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なろうモノ嫌いの異世界記  作者: 不連続がと
サイドストーリー:召喚屋ポタルの大会記

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Ex5話 一回戦第二試合、ハルVSポタル!

 ――王都オルタナピア、競技場、観客席。バックスタンド中段。

 先ほどまで観戦していた、どちらの選手の動きも見える、絶好の位置。


「さて、次はわたしの番だね。」


 ポタルはふうっと息をつき、すっと立ち上がる。


「サジ、ちょっと席移動しといて。わたしの背中側に来て」

「──最高のお土産になる景色、一緒に見ようねっ!」


 サジの返事を待たず、彼女は控室へ小走りで消えていった。


「……いつものことだけど、カッコいいよな、あいつ」


 サジは、ポタルに言われた通り、オンを連れ、<<薔薇の月>>とともに、席を移動した。

 サッカーで言えば、ゴール裏になる辺り――、ポタルと、同じ景色を目に焼き付けるために。

 

 それからしばらくして、両選手が、入場する。



 ◇◇◇



 競技場、東ゲートからハル、西ゲートからポタルが現れる。


「召喚屋どの、胸を借りるつもりで、いざ、勝負なのであります!」


 敬礼とともに、ハルが元気よく声を上げる。


「いえ、胸を借りるのは、こちらの方です……”賢者”さん。」


 ポタルが応じると、ハルはぴたりと動きを止めた。そして、低く静かに答える。


「なるほど……さすがですね、”視えている”。 ……でありますか。」


 ――ハル、賢者リトル・ウィンターの従者を名乗る彼は、人間ではなく、賢者の”使い魔”である。

 すなわち、この戦いは、「ハル」越しに行われる、賢者リトル・ウィンター対召喚屋ポタルの戦いであった。


 競技場から遥か遠く、王宮北の屋敷の中。

 ハルの眼と身体を通じ、この様子を視ていた小さな妖精、賢者リトル・ウィンターは、静かに微笑んだ。


 ◇◇◇


 賢者リトル・ウィンター。彼女は、サジと同じ世界で一度目の人生を生きた、転生者である。

 彼女の現実世界での名前を、和木(ワギ)こふゆ、と言った。

 彼女は、連れ子のいる男性と結婚し、さらに一人の実子をもうけた。彼女は、血のつながりを問わず、二人の子に等しく愛情を注ぎ、立派な大人へと育て上げた。

 その傍ら、職業安定所で職員としても働き、多くの迷える人材を世の中に送り出す手助けを行った。

 百歳を超えてなお、穏やかな老後を過ごし、やがて、ゆっくりと人生を閉じた。百歳を迎える頃には認知症を患い、その誕生日会でプレゼントされた花束を口に入れてしまったこともあった。

 それでも、彼女の葬儀には多くの親族が集まり、笑顔と感謝の涙があふれていた。

 その人生は、間違いなく満ち足りたものだった。



 そんな彼女の人生、魂に興味を惹かれたのが、異世界の男神、ケンリ。

 女神ギムとは対を成す存在である。


 ケンリは、彼女こそ”聖女”であると考え、この世界に招いた。

 王都の賢者として、使い魔を生み出し、働かせる──、労働力の創造という、実に彼女らしい使命を与えて。

 

 彼女は、この異世界で生み出す使い魔を、彼女の趣味であった手芸の作品のように、あるいは、子どもや、送り出してきた人材のように、愛した。

 彼女にとっての「天国」として、余生……否、”転生”を過ごしていたのである。


 ◇◇◇


 一方、ポタルは、尊敬と畏れを抱いていた。


 使い魔越しの召喚獣操作──それは、制御の手数が一段階増えるということ。

 例えるなら、ハンドパペットを片手にはめ、操り主の手の指二本、ハンドパペットにおける両腕でテニスラケットを持ち、テニスコートで生身の相手に相対しているような状態なのである。


(あっちは、とんでもないことをやってる……けど、勝ち筋は、ある。なんてったって、わたしは――!)



「[オハナミの時間、なのであります]!」


 ハルの召喚獣が現れる。



 召喚獣オハナミ。その姿はまるで──“花見の精”が怪人になったような、異様だが、楽しげな風貌だった。

 背中からは大きな満開の桜の木が生えている。

 徳利(とっくり)をひっくり返したような頭、体にはブルーシートのマントを纏い、右手にはお団子、左手には空のビール瓶のようなものを携えていた。


 一方、ポタルも詠唱する。


「[サモンド・ビースト-サラマンダークン]!」


 炎を全身に纏う巨大な大山椒魚(オオサンショウウオ)が姿を表す。


 試合、開始。



「後手を活かしての、オハナミに対しての炎での対策。さすがであります。」


 ハルはうなずく。


「しかし、小職は、そこまで甘くないのであります。さぁ、この桜吹雪を貫いてみるであります。」


 オハナミは、手に持つ団子を振るった。背中の桜の木から花びらが吹き出し、周囲に舞い上がる。

 風に揺れるピンクのカーテンが、オハナミを囲う。



 オハナミが空を仰ぎ、挑発するように仁王立ちになる。


 サラマンダークンの口から、火球が飛ぶ──!が、到達する直前。


 花びらたちは“ひらり”とかわし、火球の通った空間を再び塞いだ。



「むむう、やりますね。」


「まだまだここから、フィールドを桜で埋め尽くすであります!」


 オハナミの桜のカーテンが、花びら単体に分割され、競技場の戦闘エリアいっぱいに広がる。

 バケツに溶けゆく絵の具のように、競技場の空間の、桜色の濃度が高まっていく。


(さぁ、どう出ますか……。若き才能。あなたなら、この場も切り抜けるのでしょう?)


 ハル越しのリトル・ウィンターは、視線に“期待”を込めていた。



 そのとき──



(ん……?風……?でありますか?)



 桜の花びらが、風に乗って流されていく。

 東から、西へ。


 それまで吹いていなかったはずなのに。

 ハルの肌には、風の感触など感じられないのに。



 ポタルが言う。


「ハルさん……。なんで、わたしが、召喚獣のレパートリーに”ドラゴン”や”ワイバーン”、”グリフォン”じゃなく、”サラマンダー”を選んでいると思います?」


「ちょっとズルいですけどね。勝負だから、顔で対策させてもらいました。ハルさんが、火力勝負でなく、コントロールする戦い方をするのはわかっていたから。」


「サラマンダー(大山椒魚)の特性、皮膚呼吸。薄いマナだったら、この子は、吸い上げて、自分のエネルギーに出来るんです。」


 いつの間にか、サラマンダークンが纏っていた炎が消えている。

 花びらが、吸収特化の体勢となったサラマンダークンに吸いこまれていく。


「ま、まずい!こちらも引っ張るであります!」


 オハナミは携えたビール瓶の口をサラマンダークンに向け、花びらを引っ張り合おうとするが。



「かかった!」


「カーロウさんの格好良い詠唱を借りて……!サラマンダークン!イグニッション&フルスロットルで!」


 炎が再点火する。

 サラマンダークンの全身からあふれ出すように、三倍の火力が噴き上がった。

 吸収した桜の魔力を燃料に、一点に集められた炎の奔流が──オハナミを貫いた。



 Aブロック第二試合、ポタル・ギムズの勝利。



 二試合続いての番狂わせに、観客席が、大きくどよめいた。





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