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01-08 悲しい戦いが今――。

「……勇者様の言いたいことはわかりました」


 うなだれているジーに抱き着いたままのリカから目をそらすようにラレンはうつむいた。過激な勇者崇拝者であるラレンにとって今のリカの姿は――倒すべき敵であるはずの魔王にベッタリとくっついて離れない勇者の姿は耐えがたい。

 だから――。


「言いたいことはわかりましたがどうせ魅了の呪いにかかっているだけなので聞き流します!」


 ガシッ! と拳を握りしめて、目の前の現実から力いっぱい目をそらしつつ、勢いよく顔をあげた。

 目はギラギラしているし口元にはいびつな笑みが浮かんでいるし、錯乱の呪いにでもかかっているんじゃないかと疑いたくなるような表情をしてはいるけれども、何はともあれ、ラレンは顔をあげた。


「状態異常を感知したってことか、ラレン!」


「解呪は可能なんですか、ラレン!」


「状態異常を感知したわけでもないし、何度も解呪を試みてるのに全然、効果ないけど! でも! 魅了の呪いにかかっているに決まっているから聞き流します!」


「なんだ、ラレンの希望か」


「ラレンの妄想ですか」


「うるさい! 希望とか妄想とか言うな!」


 ため息混じりに言うオリーとバラハにラレンは顔を真っ赤にして地団駄を踏む。でも、二人の追及は止まらない。


「ていうか、リカは神剣を持ってるんだぞ。女神様から授けられた神剣を」


「そうですね、常に女神様の加護を受けている状態で魅了の呪いになんてかかるわけがありません。相手が魔王だろうと女神様の加護を退けて呪いをかけるなんて不可能でしょうし」


「そういうことだ、ラレン」


「あきらめて現実を見てください、ラレン」


「うるさい、うるさい!」


「というか筋肉バカのオリーにしてはまともなことを言いますね」


「フフーン、そうだろう!」


「褒められているようでいて実際はバカにされていることに気が付かずに胸を張っちゃうあたり、やっぱり筋肉バカですね」


「フフーン、そうだろう!」


「うるさい、うるさい、うるさーーーい! こんなときまで筋肉バカなんて子供みたいな悪口言って遅めの反抗期やらかしてるなよ、バラハ!」


「遅めの反抗期……!?」


「オリーもフフーンじゃないよ! キモイ!」


「キモイ!? シンプルにキモイ!!?」


 地団駄を踏みながら八つ当たり的な感じでブチギレるラレンにオリーとバラハは目をつりあげた。

 でも――。


「だって、呪いにでもかかってないとおかしいじゃないか。こんな状況……絶対におかしいじゃないか」


 ジーに抱き着いたままのリカを見上げるラレンの目に涙が浮かんでいることに気が付いて顔を見合わせた。

 そして――。


「まあ、確かに。正気か? とは聞きたくなる状況だよな、こんな状況」


「リカにはちょっと頭を冷やしてもらって旅の本来の目的を思い出してもらいましょうか」


 ため息を一つ。オリーは盾と巨大な斧を、バラハは杖を構えた。

 二人が武器を構えるのを呆然と見つめていたラレンだったが、ハッと目を見開くとあわてて手の甲で涙をぬぐった。

 一瞬、ためらって――それでも杖を構える。


「旅の本来の目的というのは……魔族と魔王を倒す、という?」


 武器を構える三人の仲間を見下ろしてリカは尋ねた。オリーとバラハ、ラレンは唇を引き結び、ただ黙ってリカを見つめ返すだけだ。


「……リカ?」


「そう。それなら仕方がないね」


 三人の表情を見て引く気はないことを察したのだろう。リカはゆっくりとジーから腕を放した。

 そして――。


「ジー君の敵は僕の敵。ジー君を傷付けようとするのなら僕は全力でジー君を守るし――」


 さやから神剣を抜くと剣先を向けた。


「全力でジー君を傷付けようとする者たちを排除する」


 仲間であるオリー、バラハ、ラレンへと。


 長くつらい旅を共に乗り越えてきた仲間であるはずの四人の悲しい戦いが今――。


「〝全能力強化〟!」


「〝狂戦士化バーサーク〟!」


「〝全てを呑み込め、水龍〟!」


「……〝女神の祝福〟」


 ――始まる。

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