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なろうモノ嫌いの異世界記  作者: 不連続がと
なろうモノ嫌いの異世界記

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14話 ヒーローならば曇れない。

「──ははっ!」


 魔王と化したフギリは、空間を震わせるほどの声で笑う。

 黒鉄の鎧に六枚の漆黒の翼。まさに魔王の風格をまとった姿。


 フギリは偽マナフォージ石の全てを取り込み、己の体を触媒として"蝕属性"を完全に支配した。


「どうしました? 召喚屋様。さっきまでの余裕はどこへ?」


 フギリが腕を振るうと、闇の波動が宙を走り、空間を揺るがす。


「[サモンドビースト・セカンド-シールドクン]!」


 召喚されたシールドクンが、相手の攻撃を受ける。

 シールドクンとポタルはその攻撃をしのぎ切ったが、周囲に浮遊していたマルチプル・サテライトクンが、全機消滅してしまった。


「…嘘…!化け物め…!」


「余裕はないけど、楽しんで、やるべきことをやるのが、ギムズ家の流儀!」


「[サモンドビースト・サード-タケミカヅチクン]!」

「[サモンドビースト・フォース-サラマンダークン]!」


 さらに二体の召喚獣が次々と生み出される。


 雷神のような剣士と、炎を纏う真っ赤なトカゲが召喚される。


「数を増やしても、私には届きません」


 フギリは静かに腕を持ち上げる。

 瞬間、黒いマナの奔流が召喚獣たちに襲いかかる。


 バチィンッ!! 一体目、雷剣の剣士が弾き飛ばされ、消滅。


 ドゴォォンッ!!二体目、炎を纏う大トカゲが防御を試みるも、黒の波動に飲み込まれ砕け散る。


「……っ、これ、本気でヤバいかも…!」


 いつも余裕たっぷりなポタルの声が、かすかに震えている。


 サジは、初めて見た。"天才"が、本気で焦る姿を。


 フギリの"魔王"は、まさに絶対的な存在だった。


 ──これは、もう勝てないかもしれない。


 ポタルの指がかすかに震え始めた、そのとき。


 ◇◇◇


「……このへんが、大人として、”やるべきとき”かな。」


 サジは、ゆっくりと歩を進めながら言った。


「……え?」


 ポタルが、驚いたようにサジを見る。 フギリも、眉をひそめた。


 サジの掲げる手には、赤い光を帯びる小さな魔石──犠牲の魔石が握られていた。


「なんですか…?それは…?」


 フギリの声が若干、曇る。

 サジには相変わらずマナの感覚が無いのでわからなかったが、この魔石が異様なマナを放っているのかもしれない、と思った。


 サジが語る。


「犠牲の魔石…かつて、ハーピーやサキュバスたちが作った遺産。」


「四肢や、五感、あるいはそれに準ずるものを犠牲にすることで、普段の100倍近い威力の魔法を出す事ができる。」


「彼女たちの祖先が、操った人間をそのまま武器として扱おうとすることを検討したために生まれた、とんでもない代物さ。」


「ほほう、しかし、残念でしたね。あなたが四肢や五感を捨てて全力の魔法を放ったとしても、あなたのマナ出力では、私には届かない。寿命を縮めるだけですよ」


 フギリがこう否定するが、サジは続けた。


「魔王、あんたは2つ間違っているよ。」


「まず1つは、俺が犠牲にするのは五感の外、"第六感"だ。つまり、”魔法を使えること”を捨てる。」


 ポタルが息を呑んだ。


 フギリの笑みが、わずかに崩れた。


「サジ……!?」


「…魔術士として、死を迎えるということですが、よろしいのですか?」


 サジは、魔石を握りしめた。


「……いや、よくはないかな。そりゃあ、名残惜しいさ。」


 一瞬、手が震えた。


「でも──。……けどさ、俺はもう、"やるべきこと"をやるって決めてたんだ。」


 サジは笑ってみせたが、ポタルの手がわずかに震えているのも目に入った。


 サジは続けた。


「そして魔王が間違ってることがもう1つ、俺は自分であんたとはケリをつけない。」


「俺が代償として放つのは、強化魔法、[地の強化]。」


 パチン。ゴゴゴゴゴオオオオオオォォォォッ!!


