09-10 僕が守りたいものを守れとそう言ったんだ。
魔族が人族を滅ぼそうとしている。
リカが子供の頃からそんなことは当たり前のように聞かされてきた。
魔族に襲われて滅ぼされた村の話や兵士として取られて戦争に向かった何千、何万もの人々が一人として帰って来なかった話も旅人や商人から何度も聞かされた。
でも、なんとも思わなかった。リカにとってはどうでもいい話だった。
ジーと出会い、ジーが人族である母方の祖母の村に引っ越すためにリカの村を出て行ったことで変わった。
魔族が人族を滅ぼそうとしているのならジーも巻き込まれて殺されてしまうかもしれない。そう考えると怖くてしかたなくなったのだ。
だから、リカは生まれ育った村を出た。魔族と魔王を倒すための旅に出た。
宿に泊まる金はない。あったとしても魔族と人族のハーフであるリカでは露骨にイヤな顔をされるか、断られてしまう。
だから、基本は野宿。
誰も住んでいない小屋や崩れかかった教会を見つけることができれば運が良い日だ。こっそりお邪魔させてもらい、獣に襲われる心配も雨や朝露に濡れて寒い思いをする心配もせずに眠ることができた。
――あなたが守りたいと思うものを守りなさい。
――そのために加護と剣を授けましょう。
女神アルマリアから加護と神剣を授けられたのはそんな運が良い日のこと。崩れかかった教会の長椅子で一晩を過ごした翌朝のことだった。
――人族の子よ、魔族の子よ。
――あなたが何を守りたいと思うのか、その意思を私は見届けたいのです。
なぜ、女神アルマリアがリカを選んだのか。その理由はリカにはわからない。天窓から差し込む朝陽のせいで表情もはっきりとは見えなかった。ただ、その口元には悲し気な微笑みが浮かんでいた――ように思う。
何はともあれ――。
「〝人族を守るために神剣を振るえ、力を使え〟なんて女神アルマリアは一言も言わなかった。僕が守りたいとものを守れ、と。半分は人族、半分は魔族の血を引くこの僕に、僕が守りたいものを守れとそう言ったんだ」
リカはあごを引き、血の気のない白い顔と冷ややかな金色の瞳でルグと兵士、群衆を見つめた。
「僕が守りたいものなんてずっと昔から決まってる。そして、僕が守りたいものを傷付けようとする者たちもずっと昔から……決まってた」
すべての感情が消え去ってしまったかのように淡々とした調子でリカが言った言葉はすぐそばにいるジーとオリー、バラハとラレンの耳にしか届かなかった。だから、顔色を変えたのは四人と、リカの唇を読んだルグだけだった。
「ジー君の敵は僕の敵。ジー君を傷付けようとする者がいるなら僕は全力でジー君を守るし、傷付けようとする者たちを全力で排除する。例え、相手が王族だろうと――」
「魔族を殺せ! 逃がすな! 吊るせ!」
「魔族を殺せ! 逃がすな! 吊るせ!」
「魔族を殺せ! 逃がすな! 吊るせ!」
リカが何を言ったのかも、何かを言ったことにも気が付かずに群衆は足を踏み鳴らし、包丁や鍬、斧を振り上げ、打ち鳴らす。そんな人々を凪いだ目で見つめて――。
「国にだまされているだけの群衆だろうと関係ない」
リカはゆっくりと左腕をあげた。
神剣をにぎりしめた左腕を。




