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畢生賛歌  作者: しちく
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消えた夢

私は遠い昔、幼い頃から夢見ていた。大きな夢を。

両親は貧しかったが、愛情深く、私を何事にも熱心に育ててくれた。勉強を怠けるとしっかり注意してくれ、どんなときも私の夢を応援してくれた。


「将来は偉い科学者になって、世界を変える新しい発明をするんだ」


そう言って、父は優しく頭を撫でてくれた。母は誇らしげな表情で、私を励ましてくれた。

私の夢は科学者になること。新しい発明で人類に貢献したかった。エネルギー問題や難病の克服、宇宙開発に貢献できる発明を。そんな大きな夢を抱いていた。


それに向けて、中学、高校と熱心に勉強した。成績は常にトップクラスで、教師からも賞賛の言葉を送られた。

そして念願の国立大学の理学部に合格した。喜びで胸が高鳴った。親もとても喜んでくれた。


「頑張れば夢は必ず叶う。信じて進め」


父は力強く言った。母の目からも嬉しい涙が零れた。

大学に入学し、物理学や数学、そして様々な理工学の専門科目に没頭した。講義を離れれば実験や研究に精を出した。


そのように過ごした学生時代。夢への第一歩を着実に踏み出せた充実した日々だった。

卒業が近づくにつれ、就職活動が本格化した。大手メーカーや電機会社に受かれば、夢に近づける可能性が高かった。


しかし、厳しい就職戦線で次々と不合格を重ねた。どの企業でも最終面接で落とされた。研究者として採用されることはかなわなかった。


「すみません。能力は十分にありますが、人物評価で残念ながら不適格と判断されました」


そう面接官に言われ、度重なる落胆に心が折れそうになった。夢への希望が遠のいていった。

やがて、中小の設計事務所に就職することとなった。夢とはかけ離れた仕事だった。


「もうあの頃の夢はあきらめた方がいい。この仕事は決して夢じゃないけど、あきらめたりしないで歩んでいけばいつか。。。」


そう自分に言い聞かせた。でも、いつの間にか夢は遠のき、見失っていた。

就職後10年が過ぎた今、夢はもうとうに消え去っていた。ただ、朝早くから夜遅くまで頑張って働くだけの、地味な日々を過ごしている。


かつての夢を胸に抱いていた頃の情熱のようなものは、もうなくなっていた。そして親は亡くなり、夢を実現する機会も完全になくなってしまった。


ただ、夢が消えたあの日のことを、今でも鮮明に覚えている。

あの日の失意と虚無感は、一生忘れられない思い出となっている。 夢は、あれほど輝いていたのに、いつの間にか消えてしまったのだ。


夢を諦めたきっかけは、あのとき雲散冴散となった希望だったのかもしれない。

ただ、今ももし機会があれば、少しでも夢に近づけたら。。。そんな風に思うことがある。

昔抱いていた夢は、もう遠い過去のものとなってしまった。でも、私の中に、かすかにでも夢の名残が残っていることを願っている。

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