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幼馴染が魔王/勇者でした。  作者: 夕藤さわな
09.処刑編

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09-03 失敗した、かな。

 ジーの首には太い縄がかけられていた。腕をつかむなり体を支えるなりして落とし戸から落ちるのを防がなければ首が絞まって死んでしまう。

 〝女神の翼〟で王城の地下牢から脱出したあと、そのまま絞首台がある西の広場を目指して一目散にすっ飛んできたリカはジーの状況と、今まさに落とし戸を開けるためのレバーを倒そうとしている若い処刑執行人を見て青ざめた。

 バッサバッサと羽ばたかせていた真っ白な光の翼を閉じると――。


「ジー……くぅぅぅーーーーーん!!!」


 獲物を見つけた猛禽類のようにジー目掛けて急降下する。

 リカの絶叫よりも早く、ついに開いてしまった落とし戸の中へとジーが落ちていく。首が折れて死ぬか、窒息して死ぬか。どちらにしろ、このままではジーが死んでしまう。


「……っ」


 心の中で何度も何度も幼馴染で親友の名前を呼びながらリカは必死に腕を伸ばし、そして――。


「……ふぐっ!」


 ジーの二の腕をなんとかつかんだ。


「リ……リカ……!」


 リカを見上げたジーの額からは血が出ているし、あちこち傷になっている。あいかわらず淡々とした表情をしているけれど、リカの名前を呼ぶ声は弾んでいるし赤い瞳は涙でうるうるしている。幼馴染で親友の顔を見て心の中では安堵の笑顔を浮かべているのだろう。

 痛々しい傷に胸を痛めながらもジーの笑顔を察してリカはニコリと微笑み返した。でも、すぐに歯を食いしばり、眉間にしわを寄せる。


 同い年、同じ成人男性とは言えジーの方が背もガタイもある。細身のリカがジーの体重を片腕で支えられるわけもない。

 ジーの二の腕をつかむ瞬間、神剣はためらうことなくおっ放り出した。絞首台の上を滑って神剣はどこかへと消えてしまったし、リカの背中に出現していた真っ白な翼も光の粒になって消えた。


 ――失敗した、かな。


 心の中でつぶやいてリカは苦い笑みをもらした。

 縄の先がくくりつけられている頭上の横木を切るとか絞首台そのものを壊すとか。ジーが落とし戸に落ちる寸前で、神剣の力があればそうすることもできた。でも、今、リカの手元に神剣はないし、ジーを離すわけにもいかない。

 ジーの二の腕をつかむリカの両腕はぷるぷると震えている。現状を維持するのに精いっぱいで二進にっち三進さっちもいかない。


「リカ……!」


「大丈夫……だよ、ジー君。……すぐに、引っ張り、上げる……から」


 安堵のうるうる目から心配のうるうる目に変わるジーを見返してリカはにこりと微笑んでみせる。でも、その顔は引きつっているし苦し気だ。

 と――。


「おい、そいつの手を放せ!」


 光る翼で空から現れたリカに驚いて固まっていた処刑執行人がようやく駆け寄ってきた。完全にではないにしろ、事態を飲み込めたらしい。呆然と見つめていた群衆も処刑執行人たちの怒鳴り声に再び騒ぎ始めた。


「魔族を助けようだなんて何、考えてやがんだ!」


「放せ、放せ!」


「コイツ、銀色の髪と金色の瞳をしてるぞ! 勇者様じゃねえか!?」


 今まさに処刑されようとしている魔族を助けたのが魔王と魔族を滅ぼすはずの〝勇者様〟かもしれない。その事実に群衆はざわつき、動揺が広がった。


「勇者様かどうかなんてどうでもいい」


 でも――。


「罪人を助けようとするのならソイツも罪人。罪人の処刑をとどこおりなく執行するのが俺たち処刑執行人の仕事だ。……そいつの腕を叩き切る」


 斧を手に〝舞台〟の中央へと歩み出てきた年かさの処刑執行人に他の処刑執行人も群衆もしん……と静まり返った。

 年かさの処刑執行人はうつ伏せの体勢で落とし戸から身を乗り出しているリカの横に立つと斧を振り上げた。

 それを見た瞬間――。


「そうよ……そうよ!」


 群衆が再び声をあげ始めた。


「勇者かどうかなんて後回しだ! 魔族を逃がすな! コイツを引っ張り上げさせるな!」


「足だ! 足をつかんで引きずりおろせ! 体重をかけて首を絞めちまえ!」


 誰かの怒鳴り声を合図に群衆は一斉に駆け出すとジーの足につかみかかったのだった。

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