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01-07 ……始まらない。

「でも……だけど……」


 神剣を握りしめてゆっくりと振り返ったリカは凛とした表情で魔王城の玉座に座るジーを見上げた。


「ジー君が魔族側で、魔王だと言うのなら――」


 かつては幼馴染で親友だった二人の悲しい戦いが今――。


「もういいやー」


 ……やっぱり始まらない。


 ニッコリ微笑んでお手上げバンザイのポーズを取るリカにラレンはクワッ! と目を見開いた。


「もういいやというのはどういいやということでしょうか、勇者様!?」


「もういいやはもういいやだよ。魔王を倒すとか、もういいやー」


「いやいやいや! ここまでの長くツライ旅を続けてきたのは魔族と魔王を倒すためだろ!」


「それを全否定ですか!? 全放棄ですか!!?」


 リカの答えにオリーとバラハもクワッ! と目を見開いてツッコミを入れる。勇者であるリカの発言に動揺する勇者パーティの面々をよそにリカはひらひらと手を振った。


「いやいや。そもそも僕の旅の目的はジー君を守ることだから。人族を滅ぼそうとしている魔族と魔王から人族側にいるだろうジー君を守ることだから」


「人族を滅ぼそうとしている魔族と魔王……?」


 玉座に座っている魔王ことジーがぼそりと呟いてこっそり首を傾げているのだけれど、勇者パーティは旅の根幹に関わる話し合いに夢中で気が付かない。


「ジー君が魔族側で魔王ならジー君に危険が及ぶ心配はない。魔族も魔王も倒す必要はない。そもそも僕がジー君に剣を向けられるわけがないしね」


「相手は魔王ですよ、勇者様!」


「幼馴染と言っても魔王だぞ、リカ!」


「親友だとしても魔王ですよ、リカ!」


「魔王だとしても幼馴染で親友のジー君だからー」


「私もリカと争うことになるのは避けたい。そんなことになったら……悲しい」


 ワーワーギャーギャーと賑やかだった勇者パーティの面々は不意に口を開いたジーの静かだがよく通る低い声にピタリと黙った。

 かと思うと――。


「ジーくぅぅぅーーーん! 絶対にそんなことにならないから大丈夫だよぉぉぉーーー!」


「肩を落としてうなだれるな、魔王! 表情は全然、変わらんが多分、きっと、落ち込んでるんだよな、魔王!」


「それですか! それが噂の顔には出ないけど心の中はギャン泣きというやつですか!」


「そうやって勇者様を騙したんだな! 現在進行形で勇者様やバカでお人好しなオリーやバラハを騙そうとしているんだな!」


「誰がバカでお人好しだ、ラレン!」


「筋肉バカのオリーはともかく、誰がバカでお人好しですか、ラレン!?」


「魔王のクセになんてあざとい真似を! 姑息な手を使うな、魔王!」


 再びワーワーギャーギャーと騒ぎ出す勇者パーティの面々を前に話を聞いているのか、いないのか。うなだれたまま、ジーはもう一度、つぶやいた。


「そんなことになったら……悲しい」


「ジーくぅぅぅーーーん!!!」


 そんなジーを見てリカは駆け寄ると再び抱き着いたのだった。

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