09-07 ……来い、神剣。
「ジー……君……?」
「リカ、気が付いたのか……!」
意識が戻ったばかりで状況を呑み込めていないのだろう。リカは何度かまばたきをしたあと、ぼんやりとジーを見つめて不思議そうな顔をした。ジーはといえばあいかわら淡々とした表情だけれどよく見れば目に涙をにじませている。目を細めているようすからして心の中ではうれしくてギャン泣きしながら笑っているのだろう。
「よかった、意識が戻ったんですね」
「勇者様! 勇者様ぁぁぁあああーーー!」
「よお、リカ。気分はどうだ」
オリーとバラハ、ラレンもリカの顔をのぞきこんでそれぞれに喜んだ。
バラハは胸に手を当ててほっと息をつき、ラレンは子供みたいに泣きじゃくって涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしている。オリーは苦笑いしながらラレンの金色の髪をくしゃくしゃとなでた。
勇者パーティの面々の顔をぐるりと見まわしたあと、リカは再びジーをじっと見つめた。
かと思うと――。
「ジー君、……っ」
「リカ……!」
飛び起きようとして長椅子から転がり落ちた。かたい床にしりもちをついたせいか、右腕の傷が痛むのか。リカは痛みに顔を歪ませた。
「ダメだ、リカ。まだ寝ているんだ」
「そうですよ、勇者様! 一応、回復魔法をかけましたけど傷は完全にふさがっていません! もう少し休んでいてください!」
血の気のないリカの顔を見てラレンが心配そうに言う。いつもならラレンを安心させるためにニコリと微笑み返すくらいはするのに今はその余裕もないのだろう。
「……ジー君、その傷」
リカはジーの額へ、続いて首へと手を伸ばした。触れるか触れないかのところで手を止めたのはいまだに生々しい傷が残っているからだ。群衆に石を投げつけられてできた顔の傷も、藁縄でできた首のすり傷もそのまま残っているからだ。
泣いているようにも怒っているようにも見えるリカの表情にジーはそっと背中をなでた。
「少し血が出ているだけ、すり傷になっているだけだ。リカのおかげで命はあるし大きなケガもない。だから、大丈夫だ」
床に座り込んだまま。目をつりあげ、唇を噛み、怖い顔で古びた教会の床をにらみつけるリカの横顔を見つめてジーは眉を下げた。自分のケガすらも後まわしにして心配してくれることをうれしく思う反面、リカのそんな表情を見ていると胸がざわざわしてくる。
だから――。
「……リカ」
ジーはリカの手を取った。ハッと顔をあげたリカは弱々しいながらもジーの手をにぎり返す。
「そんな心配そうな顔しないで、ジー君」
「リカ……?」
「ジー君の敵は僕の敵。ジー君を傷付けようとする者がいるなら僕は全力でジー君を守るし、傷付けようとする者たちを全力で排除する。腕の一本や二本、失ったってなんてことないんだよ」
「リカ……!」
ニコリと微笑んでそう言ったリカはジーが腕を引くのも構わずにふらりと立ち上がった。
「外が騒がしくなってきたな」
「こんなに早く見つかるとは思っていませんでしたね」
閉めてある木製の扉を見つめてオリーとバラハが顔を強張らせた。
オリーたちの様子を見てラレンも扉の外で何が起こっているのか察したのだろう。魔力切れで床におっ放り出していた杖をあわてて拾い上げる。オリーとバラハもそれぞれに斧と杖を構えた。
ただ一人、さっぱり状況を理解していないジーだけが床に座り込んだまま。リカやオリーたちを見上げておろおろしている。そんなジーを背中にかばう位置にリカが立った。
瞬間――。
「リレマー兄様の予想的中」
剣や槍を手にした兵士とルグが扉を蹴破って教会へと押し入ってきた。
「ルグ兄様……!」
「やっぱりラレンもいたか。リレマー兄様に言われなかったか。次からはもう少し慎重に行動しろ、自分が王族だってことをよく考えろって」
末の弟に名前を呼ばれてアルマリア神聖帝国第二王子であり、ラレンにとっては二番目の兄である金髪碧眼の青年は苦い笑みをもらした。
王の血を引く二人の兄弟のやり取りを冷めた目で一瞥。リカは残っている左腕をあげると手のひらを天井に向けた。
そして――。
「……来い、神剣」
静かにそう言ったのだった。




