10-06 しっかりしろ、クソ魔王!
「早く止血しないとリカが死んでしまう! そんなことよりも先に治療をしないとリカが……リカが……!」
「そんな……こと……?」
ジーの言葉をオウム返しにしてリカはポカンと口を開けた。
リカが今、やろうとしていることは王都の破壊。王都にいる人々の大量虐殺。いずれは人族すべてを虐殺しようとしているのだ。
それをジーは〝そんなこと〟と言った。言い切った。〝そんなこと〟と言い切ってリカの右腕へと――二の腕の途中から千切れてなくなってしまった腕へと手を伸ばした。
ラレンが魔力切れを起こすまでかけまくった治癒魔法のおかげで一度はふさがりかけた傷がまた開いていた。
「……僕はジー君から左目を奪ったヤツに腹を立ててるよ」
あいかわらず淡々とした表情をしているけれど血がにじむ右腕におろおろとしているらしいジーを見てリカはぽつりとつぶやいた。
「困っているジー君を助けず、ジー君からお母さんを奪ったヤツらに腹が立つ」
リカの右腕に手を伸ばし、触れようとしては引っ込め、それでもまた伸ばし……と、ジーはおろおろし続けている。
「ジー君を殺そうとして、僕からジー君を奪おうとしたヤツらに腹が立つ。ジー君は腹が立たないの? 僕の右腕がこんな風になったのはアイツらのせいなのに腹を立ててはくれないの?」
「腹を……? いや、ちょ、ちょっと待ってくれ……それよりも先にリカの腕の傷を……!」
おろおろとさまよう手と動揺に揺れるジーの瞳を見返してリカは困ったように微笑んだ。ふっと息を吐き出して、笑っているようにもため息をついているようにも聞こえる声をもらしたあと――。
「そういえば、そうだったね。……ジー君は、そういう……性格……だった」
「リカ!」
にぎりしめていた神剣が光を失った。
「子供のときも、そう……だったよね」
リカの顔色はみるみる青白くなっていく。それを見てジーの顔色もみるみるうちに青ざめた。
「いじめっ子たちにいじめ、られて……ジー君がケガをする、と……僕は怒って……」
「リカ、もう喋るな」
「僕、が……ケガをすると……ジー君は、心配……するん、だ……」
「リカ!」
息が切れ、目の焦点が合わない。緊張の糸が切れて大量出血の影響が出始めたのだろう。
「僕は、何よりも……真っ先に……怒り、を……覚え、る……。ジー君、は……何より、も……真っ先に……僕の、心配を……して、くれる……。自分の、じゃなくて……僕の……」
「リカ!」
左手をにぎりしめ、目に涙を浮かべ、怒ったように、叱りつけるように名前を呼ぶジーを見上げてリカはくすりと微笑んだ。まぶしそうに、あるいはうれしそうに金色の瞳を細める。
「ジー君、の……そういうとこ……が、僕に、とっては……勇者で……憧れ、だった……んだ……。……ずっと……ずっ、と……そういう、風に……なりたい、って……、……」
「リカ? ……リカ!?」
重たそうにまばたきを繰り返していたリカの瞳はついに閉じたまま、開かなくなった。言葉も途切れ、名前を呼んでも、にぎりしめていた左手を強く揺さぶってもなんの反応も返ってこなくなった。
「リカ……リカ……リカ……!」
あいかわらず淡々とした表情をしているけれど、心の中ではすっかりパニックを起こしてしまっているらしい。リカの手をにぎりしめ、ただ名前を呼び続けるジーの頭を――。
「しっかりしろ、クソ魔王!」
ラレンはスパーン! と叩いたのだった。




