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幼馴染が魔王/勇者でした。  作者: 夕藤さわな
10.団円編

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10-09 今、幼馴染で親友の二人は――。

「リカ……リカ! わかるか、リカ!」


「……ジー、君?」


 ぼんやりとした視界に幼馴染で親友の顔を見つけてベッドの上のリカはほっと安堵の笑みをもらした。ジーの首には包帯が巻かれている。顔のあちこちにもガーゼが貼られている。ジーの治療も終わっているらしいと察して安心したのだ。


「……ここは?」


「魔王城の医務室だ。……切られた右腕は王都に置いてきてしまってな。元には戻せなかった。すまない」


 あいかわらずの淡々とした表情だけれど心の中では落ち込んでいるのだろう。肩を落とすジーを見てリカはゆるゆると首を横に振った。


 ラレンが開いたワープポータルによってジーとリカが魔王城に避難してから三日が経っていた。

 そのあいだに魔王城の医師たちから治療を受け、リカの右腕の傷はすっかりふさがった。ジーも首や額の治療をしてもらい、そのあとは意識を取り戻さない幼馴染で親友のかたわらにずっと付き添っていた。

 でも、そのことをリカが理解するのはもう少し時間が経ってから。


「……ジー君、怒ってる?」


 まだ本調子にはほど遠いのだろう。まぶたを開けていられなくて目を閉じたリカは弱々しい声で尋ねた。


「怒る? 私が?」


「頭に血が昇っていたとはいえ大勢の人を殺そうとした、から」


 リカの中では王都での出来事はほんの数時間前のことなのだろう。

 魔族と人族のハーフであるリカに怯える医者たちを説得したり、治療の話をしたり、これまたやっぱり怯える使用人たちに自分の幼馴染で親友で、魔族に害をなそうとはしていないことを説明したりでこの三日間、てんやわんやだったジーは〝そう言えば、そうだった!〟とハッとした。

 あいかわらずの淡々とした表情なので顔には出ていないのだけれど。


 ジーは右に左にと首をかしげて考えたあと、結局、ゆるゆると首を横に振った。


「怒っていない。怒るべきなのかもしれないが……あのとき、怖いと……私も思ってしまったからな」


 そう言ってジーは右手で自身の首に巻かれた包帯に、左手で二の腕の途中からなくなっているリカの右腕に触れた。薄目を開けたリカと見つめ合い、二人はそろって困ったように微笑む。


「……オリーとバラハ、ラレンは?」


 リカが弱々しい声で尋ねた。


「三人は王都に残った。……ラレンに言われた。いつか魔族と人族の親交を復活させる。だから、それまでリカのことをしっかり守ってほしいと」


「ラレンがそんなことを……」


 驚いたように目を見開いたあと、リカは目を伏せた。悲し気にも罪悪感に押しつぶされそうにも見える表情にジーは首をかしげた。


「リカ?」


「僕はずっとジー君のために旅をしてきた。人族の国のどこかで暮らしているだろうジー君を守りたくて魔王を倒すための旅をしてきた」


 疲れた様子で目を閉じ、ぽつりぽつりと話すリカの言葉にジーは静かに耳を傾ける。


「でも、いつの間にか僕は変わってしまっていたのかもしれない。ジー君のためだけじゃなくて……オリーやバラハ、ラレンとの旅を……楽しいと思っていたのかもしれない。いっしょにいられることを、うれしいと……思っていたのかもしれない」


「……そうか」


 そう答えてジーはリカの銀色の髪をそっとなでた。子供の頃よりもずっと大きくなった手で涙が浮かぶリカの金色の瞳を覆い隠す。


「リカに大切な仲間ができたことを私はうれしく思う」


 本当は少しだけさみしい気持ちもある。

 でも――。


「幼馴染で親友の十五年間が孤独で辛いばかりではなかったことをうれしく思う」


 そう思う気持ちも――。


「数日間だけだったが私も仲間に入れたことをとてもうれしく思う」


 そう思う気持ちも本当だ。

 幼い子供に物語を読み聞かせるように、ジーはリカの胸を布団越しにトン、トン……と叩く。

 そして――。


「リカ、傷がすっかり治って体力が戻ったら私を手伝ってくれないか」


 そう言った。


「手伝う?」


 唐突に話題が変わったことに目を丸くするリカの顔をのぞきこんでジーはこくりとうなずいた。


「私は今まで魔王城に仕える者たちや魔王領に暮らす者たちを怖がらせないように、怯えさせないようにとできるだけ顔を合わせないようにしてきた。自分の部屋や魔王の間に引きこもって過ごしてきた」


 魔族は人族が思っているような暴力的な種族ではない。本来は臆病で争いを恐れる種族だ。魔族よりもよっぽど好戦的な人族のことも魔族たちは恐れ、避け、近寄らないようにしてきた。

 半分は人族の血を引くジーのことも、だ。


「でも、ラレンはいつか魔族と人族の親交を復活させたいと言っていた。私もそれを望んでいる。だから、その日のために……ラレンたちが会いに来てくれるいつかの日のために、少しでも魔族たちの〝人族は怖い〟という印象を変えたいんだ」


「……」


「魔族と人族のハーフである私とリカだからできること……だと思う。だから、リカ……」


 言葉を切ってジーはリカに向かって手を差し出した。隻眼の赤い瞳で、金色の瞳を真っ直ぐに見つめる。

 あいかわらず淡々とした表情をしているけれど心の中ではこれからやろうとしていることを想像して、魔族たちの反応を想像して、不安で今にも泣き出しそうになっているのかもしれない。

 赤い瞳が小刻みに震えているのを見て、差し出された手が震えているのを見て、リカは何かを言いかけて――結局、その言葉は飲み込んで微笑んだ。


「もちろんだよ、ジー君。ジー君のためなら僕はいつだって、どんなことだってするよ」


 あるところに長く対立する二つの種族――人族と魔族とのあいだに生まれた二人の子供がいた。ほんの一瞬の邂逅ではあったけれど二人は深い絆を結び、幼馴染となり、親友となった。

 それから十五年の時が流れ、二人は魔王城で再会した。


 片や、人族を守る勇者として。

 片や、魔族を従える魔王として。


 青年となった二人の子供は敵同士として相まみえる――ことはなく。

 ほんの一瞬の邂逅を果たしたあとに別れ、そして再びの再会を果たし、勇者となった青年の仲間と共に旅をした。人族の国の王都で互い思い合うがゆえに一度は相まみえることにもなったが、今――。


「約束する。ジー君の望みが叶うまで、ジー君の不安や恐怖がすっかり消えてしまうまで、僕は絶対にジー君のそばを離れない。絶対にこの手を離したりはしないから」


 幼馴染で親友の二人は再び共に手をたずさえ、歩み始める。


「だから、いつかラレンとオリー、バラハが会いに来てくれるその日までできる全部をやろう。ジー君と僕と、二人で」


「ああ、リカと私と――二人で」

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