 魔石が砕けると同時に、サジの手が輝いた。


「いくぞ。[地の強化]──最大限界出力。俺に出来ることの100倍を、こいつに乗せる。」


 犠牲の魔石の効果により、通常1.5倍の強化魔法が、150倍の強化へと変貌する。


「……ですが、誰にそれをかけるのですか?」


 フギリが嘲笑する。


「召喚屋様には、そんな強化を受けられる耐久力はないかと」


「……いや。」


 サジは、封じていた[大地の球]を解放した。


「うちにも、"魔王"がいるんだよ」


 ヒュー、ボトン。

 黒曜石のような光沢を持つ小さな体が、天井から地面に降り立つ。


「……オン」


 ポタルが呆然と呟いた。


「オンは、蝕属性のマナフォージ石を依り代として、地属性の俺のマナから生まれた使い魔。」


「 "蝕"の力を持つがゆえに、マナの強化を受けて、容量を無限に広げられるとともに、自分より弱い"蝕"の力を喰らうことができる。」


「あんたが教えてくれたことだ。」


「そして、俺の使い魔だ。俺の[地の強化]も、受け取ってくれる。」


 サジの、[地の強化]のマナがどんどん膨らんでいく。


 サジは、全身から、全てのマナが、不可逆的に、手元に吸収されていくのを感じた。



 これで、魔法との付き合いも終わりか。

 そうか。

 俺、魔法使いとして、色んな魔法を使うの、実は結構、本当に、楽しかったんだな。

 ポタル、色々教えてくれてありがとな。

 だけど


 ──魔法っていうのは、


 ────子どもと、


 ────────絵本のヒーローのためのものだからな。



 サジの手から、100倍に増幅された魔法が放たれる。


 そして、[地の強化]を受けたオンは──



 グググググゴゴゴゴゴガガガガガガ……!!!



 オンの体が漆黒の炎をまとい、その漆黒の炎が大きくなりながら燃え盛る。


 通常であれば考えられないほどの速度で、そして大きさに。


 1m,2m,3m,4m,5m,6m。

 目で測ることが出来ないサイズまで、炎が巨大に膨らんでいく。


 炎の内部に見える黒い輪郭も、合わせて超巨大な龍の姿へと膨れ上がる。


 その紅蓮の瞳が開かれた瞬間──世界が震えた。



「──グギャアアアアアアアア!!!!!!」



 咆哮とともに、巨体が天を衝く。爆風と呼んで差し支えない、強い、長い風が吹く。


 その龍のサイズは、フギリの"魔王"の数倍を優に超えていた。


 建物は既に貫かれ、壊れ、空が見える。


 崩れてくるガレキから、ポタルのシールドクンがサジとポタルを守ってくれている。


「──バカな……!私が間違っていたとでも…?」


 フギリが狼狽する。


「あんたが間違っているかどうかは、俺にはわからない。」


「“勝ったほうが正しい”ってのが、いつだって、理屈だよ。」


 オンの圧倒的な力を目にしながらも、なんとか冷静さを保って、サジは答える。


 魔王を喰らう"魔龍王"、とでも呼べるだろうか。

 サイズだけで見ても圧倒的な力が、魔王を蹂躙する。


 ポタルが叫ぶ。


「オン、いけぇぇぇぇぇ!!」


 オンが、魔王へと襲いかかる。


 巨大なツメが、魔王の鎧の体に突き刺さる────!


 マナが四散し、そして、オンに吸収される────。


 そして、────全て、終わった。


 ◇◇◇


 魔王の魔力が全て消えたあと、オンもまた、小さな元のサイズに戻った。


 フギリも、人間に戻った。気を失ってはいるが、死んではいないようだ。


「────ふぅ、終わった、やったな。」


 サジがポタルの方を見ると、ポタルが驚きに満ちた表情をしている。


「えっ……!?ちょ、待って、サジ!?なにそれ!?」


 ポタルが、すがるような目でサジを見ている。


 ──ああ。


 気づくと、サジの体からは光の粒が発され、手が、足が、透明になり始めていた。


(……あー、やっぱり、そういうやつか。うんうん、こういうやつな。なんとなく、わかる。現代に帰るときがきたのか。)


 サジは続けて自嘲する。


(いや、普通は、ラスボスを倒したらな。もうちょっと、余韻とか、戦勝会とか、ウイニングラン的なモノがあってもいいでしょ。とは思わないでもないが。)



 だが、別れのときならしかたない。

 ポタル・ギムズには、悲しい顔は似合わない。

 色々と────頭を巡る思い出はあるし、涙も出そうだが、ぐっとこらえて、笑って別れなくては。


 サジは、胸を叩いてから、拳を突き出した。


「ポタル!やるべきこと、やれたよな!楽しかった!」


 と、笑顔でグータッチを求める。


 ポタルは、まだ、呆然としていたが、我に返ると


「うん!」


 と笑ってグータッチを返した。


 二人の拳は、確かに触れた。


 そして。



 尾張匙(オワリ サジ)は、その「異世界」から、消滅した。

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