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なろうモノ嫌いの異世界記  作者: 不連続がと
なろうモノ嫌いの異世界記

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11/28

10話 美味い話は、ない。

「サジ、お客さんだよー!一緒に話を聞こうー!?」


 外で[地の駆動]の練習をしていると、ポタルが呼び声が聞こえた。


 店の入り口に立っていたのは、赤い装甲を身にまとった人型の存在だった。

 金属質の体、精巧な関節、そして機械のような光を帯びた目。

 機械人(アンドロイド)である。


「へぇ……そういうのもいるんだな。」


 思わず感想を漏らしてしまう。サジのいた世界であれば、どちらかというとSFの存在である。


(けれど、この異世界では、ファンタジーの技術と融合した存在として、普通に"冒険者"として活動しているらしい。)


「俺はカーロウ。ソロで冒険者をやっていル。王都でのランクはBダ。」


 電子音混じりに感じるような、低く響く声。


「召喚屋ギムズに相談があって、訪ねてきタ」


 カーロウは、ゴツゴツした手のひらから、漆黒の石を取り出した。


「俺は、こいつの正体を知りたイ」


 ポタルが目を丸くする。


「……これは?」


「"新型"だというマナフォージ石ダ。安価で手に入ったものだが……どうにも気になル」


 マナフォージ石って何?――

 おそらくこの世界では常識であろうことを、素直かつストレートに聞いてしまったサジだが、ポタルもカーロウも面倒見が良く、細かく説明をし始めた。



 マナフォージ石――マナに対する"炉"のような機能を持ち、マナを動いた状態で保持することができる魔法具。

 簡単に言えば、「魔法の燃料タンク」を増設するようなもの。


 この世界にとっては重要なアイテムであり、冒険者のマナ容量を増やしたり、他にも色々用途があったりして広く利用されている。らしい。


 サジはそう理解した。


「これが本当に新型のマナフォージ石なら、俺の戦闘に大きく貢献するはずなんだガ……」


 カーロウは腕を組みながら言う。


「ただ、どうにも安すぎル。妙に怪しイ。」


「なるほど。確かに『格安の新型』なんて、胡散臭さ全開だ。」


(俺のいた世界でも、ありえない価格の商品は大抵偽物か、何か裏があるものだった。でも100均は好きだけどね。)


 ポタルは石を手に取り、慎重に観察する。


「うーん……不思議な石だねぇ……」


「わかるカ?」


「いや、まったく!」


(……まぁ、そういうこともあるだろう。)


