08-09 魔王が……処刑される……?
「……ぼくは……勇者、様の……」
「気が付かれましたか、ラレン様!」
聞き覚えのある女性の声に眠りから覚めたラレンはまばたきを一つ、二つ。
「サリア……!? ……っ」
飛び起きた直後にめまいを覚えて額を押さえた。あたりを見まわす。使い慣れた自室ではないけれど、王城内の一室だとわかる見慣れたデザインの家具や装飾品に囲まれている。
そして――。
「ニャ」
「……エリザベス」
ふっかふかのベッドの上で半身を起こしたものの体調が悪そうなラレンを心配してか、単純になでなでをご所望なだけか。ラレンの飼い猫であるエリザベスが短い声で鳴いた。ふさふさで真っ白な尻尾でラレンのあごの下を右に左にとなでる。
「サリア、僕はどれくらい眠っていた?」
ひざの上を行き来するエリザベスの背中をなでなで、ラレンは鉄格子付きの扉の向こうでおろおろしているサリアに尋ねた。
「わたくしがこちらの部屋に案内されてから三時間ほどが経っております。あと十五分ほどで夕刻の鐘が鳴るはずです」
元はラレンの乳母で今はメイドをしている老婦人は鉄格子に恐る恐るふれてため息をついた。
「すぐにでも出して差し上げたいのですが、わたくしが渡されたカギはこの小さな小窓を開けるためのカギだけなんです」
そう言ってサリアが指さしたのは鉄格子に作られた配膳口だった。食事や本、書類を受け渡すためのもので猫のエリザベスはくぐり抜けられても人間のラレンはくぐり抜けられない大きさだ。
――どれくらいのあいだ、お前を幽閉することになるかはわからない。
――でも、大丈夫だよ。
意識を失う前に一番上の兄であるリレマーがそう言っていた。つまり、ここはラレンの軟禁場所ということ。
つまり――。
「アーロン男爵や軍だけじゃない。国ぐるみの嘘。国ぐるみで魔族や魔王領を敵に仕立てあげてたってことか」
くしゃりと父親譲りの金色の髪をかきあげてラレンは唇を噛んだ。
「ラレン様、ここに来る前にメイド仲間から聞いたのですが……」
頭を抱えるラレンを見てサリアはためらいながらも、しかし、きっぱりとした口調で言った。
「西の広場で魔族の処刑が行われるそうです。話を聞くに恐らく、その魔族というのはジラウザ様ではないかと」
「え、は……? 処刑……?」
「処刑執行の予定時刻は十七時です」
サリアはさっき、あと十五分ほどで夕刻の鐘が鳴ると言った。夕刻の鐘とは十七時に鳴る鐘のこと。
つまり、あと十五分で――。
「魔王が……処刑される……?」
そうつぶやいた瞬間、ラレンの脳裏によみがえったのはついさっきまで夢に見ていた星空の下での会話。初めて話した三年前の夜のリカの言葉だった。
――僕が魔王を討伐しようとしている理由はたった一人のため。
――なりたいのも魔王を倒す勇者なんかじゃなくてたった一人のための勇者。
――たった一人のための何者かなんです。
その〝たった一人〟が魔族の長で、勇者パーティが討伐しようとしていた魔王で、リカにとっては幼馴染で親友のジーであることはラレンもよくわかっていた。
そして――。
「勇者様……!」
ジーのためならリカは魔王を倒す勇者なんかではなく、人族を滅ぼす何者かにすらなるだろうこともラレンはもう、よく、イヤになるほどわかっていた。




