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幼馴染が魔王/勇者でした。  作者: 夕藤さわな
10.団円編

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10-03 人族の王たちだ。

「〝女神の槍雨そうう〟」


 女神アルマリアに加護を授けられた勇者が魔族を滅ぼし、人族を守ってくれる。そう信じていた、寂れた教会に集まったアルマリア神聖帝国の人々は混乱していた。

 当然だろう。

 勇者であるはずのリカが女神アルマリアに授けられた神剣の力を使って自分たちを攻撃しているのだ。自分たち人族を滅ぼすと宣言したのだ。


「〝くまのパン屋さん 来襲☆予約なし大宴会編〟! 寿司屋のゲンさん一家・踊り切りバージョン!」


 しかも、自分たち人族を滅ぼすはずの魔族がリカが放った神剣の力を切り伏せ、人族である自分たちをかばって戦っているのだ。

 人々はさらに混乱した。


「これは……一体……」


「どういう状況なんだ……?」


「ホイホイだまされんなよ!」


 戸惑う白い肌の大人たちに向かって叫んだのは褐色の肌をした移民の子供たちだった。


「きっと、これもアイツの――魔族の作戦なんだ」


 昨日、ジーの串焼きと母親の形見である銅貨を盗んだアルヴィとヴァレッドだ。


「勇者を名乗ってるアイツも魔族とグルなんだよ! 散々、暴れまわって、それを角が生えた魔族が倒して、俺たち人族を信用させて最後には殺すつもりなんだ!」


「〝ネヌシボラ平野の戦い〟を知ってるでしょ! あの話に出てくる魔族も人族の兵士たちを操って同士討ちさせるじゃないか! そういう卑怯な戦い方をするんだよ! 姑息こそくなんだよ、魔族は!」


「きっと俺たちのことも操って、同士討ちさせるつも……り……って、えっ!?」


「……とかなんとか言ってる暇があったらとりあえずここから離れろ!」


 急に首がしまったことにアルヴィとヴァレッドは目を白黒させた。かと思うと体がひょいっと宙に浮く感覚にさらに目を丸くする。

 直後――。


「〝女神の槍雨そうう〟」


「寿司屋のゲンさん一家!」


 リカとジーの声が響き、アルヴィとヴァレッドのつま先ぎりぎりに三枚におろされた光の槍がぽとりと落ちた。


「いくら攻撃をかわすためとは言え、いきなりえり首をつかんで放り投げるなんて何を考えているんですか。二人がビックリしているでしょう」


「ああ、そうか! すまん、すまん! 大丈夫か!?」


 怒鳴られてアルヴィとヴァレッドの顔を心配そうにのぞきこんだのはオリーだ。その後ろで腰に手を当てたバラハが目をつりあげている。さらにその後ろではラレンがあきれ顔でため息をついている。

 教会のまわりに点々と生えている背の低い生け垣にしりもちをついたまま、アルヴィとヴァレッドは丸くしていた目をみるみるつり上げた。


「お前ら……角が生えた魔族とエセ勇者といっしょにいたやつらじゃねえか!」


「……とと! いきなり包丁を振り回すなって!」


 錆びだらけの古い包丁を振り回そうとするアルヴィの手首をつかんであっさりと止めるとオリーは肩をすくめた。アルヴィとヴァレッドにとってはジーとリカだけでなく二人といっしょにいたオリーとバラハ、ラレンも〝敵〟らしい。


「お前たちも魔族とグルなんだろ! 俺たちを信用させて最後には殺すつもりなんだろ!」


「そう思うならなおのこと、ここからとっとと逃げろよ」


「うるさい!」


 オリーが手首を放した瞬間、ウサギのように跳ねて距離を取ったアルヴィだったけれど、それだけ。この場から避難するようすも逃げていくようすもない。オリーにボロボロの包丁を向ける。


「魔族とグルのエセ勇者はなんて言った? 人族を滅ぼすって言ったじゃねえか! 人族を滅ぼすって言って俺たちに攻撃を始めたんじゃねえか!」


「ここで逃げたって魔族は僕たちを殺そうとする! でも、大人しくなんて殺されてやるもんか!」


 アルヴィに寄り添い、震える手で錆びだらけの草刈り鎌を向けるヴァレッドが泣き出しそうな顔で続けた。


「俺は魔族を殺す。一人でも多く殺す。家族が俺を守るために戦場に行ったように、今度は俺が今の〝家族〟を――孤児院のみんなを守る。俺が死んでも、魔族に殺されても、きっと俺と同じように魔族を許さない誰かが魔族が滅びるまで戦ってくれる! だから……!」


 褐色の肌をした移民の子供たちが叫ぶのを白い肌の大人たちも褐色の肌の大人たちも、群衆だけでなくその場にいた兵士までもが聞き入った。あたりはしん……と静まり返り、そのうちに拍手が起こり、喝さいがあがった。


「そうだ……その通りだ!」


「坊主たちの言う通りだ!」


「……!」


 自分たちの言葉が周囲に届いたことがうれしかったのか。周囲の熱に浮かされたのか。アルヴィとヴァレッドは顔を見合わせると目を輝かせた。

 そんな二人の様子を冷ややかな表情で眺めてオリーはため息を一つ。


「そうだな、たしかにリカは……お前らが言うところのエセ勇者は人族を滅ぼそうとしてる。長年、いっしょに旅をしてきたからわかる。あれは本気だ。本気でリカは人族を滅ぼそうとしてる」


 深々とうなずいてそう言った。オリーの言葉に目を丸くしたアルヴィとヴァレッドだったがすぐさま目をむいて怒鳴った。


「ほら、みろ! やっぱりアイツらは人族を滅ぼそうとしてるんじゃねえか!」


「でもな……!」


 怒鳴るように、苛立たし気に言ったあと、オリーはくしゃりと前髪をかきあげた。


「ジーは……あの黒い角が生えている隻眼の人族と魔族のハーフは、必死にリカを止めようとしてるだろ! 人族をかばって守りながらリカと戦ってるだろ!」


「それは……!」


「そもそも、どうしてリカは人族を滅ぼすなんて言い出したのでしょう」


 人族を信用させようとしているだけ。だまそうとしているだけ。

 そう続けようとするアルヴィをさえぎってバラハは低い声で言った。離れた場所にいるジーを――いまだにジーの額や首に残る傷を見つめて。


「魔族だからと大切な幼馴染で親友を人族が処刑しようとしたからでしょう? いわれのない罪で処刑しようとしたからでしょう?」


 ゆっくりとまばたきを一つ。


「家族を殺され、魔族を滅ぼしたいと思っているあなたたちならリカが人族を滅ぼすと言う気持ちがわかるんじゃないですか」


 アルヴィとヴァレッドの濃い茶色の瞳を見つめてバラハは尋ねた。一瞬、息をのんだアルヴィとヴァレッドだったが――。


「なら、俺たちの家族を殺した魔族を許せって言うのかよ」


 低い声でそう聞き返した。にらむ二人から視線をそらさずにオリーとバラハは口をつぐんだ。


「アルヴィとヴァレッドの家族を殺したのは魔王アイツじゃない」


 あえて口を閉ざしたオリーとバラハの横をすり抜けてラレンが言った。


「魔族の誰かでもない。二人の家族を殺したのも、それを魔族のせいにしたのもアルマリア神聖帝国の現国王。僕の父だ」


 アルヴィとヴァレッドの顔を見ずにラレンは二人の横をすり抜けると真っ直ぐに兄であるルグへと歩いて行く。


「人族の王たちだ」

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