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幼馴染が魔王/勇者でした。  作者: 夕藤さわな
10.団円編

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10-04 雨が降る気配はない。

 アルヴィとヴァレッドの言葉に群衆が拍手と喝采をあげる。それを聞いて教会から逃げ出そうとしていた人々が足を止めた。


「……そうだ。家族を守らないと」


「家族を守るために戦わないと!」


 武器と呼ぶにはあまりにも頼りない包丁やくわ、斧を高く掲げ、声をあげる群衆を見まわしてルグは唇を噛んだ。

 アルマリア神聖帝国第二王子として兵を率いて教会に来たのは勇者であるリカと勇者パーティであるオリー、バラハ、そして弟のラレンを捕らえるためだ。魔王であるジーを捕らえて改めて処刑するためだ。


「民衆に武器とも呼べない武器を手に取らせ、勇者様に無謀な戦いを挑ませるためにここに来たわけではないですよね。多くの人々を無駄死にさせるためにここに来たわけではないですよね。……ルグ兄様」


 誰かが背後に立つ気配には気が付いていた。どうやらその相手は末の弟だったらしい。ラレンの声にルグはゆっくりと振り返った。


「……ラレン」


「民衆を守るよりも先に僕たち勇者パーティや魔王アイツを捕らえますか」


 腹の底から怒っているのだろう。青い瞳をつりあげて、しかし、淡々として口調で尋ねる末の弟を前にしてルグは唇を噛んだ。

 だが――。


「俺たち王族がなすべきことは国民を守ることだ」


 すぐに首を横に振った。

 ルグの答えに――〝民衆の安全を確保するよりも先に捕らえたりはしない〟という答えにラレンは内心でほっと息をつくと兄の目を真っ直ぐに見据えた。


「自殺行為な特攻を今すぐにやめさせて民衆を避難させてください。兵士も、兄様もです。この教会からできる限り離れてください。勇者様は僕たちで止めます。僕たち勇者パーティと……魔王アイツで」


 きっぱりと言い切ったあと、ラレンは兄であるルグの返事を待たずにきびすを返した。仲間であるオリーやバラハ、あいかわらず淡々とした表情だけれど心の中では心配そうに見つめているのだろうジーの元へと駆け寄る。


「聞こえてましたか、陛下、リレマー兄様」


 末の弟の遠のいていく背中を見つめながらルグは耳に指を押し当てて遠く王城の執務室にいる父と兄に――アルマリア神聖帝国現国王と第一王子のリレマーに話しかけた。耳につけているのは遠く離れた相手と会話ができる魔法道具だ。


「俺たちは王族として、王族がなすべきこととして、多少の犠牲を払うことも国民に嘘をつき続けることも必要なことだと考えてきました」


 あたりを見まわしてルグはくしゃりと顔をゆがめた。

 ルグが見たものは父と兄にも共有できるようになっている。執務室にいる二人もこの場の、この光景を見ているはずだ。


 リカが放つ攻撃はどれも王宮魔術師が放つ大規模攻撃魔法以上の威力がある。そんなものに包丁や鍬、斧を手にした人々が向かっていっても勝てるわけがない。無駄死にするだけだ。

 それなのに目の前の群衆は武器とも呼べない武器を掲げてリカに向かっていこうとしている。魔族に対する恐怖と憎悪と、異様な高揚感に飲まれて自ら死に向かおうとしているのだ。


「俺たち王族が〝なすべきこと〟だと思ってついてきた嘘が今のこの状況を作り出してしまったのなら……国民をここまで追い詰めてしまったのなら……」


 そこでルグは言葉を切ってハッと目を見開いた。


「はい……はい、申し訳ありません! すぐに……!」


 耳に指を押し当て、魔法道具から聞こえる声に何度かうなずく。混乱する兵士と群衆を前にルグは深呼吸を一つ。


「皆さん、東の広場まで避難してください!」


 大声を張り上げた。ルグの声に振り返った人々は目をつりあげ、怒声をあげる。


「ふざけるな! このまま魔族たちに好き勝手させる気か!」


「ここで逃げたら家族が殺されちまうだろ!」


「移民のガキどもが言うとおりだ! しっぽをまいて逃げるわけにいくか!」


「俺たちの手で家族を守らないと! 家族を守るために戦わないと!」


「俺がここで魔族に殺されたって、きっと誰かがまた魔族を滅ぼすための戦いに挑んでくれるはずだ! 死ぬことも恐れずに!」


「その〝死ぬことも恐れずに戦う誰か〟はあなたの家族かもしれないんですよ」


 ルグの淡々とした、しかし、よく通る声に群衆は口をつぐんだ。


「ここであなたが死ねば強く思うはずです。大切な家族を奪った魔族を滅ぼすために死ぬことも恐れずに立ち向かわなければ。僕も、私も、そうしなければ。あなたがそうしたように、と」


 妙な高揚感に浮かされていた群衆の足を止めるのにルグの言葉は多少の効果はあったようだ。黙り込み、顔を見合わせる群衆たちを見てルグは再び深く息を吸い込んだ。


「アルマリア神聖帝国第二王子ルグ・ベンデルの名において全兵に命じる。東の広場まで人々が安全に避難できるように誘導を。……急げ!」


 目の前の兵士が第二王子だと知って――兵士たちが慌ただしくもきびきびとした動きで避難誘導を始めるのを見て、群衆は戸惑いの表情を浮かべながらも避難を始めた。

 教会を離れて行く人々の背中を見つめてルグは再び耳に指を押し当てた。


「……はい。これから避難します。……はい……はい」


 魔法道具ごしに聞こえる声に何度かうなずいたあと、ルグは空を仰ぎ見た。


「……俺もそう思います。……ええ、この件が落ち着いたら考えましょう。王族としてどうするべきなのか。どうすることが良いのか」


 雲一つない夜の空には銀色に輝く月が浮かんでいる。雨が降る気配はない。洪水が起こる心配もない。


「これまでの罪と嘘を明らかにして、王族らしくない末の弟に託すという選択肢も……俺はあるんじゃないかと、今は……そう思っていますよ」


 今夜、〝水の逃げ場所〟は必要ないだろう。

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