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幼馴染が魔王/勇者でした。  作者: 夕藤さわな
10.団円編

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10-05 そんなことよりも先に。

 まだ迷いのある足取りではあるけれど群衆は教会から離れて行く。そのあとをルグが率いる兵士たちがついていく。ケガをした者を背負い、避難を拒む者を引きずっていく様子を見てラレンはほっと息をついた。

 逆に――。


「逃がさない……!」


 兵も民衆も関係なく人族を滅ぼそうとしているリカは左手ににぎりしめた神剣を高く掲げた。


「〝女神の翼〟」


 神剣の刀身が淡く白い光を放ち、リカの背中に光の翼が現れた。避難する人々を空から攻撃するつもりなのだろう。リカの体がふわりと浮き上がり、左手に持つ神剣が一際、まばゆい光を放つのを見てラレンとオリー、バラハ、そしてジーはうなずきあった。


「〝全能力強化〟!」


 ラレンが杖を一振りするとオリーとバラハ、ジーとラレン自身の体が淡く白い光に包まれた。

 リカは背中の翼をバサリと羽ばたかせる。たった一度の羽ばたきだけでリカの体は今はなくなってしまった教会の屋根よりもさらに高くへと浮かび上がった。

 かと思うと、猛禽類のように翼を閉じ、矢のように真っ直ぐに飛んでいく。獲物目がけて。教会から避難する人々の背中目がけて。


「〝凍て付き閉ざせ、氷壁〟!」


 リカの行く手を阻んだのはバラハが放った氷魔法だ。青空は曇り空に、白い雲は灰色の分厚い雨雲へと変わる。降り出した雨は一瞬で凍りつき、分厚い氷の壁になった。しかし、真っ白な氷壁は一瞬で粉々に砕けた。


「〝女神の騎槍きそう〟」


 リカが左手に持つ神剣がまばゆい光を放ち、形状を変える。細長い円錐えんすい型の棒に大きな笠状のつばがついたランスの姿だ。騎兵が使用する槍の一種で馬の突撃の速度を乗せて強烈な一撃を見舞う戦法に使われる武器。

 まさにその通りの使い方でバラハが出現させた分厚い氷壁を粉砕してみせたリカだったが――。


「……!」


 バラハの狙いは行く手を阻むことではなかったらしい。


「〝狂戦士化バーサーク〟!」


 飛んでいるリカのさらに頭上から姿を現わしたのはバラハが出現させた氷壁を足場にして駆け上ってきたオリーだ。左手の盾に右手の巨大な斧を叩き付け、雄たけびをあげる。ただでさえ大きな体がひとまわりもふたまわりも大きくなり、筋肉が隆起する。

 片手で扱うにはあまりにも大きな斧を、しかし、軽々と片手で振り上げたオリーは――。


「どりゃあああぁぁぁーーー!!!」


 気合一閃。

 にらみ上げるリカへと振り下ろした。いつものリカなら細く白い腕と細く白い剣で、太く大きな腕が振り下ろした重く巨大な斧を平然と受け止めてみせただろう。

 でも――。


「……っ」


 今のリカは利き腕である右腕を失い、左手一本で神剣を振るっている。大量の血を失い、体調も万全な状態からは程遠い。

 オリーの一撃を剣で受け止めはしたものの、リカはバランスを崩して落下した。背中の翼は光の粒になって消えていく。地面に叩きつけられて感じるだろう痛みと衝撃に備えて唇を引き結んだリカだったが――。


「〝くまのパン屋さん ペスト編〟! ネズミを捕らえるために用意した超特大トリモチ!」


「……へ?」


 背中に感じたのはべちょっとした感触というか、もちっとした感触というか、べたっとした感触というか。何はともあれ、予想していた感触とはほど遠い感触にリカは目を白黒させた。

 しかも――。


「……取れない」


 起き上がろうとしても頭を持ち上げることも、腕や指の一本を動かすこともできないのだ。王城内にあるラレンの自室に置かれたベッド並みに大きなトリモチに埋もれてリカは顔をしかめた。

 そんなリカの顔をジーがのぞきこんだ。


「リカ、もう止めるんだ」


 あいかわらず淡々とした表情をしているけれど心の中ではギャン泣きしているのだろう。赤い隻眼の瞳に涙をいっぱいに溜めている。


「どうして……どうして止めるの、ジー君……!」


 幼馴染で親友の涙に潤む右目と、黒い眼帯に隠れた左目を見つめてリカはしぼり出すような、怒りを押し殺そうとして押し殺し切れずにいるようなかすれた声で言った。


「アイツらは……人族は、ジー君の左目を奪った。ジー君のお母さんの命だって。何より、ジー君を殺そうとした。今日、疑いようもなく、あからさまに殺意を向けた。この先もきっと、ずっとジー君を殺そうとする。家族や友人を守るためと言って、魔族を滅ぼすと言って、ジー君に殺意を向け続ける!」


 自身も魔族と人族のハーフで、人族から殺意を向けられる対象になっているというのに。リカの頭にはジーのことしかないらしい。


「ジー君の敵は僕の敵だ! ジー君を傷付けようとする者がいるなら僕は全力でジー君を守るし、傷付けようとする者たちを全力で排除する! 魔族を滅ぼすと言うのなら……その中にジー君が含まれているというのなら、僕は……!」


 背面にベッタリとトリモチがくっついていて起き上がることも身動きすることもできない。だけど、リカの左腕は神剣をにぎりしめたままだ。

 教会の奥には女神アルマリアの像が置かれている。仰向けに寝転んだリカは本物の女神アルマリアとは似ても似つかない像をにらみつけた。

 リカの怒りに呼応するように女神アルマリアから授けられた神剣の刀身が白く、まばゆく光る。どんな力を使おうとしているのかはわからない。でも、何をしようとしているかはよくわかる。


「ダメだ!」


 この街を破壊し、この街にいる人々を殺し、いずれは人族を滅ぼすために女神アルマリアに授けられた力を使おうとしているのだ。戦おうとしているのだ。

 だから、ジーは神剣をにぎりしめるリカの左手をぎゅっとにぎりしめてかぶりを振った。


「だから、どうして……!」


 止めようとするのか。邪魔をしようとするのか。

 そう続けて怒鳴ろうとしていたリカは――。


「早く止血しないとリカが死んでしまう! そんなことよりも先に治療をしないとリカが……リカが……!」


 ジーの言葉にポカンと口を開けたのだった。

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