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なろうモノ嫌いの異世界記  作者: 不連続がと
なろうモノ嫌いの異世界記

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14/28

13話 やれるかどうかはわからない。

 ギュンッ──!


 眼前を横切る鋭い風圧。


「くっ……!」


 サジは反射的に地面に伏せ、目の前を駆け抜ける影を目で追った。

 フギリが、空を飛んでいる。否──飛んでいるというよりは、跳ね回っていると言った方が正しい。


 ドームの壁に埋め込まれた十二個の偽マナフォージ石。それらが黒く脈動し、フギリの体へと12本のマナの線を伸ばしている。

 その線がまるでワイヤーアクションのように空間を繋ぎ、フギリはそれを利用して超高速で移動していた。

 一瞬で壁から壁へ、天井から床へ。


 視界に捉えたかと思えば、次の瞬間には背後に回り込まれている。


(……やばい、これはマジで手に負えない。)


(超高速でジジイが飛び回るのはシュールだな、とか。)


(俺だったらあんなにGが掛かったら吐きそう、とか。)


(お、それじゃああいつはGジジイだな、とか。)


「余計な事を考えている余裕はないな。」


「ふふ……驚きましたか?」


 フギリは余裕の表情を浮かべながら、宙を滑るように移動している。


「マナフォージ石が織り成す"蝕属性"の恩恵……これこそが、私が"魔王"として君臨するための力なのです」


 フギリの体に繋がるマナの線は、彼が動くたびにしなやかに伸び縮みし、次々と彼を高速移動させる。


「ふふふ……この速度についてこられますか?」


 ──いや、ついていけるわけがないだろ。


 サジの目が追いつくギリギリの速度で、仮に追えたとしても、攻撃が当たるとは思えなかった。


「……なぁ、ポタル」


 サジは隣にいる"天才"に呼びかけた。


「これ……どうする?」


「んー……確かに速いねぇ」


 ポタルは目を細め、フギリの動きをじっと見つめる。


「でもねぇ、速さなら……私だって特訓してたんだから、負けてないよ♪」


 ポタルの体が淡く発光する。


「[サモン-フェザーウィング]」


 ポタルの背中から、今までにも何度か見た、半透明な光の羽が展開された。


「……!」


 羽ばたきとともに、ポタルの体がふわりと宙に浮く。


「よーし、こっちも本気で遊んでみようかぁ♪」


「[サモンドビースト-マルチプル・サテライトクン]!」


 ポタルの回りに、球体の機械のような召喚獣が、こちらは8機展開される。

 次の瞬間、ポタルの体が弾けるように飛び──フギリと同じ速度域で空間を駆けた。


「なっ──!」


 サジの目がギリギリ追いつかなくなった。

 と本人は思っているが、僅差でなく、追いつかなくなっている。


 本体と魔法が高速で打ち合い、光の軌跡が交差し、空中で何度も衝突音が響く。まるで戦闘機同士の空中戦。


 マルチプルサテライトクン8機は、防御壁を展開したり、レーザー砲を放ったり、ポタルを回復したり。せわしなく動いている。


「やばい、俺、完全に置いてかれてる……!」


「……オン。」


(そうだ、オンがいるじゃん。)


 フギリの蝕属性のマナ吸収能力がある以上、同じく蝕属性を持つオンをむき出しで戦わせるのは危険だと、サジは気付いた。


 サジは[大地の球]を展開し、オンを包み込むと、[地の駆動]を発動。


「控えててくれ!」


 丸い土の球が、壁の偽マナフォージ石の間を滑るように走り抜け、オンを天井付近へと逃がす。


 これで、吸収される心配はない。


(……あっ──そうか、壁の石だ。)


 フギリの速度の源は、十二個の偽マナフォージ石。それが彼にマナを供給し、さらにマナの線で彼を高速移動させている。


(なら、あれを壊せば……!)


 サジはすぐさま[大地の球]を発動。


「[地の駆動]!」


 球を壁のマナフォージ石へ向けて発射する。


 しかし──


 ゴンッ!


 ──傷一つつかねぇ!?


 マナフォージ石には微塵のダメージも入っていない。


 そのとき、サジの脳裏にゴーレム戦の記憶がよみがえった。

 本体が固くて壊せないなら、周りを動かせば…!


 宙で激しい戦闘を繰り広げながら、ポタルもサジの意図を察する。


「固くて壊せないなら……"繋がり"を切っちゃえば、ね?」


 フギリとマナフォージ石を繋ぐマナの線は、常に彼の体に流れ込んでいる。


「つまり、それを断ち切れば……!」


 サジはすぐさま、[地の駆動]を利用し、壁のマナフォージ石の周囲の壁を剥がしにかかる。

 

 [地の駆動]を壁の石に向けて走らせる。石の周りを数字の9のように駆動させ、石を壁の繋がりを、壁側から、断つ……!」


 ゴゴゴ……ッ!!


 石そのものは壊せないが、周囲の壁が崩れれば接続が乱れるはずだ。

 コンセントが抜けた、電化製品のように。


 ガンッ!ゴトンッ! 


 壁の石が、1つ落ちる。


 今まで、ポタルの方しか見ていなかったフギリが、ほんの少しサジへと注意を向けた。


「……なるほど、そういうことですか」


 フギリの顔が笑う。


「あなたの方は、取るに足らないと思っていましたが……なかなかどうして、機転が効きますね。たいしたものだ。」


 フギリはゆっくりと息を吸い込むと、ワイヤーのように繋がるオーラを使い、自ら壁に残る11個の黒いマナフォージ石を全て取り出し、引き寄せた。


「……私も、本気を出さねばなりませんね」


 彼は、その黒い石と、床に落ちた石、合わせて12個を全て吸収する。


 ──ズズズ……ッ!!


 12個のマナフォージ石がフギリの体にめり込み、全身から黒い雷のような光が弾ける。まるで空間そのものが歪むような異質な魔力。そして──。


「……っ、これは……!」


 ポタルが珍しく、焦ったような声を漏らす。


 フギリは自らを触媒かつ呼び主とした使い魔となり、偽マナフォージ石の力を暴走させた。


 禍々しい黒鉄の鎧に身を包み、その背からは六枚の漆黒の羽が生えている。



 鎧の魔王が生まれた。


(デカいな。3mくらいあるか。魔王というよりは、”暗黒騎士”というような見た目だが…。)


「……ポタル?」


 サジは、隣の"天才"の表情を見た。


(……まずい。)


 ポタルが、今までに見たことのない、わずかにだが、苦い顔をしている。


 つまり──今までのフギリとは、次元が違う相手になったということだ。


「……"魔王"の誕生です」


 フギリの声が響く。その瞬間、研究所全体が震えた。


「……これ、どうする?」


 サジは、ポタルを見た。


 ポタルは数秒の沈黙のあと──ニヤリと笑った。


「……ぶっちゃけ、あっちが格上かもね。」


「でも、逃げられないなら、やるしかない」


 サジとポタルは構えを取る。

 ──魔王第二形態戦、開始。

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