鼓を背負い、逆に、前方には小さな太鼓をぶら下げ、両手にはバチを携えていた。


(お笑い枠、か……?)


 サジは、そのあまりに異様な姿に、他に衝撃を受けている人物はいないかと、観客席を見回してみたが。


(誰もいないな……。)


(異世界って、寛容だ。多様性だ……。)



 ◇◇◇



「[クレバー・スロット リ・セット]。」


 先攻のシゴローの詠唱とともに、[クレバー・スロット]が召喚される。

 競技場の四隅に召喚されているものより、ふた周り大きく、そして洗練された形状のスロットマシンが、競技場に姿を表す。


 セティ軍団のメンバーたちは、この時点で、勝利を確信していた。

 事実、[クレバー・スロット]は、計算され尽くした戦略に支えられた、ハイレベルな召喚獣だったと言える。


 ポタルとサジが<<薔薇と月>>に与えた、『標準化』による恩恵を、さらに拡大し、大きく享受していた。

 それだけではなく、ゲンキ・パープルオーガが行った『ルールギリギリ』の戦術を、最大限に活用している。

 召喚獣の性能と、大会のルールの穴を突いた、完成度の高い布陣である。


 続いて、後攻のクイダ。


「そう([翼竜砲の召喚])、やね。」


 召喚獣の名前すら呼ぶことのない、独特の詠唱によって、召喚獣が姿を表す。


 機械仕掛けの、大きな翼を持つ翼竜――その口部は巨大な機関砲を模している――が、[クレバー・スロット]に対し照準を合わせ、両足でしっかりと大地を踏みしめ静止した。


(飛行されると情報の解析に時間がかかる。だが、着地してくれているなら話は別。──勝てる。)


 シゴローは、内心で、頷いた。気取られないよう、表情は、変えないままで。



 試合、開始――。



 ◇◇◇


「[リール・オン!]」


 シゴローの声が響く。

 [クレバー・スロット]の、各個体の情報共有の時間を埋めるための、演出――。


 スロットマシンのレバーが下がり、リールが激しく回転し、液晶が煌めき、チカチカと、マシンが様々な色に輝く。


 その間に、競技場四隅に配置された子機の[クレバー・スロット]が、敵の解析を進め、情報を共有する。


 普通の人間であれば――、あるいは、動物であっても。

 その演出によって、心理的に、数秒、隙が生まれる。

 その時間差を利用して、勝利の確率は、秒単位で高まっていく――。



 はずだった。



 ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン!!



 [翼竜砲]は、試合開始とともに、レバーの動きなど物ともせず、[クレバー・スロット]に砲撃、先制攻撃した。



 ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン!!



 リールが回ろうが、光ろうが、お構いなし。攻撃は続く。



 ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン!!



 容赦なく。無機質に。

 戦闘ではなく、まるで工場で工作機械が動くかの如く。



 ダンダンダンッ!!



 観客が凍りつき始めたころ、ようやく砲撃が止む。



 そして──。



 タン、タン、タカ、タン──。



 クイダが太鼓を叩きながら、静かに言った。



「(隙を見せたら)あかんよ。」


「(相手の準備を黙って)待てへん、て。」


 クイダ・レフト・オルトロス、勝利――。



 会場は、水を打ったように、静まっていた。



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