10-02 お前に頼まれたからじゃないからな!
「俺の斧でもバラハの魔法でも、リカの〝女神の鉄槌〟も〝女神の槍雨〟も防げないのに……すげえな……」
目を丸くしているオリーの言葉に〝女神の槍雨〟を――すべての光の槍を三枚におろしてみせた大量のネコ型ゴーレムたちはドヤ顔で二本の包丁を構えるとポーズを決めてみせた。
「〝くまのパン屋さん 来襲☆予約なし大宴会編〟でも寿司屋のゲンさん一家は船上で何千何万もの飛んで来るトビウオを三枚におろしてみせた。光の槍を三枚におろすくらいなんてことない」
「お、おう……そうか」
「トビウオが三枚におろされたことにも気が付かずに港で待っている客の皿に次々と飛び込んでいくくらいの腕前だからな」
あいかわらず淡々とした表情をしているけれど、どうやら胸を張って心の中ではドヤ顔をしているらしい。そんなジーを見てオリーは苦笑いする。オリーが褒めたのは強力な土魔法を使ってみせたジー自身なのだが、当のジーは寿司屋のゲンさん一家が褒められたものととらえたようだ。
「ていうか、〝くまのパン屋さん〟のジャンル、行方不明過ぎない? 口裂け令嬢ってなんだよ。寿司屋のゲンさん一家ってなんなんだよ」
三枚におろされた光の槍を避けながらオリーよりも遅れて駆け寄ってきたラレンがあきれ顔で言った。同じように駆け寄ってきたバラハはといえば目をつりあげた。
「そんなことよりもゴーレムの錬成速度が異常なんですよ。他の属性に比べて術の完成に時間がかかるし攻撃速度も遅い土魔法で、この数のゴーレムをヒュン! って作ってヒュンヒュン! って動かしてるのはどういうことですか」
「口裂け令嬢なんて陸上選手も真っ青なスピードとフォームで突っ走ってったしな」
「それですよ、オリー。あの口裂け令嬢、自分の意志でもあるかのように矢を射た兵士を追っかけて行ったんですよ。ゴーレムは術者が個々に動かしているはずなのに、口裂け令嬢も寿司屋のゲンさん一家もバラッバラの動きをしてるんですよ!」
「半自動化してあるからな」
「半……自動化……!」
頭をかきむしってひざから崩れ落ちるバラハの背中をオリーは苦笑いで見守った。
ジーはと言えば――。
「あれだけの数のゴーレムを作って、維持して、半自動化して動かしているなんて魔法使いとしてはちょっとうらやましくてムカつきます。……ムカつきます!」
「……ムカつく」
バラハの反応にしょんぼりと肩を落としている。
そして、ラレンはと言えば――。
「〝くまのパン屋さん〟のジャンルについてツッコミを入れていた僕が言うのもなんだけど……この状況でのんき過ぎない?」
リカが再び振り上げた神剣がまばゆい光を放つのを見て顔を引きつらせた。ラレンの言葉に顔をあげたジーもまた、唇を噛んだ。
そして――。
「私はリカを止めたい。リカに……これ以上、戦ってほしくない」
ラレンとオリー、バラハを真っ直ぐに見つめてそう言った。
「だが、私一人ではリカの攻撃を防ぐので手いっぱいでリカを止めることができない。だから、手を貸してくれないか。」
あいかわらずの淡々とした表情だけれど心の中では飛び切り大真面目な顔をしているらしいジーの赤い瞳に見つめられてラレンは額を押さえてため息をついた。
「勇者様を止めるために、魔王と勇者パーティが手を組むってどんな状況だよ」
ラレンのぼやきにオリーとバラハは顔を見合わせて苦笑いした。
「まあ、そう言うなって、ラレン」
「リカの幼馴染で親友のジーと手を組むと考えれば少しもおかしな状況じゃないですよ」
「そうかもしれない、けれども……!」
それでも納得がいかないのか。口をうにゃうにゃぐにゃぐにゃさせていたラレンだったが――。
「頼む、ラレン」
ジーにじーっと見つめられてバリバリと金色の髪をかきむしった。
「ああ、もう! わかったよ! 手を貸してやるから何をすればいいのか、さっさと話せ!」
「ラレン……!」
「だぁぁぁあああーーー! 目を潤ませるな、小さくバンザイするな! お前に頼まれたからじゃないからな! 勇者様のために仕方なく手を貸してやるだけだからな!」




