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幼馴染が魔王/勇者でした。  作者: 夕藤さわな
09.処刑編

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09-02 走馬灯と呼ばれるもの。

「さて、執行の時間だ」


 そう言って処刑執行人の一人がすっと手をあげた。視線の先には若い処刑執行人がいて木でできた棒状のレバーの横に立っている。準備はできていると言わんばかりにうなずき、若い処刑執行人がレバーに手をかける。

 それを見た瞬間、群衆がワッ! と歓声をあげた。


「……!」


 群衆の声の圧と狂気染みた目にジーは凍り付いた。

 レバーを倒すと落とし戸を支えている二本の棒が外れて戸が開き、その上に立っている受刑者の体が落下する仕組みだ。落とし戸が開いたら急降下によって脊椎損傷を起こして即死するか、縄の長さが十分でなければゆっくりと窒息死するか。

 どちらにしろ受刑者は――ジーは死ぬことになる。

 それをわかった上で群衆は歓声をあげ、待っていましたとばかりに拍手をし、落とせ、早くしろとけしかけるのだ。


 人混みの中にはアルヴィとヴァレッドの姿も見えた。黒い髪に濃い茶色の瞳、褐色の肌をした移民の子供たちがほとんどが白い肌のアルマリア神聖帝国国民の群れの中にいるととても目立つ。

 いつもなら怪訝けげんな顔で二度見され、あるいは白い目で見られるだろう移民たちが群衆の一部となり、白い肌のアルマリア神聖帝国国民と同じように、一体となって石を投げ、怒声や罵声を飛ばし、ジーが落とし戸から落とされるのを歓声をあげて待ちわびている。


 ――〝水の逃げ場所〟に――不満のはけ口になってもらわねばならないのだ。


 自分の死を望む人々に囲まれてジーはアルマリア神聖帝国国王の言葉を反芻はんすうしていた。

 と――。


「……っ」


 視界の端で処刑執行人があげていた手をすっと振り下ろすのが見えた。それを合図に若い処刑執行人がレバーを倒すのも。

 ガタン! と支えていた棒が外れる音がして落とし戸が開いた。足場が消えてなくなり体が宙に浮く。落下する感覚か、死ぬかもしれないという恐怖か。ふわりと内臓が浮くような感覚にジーはふ……っ、と意識が遠のくのを感じた。


 脳裏をよぎったのは親しい者たちの顔。

 もしかしたら、走馬灯と呼ばれるものだったのかもしれない。


 母親と祖母とリカ、父親とジーキル、オリーにバラハにラレン。脳裏に浮かんだ顔の数の少なさに心が重くなる。

 人族の街で暮らしていた頃には人族から恐れられたくなくて、魔王城で暮らし始めてからは魔族を怖がらせたくなくて、自分の部屋に引きこもってばかりだった。


 それが幼い頃にリカと出会い、魔王城で勇者と魔王としてリカと再会し、いつの間にやらほんの少しだけ関わる世界が広がっていた。たった数日だったかもしれないけれどリカと、それからリカの仲間であるオリーとバラハ、ラレンとともに旅をした。


「……リカ」


 感謝を伝えたい。出会って、手をつないで、離さないと約束して、臆病で引きこもりの自分の背中を押してくれた幼馴染で親友に最後にもう一度、ありがとうと言いたい。

 そう願ってジーはもう一度、名前を呼んでみた。

 両手首を手枷てかせで拘束されているせいで落とし戸のふちに手をかけることも、遠のいていく空に手を伸ばすこともできない。ただ、呆然と夕焼け色の空を見つめていたジーは――。


「ジー……くぅぅぅーーーーーん!!!」


「……!」


 聞き覚えのある声に目を見開いたのだった。

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