09-05 置いてけぇぇぇえええーーー!!!
「〝全能力強化〟!」
ラレンが杖を一振りするとオリーとバラハの体が淡く白い光に包まれた。
「〝狂戦士化〟!」
続いて、オリーが左手の盾に右手の巨大な斧を叩き付け、雄たけびをあげる。ただでさえ大きな体がひとまわりもふたまわりも大きくなり、筋肉が隆起する。
「〝歌い叫べ、風鶏〟!」
姿勢を低くしてイノシシのように絞首台へと突進するオリーを、バラハが放った風魔法が追い越していく。頭は白く、尾は長くて黒い巨大な鶏の姿をした風魔法だ。
絞首台を取り囲む群衆の外側にオリーに背中を向ける形で腰を下ろした風鶏は〝さぁ、来い!〟と言わんばかりにバサリと羽を広げた。
「どりゃあああぁぁぁーーー!!!」
「コケッコォォォオオオーーー!!!」
風鶏は背中を蹴って高く飛び上がったオリーの巨体をバッサバッサと羽ばたいて起こした追い風でさらに高く高く舞い上がらせた。投石機で放り投げられた岩のように群衆の頭上を飛び越え、絞首台目指して落ちて行くオリーは片手で扱うにはあまりにも大きな斧を、しかし、軽々と片手で振り上げた。
そして――。
「ぅおりゃあああぁぁぁーーー!!!」
気合一閃。
斧を振り下ろした風圧で木でできた絞首台をバラバラに吹き飛ばす。絞首台を取り囲んでいた群衆も風圧で吹き飛ばされたけれど、バラハがクッション代わりの風魔法を放ったおかげでケガ人はいなさそうだ。
「オリー!」
「ジー!」
元は絞首台だった瓦礫の下からひょっこりと顔を出したジーを見てオリーはほっと息をついた。でも、真っ青な顔のジーを見て血相を変えて駆け寄った。
「どうした、ジー! 大丈夫か!?」
「リカが……リカが……!」
見るとリカはジーのひざに頭を乗せて目を閉じている。ジーがこれだけ心配そうにしていても反応がないということは意識がないのだろう。
「……っ」
リカの顔色と肩口からバッサリとなくなっている右腕を見てオリーは一瞬、言葉を失った。
でも――。
「こりゃあ、ヤバイな。行くぞ、ジー」
はげますようにジーの背中を叩くとリカを小脇に抱えて顔をあげた、ところで――。
「……逃がす、か」
「逃がさない」
オリーは周囲の状況を見て顔を引きつらせた。
瓦礫と化した木材の下から、あるいは瓦礫を踏み越えて、ゆらり、ゆらりと近付いてくる群衆はまるでゾンビ。
「その魔族を置いてけぇー……」
「その魔族を助けようとした勇者様もどきも置いてけぇー……」
「置いてけぇぇぇえええーーー!!!」
「ぎぃえええぇぇぇーーー!!!」
「……」
というか、完全にゾンビだ。
次から次へと現れて、腕を伸ばして追いかけてくる群衆にオリーは悲鳴をあげながら駆け出した。ちなみに左腕には気を失ってぐったりしているリカを、右腕には淡々とした表情のままゾンビな群衆に恐れおののいて目を開けたまま気を失ってしまったジーを抱えている。
ラレンがかけてくれた強化魔法と自分自身でかけた肉体強化があるから成人男性二人を抱えて走るくらいはなんてことない。
でも――。
「置いてけぇー!」
「置いてけぇぇぇえええーーー!!!」
「ど……どこまでも、どこまでもどこまでも追いかけてくるぅぅぅうううーーー!!!」
恐怖とパニックで足はもつれるし、呼吸も乱れるし、心臓もバックバクだ。
「逃がすかぁ!」
「抱えてるもん、置いてけ! 筋肉ダルマぁぁぁあああーーー!!!」
「ヒエェェェエエエーーー!!! ……って、イッテェ!」
半泣きで大通りを一直線に走っていたオリーは真横から飛んできた水魔法にこみかめをどつかれて悲鳴をあげた。
「こっちです、オリー!」
全力で反対方向に逃げたくなっていたオリーの耳に聞き慣れたバラハの声が飛び込んできた。急停止して顔を向けると細い路地の影からバラハが手招きしている。
「置いてけぇー、置いてけぇーーー」
「魔族を置いてけぇー」
「魔族を助けようってんならアンタの首も置いてけぇーーー」
「ヒェッ!」
迫り来るゾンビたちに悲鳴をあげてオリーは細い路地へ、バラハの元へと駆け出した。
「〝空間転移〟!」
バラハが足元の石畳を杖で叩くと白く光る輪が出現した。どこかにつながっている〝扉〟にオリーはためらうことなくジーを放り込む。続いてリカも放り込み、自分自身も飛び込んだ。
最後にバラハが飛び込み――。
「この路地に入って行ったよ!」
「おい、いないぞ! どこに行きやがった!?」
「探せ、探せぇー!」
どこかにつながっている〝扉〟は跡形もなく消えた。




