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畢生賛歌  作者: しちく
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夜明けの音

朝靄に包まれた街並みの中、警笛が遠くから聞こえてきた。夜が明け始めた頃合いだ。


沙織は薄暗い路地裏に佇んでいた。冷たい石畳に座り込み、ぼんやりとした目で前方を見つめている。両手はひざに乗せ、まるで誰かを待っているようだった。


路地の向こう側からは時折、酔っ払いの歌声が漏れてくる。夜の街はいまだ眠りから覚め切れていないようだった。


それでも、沙織の意識は覚醒していた。はっきりと頭の中で起きた出来事が反芻されていく。ゆっくりとした時間の流れの中で、気づけば深い檻の中に閉じ込められていた。


檻の外には知らない人々の群れが見える。みんなゆっくりと通り過ぎていく。誰も気づかない。誰も助けは呼ばない。檻の中で孤独に遭遇する。


どれほどの時間が経ったろうか。やがて群れはわずかとなり、空気が冷たくなってくる。そうして夜が明けていく。


その時、沙織は我に返った。目を大きく見開きながら、自分が路地裏に座り込んでいることに気づく。あの恐ろしい檻は消え去っていた。


衝撃と戸惑いが交錯する中、沙織は立ち上がり、よろめきながら歩き出した。夜の街から朝の街への移り変わりを感じながら、ただ無我夢中で進んでいく。


やがて見知らぬ町並みに出た。まだ朝靄が街路樹の間を漂っていた。誰もいない路上をひたすら歩き続ける。


太陽が昇り始め、雲が晴れ渡る中、沙織はようやく立ち止まった。公園の遊具の下に佇み、ベンチに座り込む。


頭の中がぼんやりとしてきた。「あれは何だったのだろう」と自問自答しながら、沙織は遥か彼方を見つめた。


夢か、それとも現実か。もはや区別がつかなくなっていた。ただ、恐ろしい体験をしたことは確かだった。


人々が次第に公園に現れ始める。普段の生活に戻っていく人々の群れを眺めながら、沙織は自分の存在を確かめた。


私はここにいる。この瞬間を生きている。そう自覚することで、恐怖が少しずつ薄れていく。


そうしてまた新しい一日が始まろうとしていた。沙織は静かにベンチに座り、朝日に透かされた公園の風景を見つめていた。

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