Ex2話 エントリー!
――エンデュラン王国、王都オルタナピア、西地区にて。
ポタル、サジ、そしてオンは、ポタルの”王都召喚獣大会”応募のため、王都を訪れていた。
そのとき、サジの目に、本屋の店先の一冊の本が目に止まる。
「……えっ!?……なぁ、ちょっと止まってくれ、ポタル!俺、アレが欲しい、アレ!!」
サジが指を指したその先にあったのは、
タイトル:『異世界人でもわかる王国と王都』。
「……な、今の俺にピッタリだろ!?」
ポタルが答える。
「へぇぇ~、こんな本があるんだねぇ。いいよ、買っていこうか?」
そして、サジは、この本を手に入れた。店に積み重なっていた、召喚獣大会のチラシを栞代わりにすべく2枚ほど手に取る。
それを本屋でもらった袋に入れ、さっそく歩きながら読み始める。
◇◇◇
エンデュラン王国。
その王国の成り立ちは、情熱と忍耐を兼ね備えた勇者王、ヒート・エンデュランによって切り開かれた。
彼は、仲間である治癒・強化魔法の使い手ギミー・オルトロス、その弟である破壊・召喚魔法を得意とする魔法使いリダヒー・オルトロス、そして、前衛である女戦士シヴ・イニシアティとともに当時の魔王を打倒した。
初代の王、ヒートがその名を後世に残すことを許さなかった、『名も無き魔王』。その魔王は、主に三つの力で国を支配していた。
ひとつは、他者からマナを吸い上げる能力。ふたつに、吸い上げたマナを分配する能力。そしてみっつに、分配した量に応じてその相手を支配する能力。
これらの力によって、その地の人間種族や、魔法生物種族を広く支配していた。
ヒート、ギミー、リダヒー、シヴの4人は、その活躍で民衆を開放し、人望から多くの味方を得て、魔王を苦しめた。
ギミーが、補給を支えた。シヴが、前線で敵の進行を食い止めた。リダヒーは、魔法で多くの敵を屠りった。
ヒートは、彼の相棒の”聖剣”とともに、勇者の名に相応しく、魔王の「支配」を永遠に終わらせる最後の一撃を放った、と言われている。
◇◇◇
「ふーん。。。」
サジが、そうつぶやきながら、本を読みつつポタルとの距離が離れないように歩いていく。オンが、さらにその後ろにぴったりつけて歩いている。
「もー、本も良いけど、周りにも気をつけてよ~?もう半分くらいきたから、あと少しでつくからね」
ポタルに注意されるも、
「そうだな、気をつける」
と返事しながら、引き続き読み進めていく。
◇◇◇
ヒート・エンデュランは、魔王を打倒した後、その地を『エンデュラン王国』と名付けた。
彼は寛容な人物であり、人間種族の統治する国としては珍しく、魔法生物種族を差別せず、人間種族との共存による経済発展を目指した。
また、勇者の盟友であるそれぞれの人物も、魔王を打倒した後にも王国の発展に力を尽くした。
ギミーとリダヒーの兄弟は、それぞれ王国の東地区と西地区に拠点を構え、二人で「競争的協力」の役割を打ち上げて国家への貢献を行った。
ギミーは、政治的保守的な視点に立ち、政治家や役人候補を育成するとともに、彼の持つ回復魔法・強化魔法を伝導する役割を負った。
リダヒーは、ギミーとは逆に、革新的な視点に立てる人材や、彼の持つ破壊魔法・召喚魔法に適性を持つ魔法使いを育成した。
王都『オルタナピア』の名前は、そんな彼らの貢献に報いるために、初代王ヒートが提案し、民衆の支持を得て名前である。
このような背景から、王都オルタナピアにおける政治については、政治方針を保守、革新、中庸と揺らしながらも、長らく安定を保ってきた。
ギミーとリダヒーは、それぞれの姓を「ライト・オルトロス」「レフト・オルトロス」と改めると、それぞれが果たすべき役割を一生、さらに一族を賭けて演じ続けてきた。
彼らは、お互いの勢力が政敵であるにも関わらず、お互いの組織が発展のために協力することを惜しまない、稀有な体制を整えた。
片方の勢力に、『逆の勢力に向いた人材』が育った場合には、ライト家・レフト家間の人材を異動させることさえも、今日に至るまで、頻繁に行われている。
他方、戦士シヴ・イニシアティは、『前衛の矜持』を掲げ、あえて王都の外に拠点を構えた。これが現在のイニシアの街であり、王都の外にあるメリットを活かした拠点として、ある程度の発展を遂げている。
◇◇◇
(役割を演じる、か……。俺が元いた世界も、政治家は民衆にバカにされていたけども。ま、こういう側面もあったかもしれないな)
いつのタイミングからか、サジの懐に入って一緒に本を読んでいたオンとともに、うんうんとサジは頷いた。
そのとき。
――ビュオオオオオオ!
「あ、やっべ……っ」
サジの手元にあった、王都召喚獣大会のチラシが、突風によってサジから大きく空へと飛ばされていく。
「オン、ポタル、ああいうのって取れたり……しない?」
オンは静かに首を振り、ポタルが少し呆れて答えた。
「いや、まぁがんばれば取れるかもしれないけど……。サジが全力疾走して取りに行くのと同じで、ちょっとわたしは……恥ずかしい、かなぁ」
「そうだよな、いや、スマン。街の景観を汚してしまった。誰か、優しい人に拾って捨ててもらうことを祈るしかないな。」
(俺の不注意で、誠に、ごめんなさい。)
サジは、心の中で、静かに、この異世界に謝罪した。
◇◇◇
そして、風に乗ったチラシは舞い続けた。
しばらくして、王都西地区の、とある場所に落ちる。
(……ん?)
それを拾う人影が、いま、ひとつ。
「(王都召喚獣大会か、こんなものを拾ってしまうのであれば運命を感じるので)そら、そ(自分がこの大会に出るしかないん)やな。」
たった五文字の短い言葉に、長過ぎる思考を乗せるこの男。
クイダ・レフト・オルトロス。
皮肉にも、サジの行動がきっかけとなり――、
この男、クイダが、大会に、嵐を巻き起こす。




