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01-09 ……始まる。

「〝全能力強化〟!」


 白魔導士のラレンが杖を一振りするとオリーとバラハ、ラレン自身の体が淡く白い光に包まれた。


「〝狂戦士化バーサーク〟!」


 続いて、戦士のオリーが左手の盾に右手の巨大な斧を叩き付け、雄たけびをあげる。ただでさえ大きな体がひとまわりもふたまわりも大きくなり、筋肉が隆起する。

 姿勢を低くしたオリーは壇上の玉座に座る魔王城の主・ジー目がけてイノシシのように突進した。魔王城のどんよりとした色の床がひび割れて陥没する。


「〝全てを呑み込め、水龍〟!」


 突進するオリーを追い越して水の龍がジーへと牙を剥いた。魔法使いのバラハが放った水魔法だ。

 しかし、水の龍は一瞬でバラバラになり、床に落ちてただの水たまりになった。


「……〝女神の祝福〟」


 勇者であるリカの声に合わせて出現した花嫁のヴェールのように白く美しい光の壁に阻まれて。

 女神アルマリアから授けられた神剣の力の一つだ。


 と――。


「……!」


 白い光の壁を突き破ってオリーが姿を現わした。〝女神の祝福〟は魔法や呪いのたぐいを防ぐものであって物理攻撃を防ぐものではないのだ。

 片手で扱うにはあまりにも大きな斧を、しかし、軽々と片手で振り上げたオリーは――。


「どりゃあああぁぁぁーーー!!!」


 気合一閃。

 淡々とした表情で玉座に座るジーへと振り下ろす。


 しかし――。


「言ったはずだよ。ジー君を傷付けようとする者は全力で排除する、と」


 素早くジーとオリーとのあいだに割って入ったリカが神剣で斧を受け止めた。

 細く白い腕と細く白い剣で、太く大きな腕が振り下ろした重く巨大な斧を平然と受け止め――。


「……」


「……!」


 平然と跳ね返した。


「出来ればリカと戦わずに魔王を倒しちまいたかったが……そう簡単にはいかねえか」


 巨体からは想像できない身軽さで飛び退いたオリーは苦い笑みを浮かべた。オリーが構える斧がたったの一撃で刃こぼれしているのを見てバラハは舌打ちし、ラレンは唇を噛んで壇上のリカを見上げる。

 ジーを背中にかばうようにして立つリカはオリーとバラハ、ラレンを――長くつらい旅を共にしてきた仲間であるはずの三人を冷ややかな目で見下ろしていた。


 かと思うと、神剣の剣先を天へと向けた。


「〝女神の〟……」


 神剣に宿るどんな力を使おうとしているのか。リカの頭上で稲光が龍のように走る。ゆらり、ゆらりと揺れる美しくも怖ろしい銀色の髪と金色の瞳の青年を見上げてオリーとバラハ、ラレンは青ざめた。


 と――。


「……リカ」


 黒色がリカの視界を染めた。

 黒い髪と黒いマントをひるがえしたジーが神剣を握りしめるリカの手首を掴み、正面にまわりこんだのだ。

 まるでリカの前に立ちふさがるかのように。敵であるはずの勇者パーティ三人に無防備にも背中をさらす形で。


「ジー……君?」


 勇者パーティが魔王の間にやってきてからずっとジーは玉座に座っていた。リカが抱き着いたときもずっと玉座に座ったまま。

 だから、初めて玉座から立ち上がり、初めて高い位置から赤い瞳に見下ろされてリカは戸惑いの表情を見せた。頭上を走っていた稲光の龍はゆっくりと数を減らしていき、最後には静けさが戻った。

 そして――。


「やめるんだ、リカ」


 静けさが戻った魔王の間に魔王の静かだがよく通る低い声が響いたのだった。

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