Ex4話 一回戦第一試合、ギラギラVSゲンキ!
――王都オルタナピア、競技場。
ポタル、サジ、オンは、観客席からAブロック第一試合を観戦しようとしていた。
第一試合はギラギラ・ゴールディング対ゲンキ・パープルオーガ。試合は、両者の入場を待つ段階にあった。
観客席は、ぐるりと競技場を取り囲むように配置されている。
「さぁサジ、この試合、どう見る?」
ポタルが尋ねる。
サジは、手元のパンフレットを見返し、大会のルールを確認する。
(ざっと改めて目を通すと……、主要なポイントはこのあたりか。)
【大会ルール】
・両者、召喚出来る召喚獣は一体ずつ。
・オッズが安い方が先攻。先に、召喚獣を召喚する。
・召喚士を直接攻撃することは禁止。
「そうだな……。オッズとランクだけを見れば、一見ギラギラ選手が有利に思えるけど……。」
一息ついて、続ける
「このランク差にしては、オッズの差が小さすぎる気がする。つまり、ズルい回答だけど、『わからない』かな。」
ポタルは一瞬驚いたように目を丸くし、頷く。
「ふふ、サジ、『わからない』って?それ、正解だよ。」
「あそこに居るオーガさんみたいな、王国ランクを持たない人……『お客さん』とか言ったりもするけど。」
「どうしてもアウェイだから、連戦連勝して優勝するのは結構難しいんだけど……少なくとも、E/eランクの高い参加費を払って、その上で予選を抜けて来てる人なんだよね。だから、大物食い(ジャイアントキリング)は、結構あることで……。」
「あの人にも、何かこの大会に出る理由や、計算があるはずだし。」
「あとね、『オッズが高いと後に召喚出来る』ってルールが、結構、先攻の召喚士の足を掬うこともあるんだ。」
そんなポタルの答えを聞いていたとき、不意に、サジの後ろから、聞き覚えのある声がした。
「えー!?ギラギラちゃんに勝って欲しいなー!」「ねっ、小人代表として!」
アーチとマーチの声。そしてその後ろにはロゼとソウン。<<薔薇と月>>のメンバーだった。
「騒がしくてすみません。こんにちは。」
ロゼが丁寧に挨拶する。
「我々も召喚術ビギナーとして、勉強しよう、ということで。観戦をね。」
「おー!いいですね、ぜひぜひ勉強して、大活躍して、ウチのお店の評判もあげちゃってください!」
ポタルは嬉しそうに笑う。
そのとき、場内にアナウンスが響く。選手入場の合図である。
両者が、競技場内部に入場する。広い戦闘用ゾーンを挟んで、対峙する。
ポタルとサジ、そしてオンは、競技場内に意識を集中した。三人の思いは、一つ。
(((自分たちの試合に向けて集中力を切らさないようにしつつ……)))
(((得られる最大限の情報を得て……)))
(((次の試合に、繋ぐ――。)))
◇◇◇
競技場内に、二選手が登場する。
サジの目にまず止まったのは、ギラギラ・ゴールディングだった。
いかにも「魔女っ子」と言うべきその外見は、三角の背の高い帽子に、ローブ、手袋、革の靴、そして箒。低い身長と、小人種族の頭身もあって、魔女っ子アニメの主人公のような風貌であった。ただ、サジの知るそれとは、明確に一つ違う点があり、それは……
(キンキラキン過ぎるだろ……。)
キンキンキンキンキンキンキン!
彼女が身につけている装備は、帽子、ローブ、靴、手袋、そして箒に至るまで、全てが金色に彩られていた。本来であれば、大きな身長のゲンキの方が先に目に付くはずなのであろうが、彼女の姿は、嫌でも観客の目を引いた。
ギラギラは、魔女らしく、箒の上に腰掛け、余裕を見せるかのように、地面に足をつけず、箒とともに浮遊していた。
「がんばれー!」「ギラギラちゃーん!」
アーチとマーチの応援の声が飛ぶ。
「[来なさい、キンネコ]!」
ギラギラが召喚したのは、ネコの形状をした召喚獣。いかにも、ギラギラの相棒として相応しく、金色一色を身に纏い、輝いていた。
◇◇◇
一方、後攻、ゲンキ・ゴールティング。紫色の肌をした、背が非常に高い、筋骨隆々のその体格は、ギラギラとは別の存在感、威圧感を放っていた。魔法ではなく、物理攻撃に特化した方が才能を発揮出来るのではないか、と誰もが思うであろう外見でもあったが。短く整えられた、こちらも紫色の髪を分けて生えている二本の角が、彼が鬼人種族であることを示している。
「[シマオニ、召喚]。」
低く通るその声に呼応し、巨大な鬼型の召喚獣が姿を表す。右手に、こちらも巨大な棍棒を携えている。もしも、この競技場に屋根があったならば、棍棒を振り上げた際にその屋根を突き破ったであろうほどの、圧倒的なサイズ。
王都召喚獣大会第一試合、対峙した二人の召喚士と召喚獣。対照的な、大と小、凸凹の戦いが、始まる。
◇◇◇
試合開始。
開始するやいなや、キンネコがシマオニに向かって真っ直ぐ走り出す。
キンネコの武器は、[キンネコパンチ]。接触したものを、金に変化させ、拘束するスキル。猫の持つ柔軟性と俊敏性を活かし相手に接近し、一度ハマってしまえば成すすべなく黄金像が出来上がる。凶悪とも呼べる召喚獣である。
そのスキルを知ってか知らずか、シマオニは棍棒で地面を正面から力強く叩きつけた。棍棒の衝撃が魔法のトリガーだったのか、2mはあろうかという巨大なトゲが、地面から連なってキンネコに向かって発生していく。さながら水切りのようなスピードで、トゲの道が出来上がる。そして、キンネコはそのトゲを躱したが――。
トゲの勢いは止まらず、そのままギラギラに向かって突き進む。召喚士に命中すれば致命傷となりかねないように見えるそのトゲは、ギラギラに――。
「ひゃあんっ!」
ギラギラは、命の危険を感じ、箒ごと後ろに飛び上がり、そして、箒から転落した。
トゲは、召喚獣の戦闘エリアギリギリいっぱいで、停止した。
「寸止めしたのか、あるいはあの距離で止まる設計か……いずれにせよ、かなり心理的に圧されたな。」
客席のソウンが呟く。
「ひどいよ―!オニー!」「本物のオニだもんね……」
アーチとマーチも言葉を失う。
その先の試合展開は、ゲンキの手中にあった。シマオニは、地面を棍棒でなんども叩きつけ、ステージにトゲを増やし、キンネコを追い込んでいく。たまらず、逆転を狙ったキンネコが、シマオニの懐に飛び込んだところで――。
巻き込むように振るわれた棍棒の、持ち手近くの根元部分がキンネコにクリーンヒット。ノックアウトを決めた。
――第一試合、ゲンキ・パープルオーガの勝利。
◇◇◇
「ふう。やっと着いた。」
『ゼロ(回戦敗退)から始める異世界(映り込み)生活』をすべく、ようやく競技場に辿り着いた、アロハシャツを着た二足歩行で小太りの青いトリ。
「お、『オニが勝ってる』な。」
彼は、ニヤリと笑うと、そう呟いた。