「でも、興味深いねぇ。初めて見るタイプだから、研究のしがいがありそう!」


「……研究対象としては楽しそうってことカ」


 カーロウは小さく頷く。


「ともかく、俺はこいつを使って、実戦で確かめてみル」


 その言葉に、ポタルが頬に指を当てて考え込む。


「まぁ、止める権利はないけど……くれぐれも無茶しないようにね?」


「了承しタ。」


 こうして、カーロウは新型マナフォージ石を携え、次のクエストへと向かっていった―。


 ◇◇◇


 戦闘開始――。



 クエストの対象は、Cランク相当のモンスター、エレメンタル。


 魔法属性が結晶のように固まった生命体。無機質な外見ではあるが、周囲のマナを吸収して生存するため、ある程度の防衛・戦闘能力を備えている。

 それら、5体ほどの群れの討伐。


 カーロウほどの実力者ならば、多少の苦戦はするかもしれないが、問題なく片付けられる……はずだった。



 サジは後になってから聞いたことだが、カーロウの戦闘スタイルは、自己強化型。

 まず、自身に強力な魔法[イグニッション]をかけ、全身を炎のオーラで包み、攻撃力を飛躍的に高める。



 次に、こちらも強力な魔法[フルアクセル]を発動し、身体能力をブースト。

 その上で、バフを維持する効果の弱い魔法[アクセル]と、こちらもマナ消費が軽い、弱い自己修復魔法[リペア]で戦闘を維持する。


 ――というのが、カーロウの定番の戦法。


 事実、序盤はカーロウが敵のモンスターを圧倒していた。


「すごいねぇ、あの火力とスピード、真正面から当たったら、わたしも勝てないかも。」


「マナの容量があの能力の維持時間に直結するわけだから、多少怪しい物でも試したくなるのも、しかたないかもね。」


 サジと一緒に、離れたところから見ていたポタルが感心する。


 せっかく相談されたのだから、何かあってはいけないと、一応カーロウにも許可を取って、邪魔をしないという条件で着いてこさせてもらっていたのである。


 しかし。2体ほど倒したところで、異変が起きる。


「……ン?」


 弱い魔法が発動しない。

 通常なら、[アクセル]や[リペア]で戦闘を持続するはずが――


「吸われていル?」


 黒いマナフォージ石が、カーロウの弱い魔法を"吸収"している。

 回復も、バフの維持もできない。

 端的に言えば、ピンチである。つまり、カーロウは強力なバフを何度もかけ直さなければならなくなる。


 黒いマナフォージ石を投げ捨てる?

 いや、そうもいかない。相手にしているエレメンタルは、その”魔力のタンク”を最も有効に活用出来る存在だからである。


 結果、マナ消費が爆発的に増加し――3体目まで倒したところで


「……まずいナ」


 マナが切れる。

 次第に[イグニッション]と[フルアクセル]の効果が薄れ、ついには完全に魔力が尽きてしまった。

 

 バフも魔力も切れたカーロウは、一瞬で動きが鈍くなり――、モンスターの一撃が、彼の胸部装甲を貫こうとする。


「おおおおい! 大丈夫!?」


 遠くから様子を見ていたポタルとサジは、慌てて駆けつけた。


 ポタルが、魔法で生やした半透明の羽で、猛スピードで飛んでいく。

 サジは、あっという間に置いていかれた。


「あれ?」

(ポタル、時間があるときかなり頻繁にあの羽のやつをやってるけど、なんかめちゃくちゃ速くなってないか?)


「[サモンド・ビースト-シールドクン]!!」


 ポタルが召喚したのは、盾に目と手と足の生えた、ゆるキャラのような召喚獣。

 見た目からするに、守りに特化したものなのは一目瞭然の召喚獣である。

 シールドクンが、敵の攻撃を弾く。


[地の駆動]!!


 [地の駆動]とサジの全力ダッシュで、遅れてポタルに追いつく。

 動く歩道の上を走るような構図になり、バランスが取れず少しカッコのつかない走り方になる。


(まぁこの際そんなことはどうでもいい。)


 カーロウの近くまでたどり着く。


(とりあえずカーロウを逃がさなければ。もう一回。)


「おい、大丈夫か。[地の駆動]!!」


 カーロウとサジを乗せて、地面が走り出す。なんとか危機からは脱する事ができた。

 残るモンスター2体の視線は、ポタルに集まる。


「[サモンドビースト・セカンド-タケミカヅチクン]!!」


 剣を持った雷神のような召喚獣が召喚される。


 カッコイイな、とサジは思った。


(ただ、なんとなく、シールドクンとはいまひとつ、絵柄というか、バランスが合っていない気もするが。)


 だがしかし、タケミカヅチクンは強かった。


 強烈な雷を帯びた刃が一閃する――!


 ◇◇◇


 ――そして。


 クエストが終わり、カーロウを引き連れて、サジとポタルはギムズ召喚屋に戻ってきた。


「……助かっタ。済まなイ」


 カーロウは息……というのかわからないが、とにかく体を上下に揺らしてリズムを整えながら、サジたちを見た。


「どうやら……このマナフォージ石、少なくとも俺にとっては、ハズレだったらしいナ。」


「ポタル、礼を言ウ」


「いいよいいよ! 無事でよかった♪」


「それと……この石を、お前にやル」


 カーロウは、例の黒いマナフォージ石を差し出した。


「俺には不要ダ。だが、お前なら有効に使えるかもしれン」


「……! ほんと!? いいの!?」


 ポタルの目が輝く。


「マジかよ……欠陥品じゃないのか、持って帰るのか?」


 サジが呆れて言うと、ポタルは「当然!」とばかりに笑った。


「こういうのって、調べるのが面白いんだよ~♪ きっと、何か裏があるはず!」


「あ、あとね、召喚屋としては、お客様が触る可能性があるものは、ちゃんと知っておかないと!お仕事への、責任!」


 いかにもな付け足しをするポタル。


 ポタルは黒いマナフォージ石を大事そうに抱えながら、目をキラキラさせていた。

 ――こうして、召喚屋ギムズはまたひとつ、新たな"謎"を手に入れたのだった。



 ……この石が、後にとんでもない事件に繋がることを、この時のふたりはまだ、知らない。

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