08-05 ずいぶんとのんきなことだ。
重たい扉をくぐっては厳重にカギをかけ、次の扉を開けてはまた厳重にカギをかけ――。
「……」
そうやってようやく辿り着いた狭苦しい一室にアーロン男爵がいた。
元々、部屋がせまいというのもあるけれど天井が低く、窓もなく、しかも中央には一室を二分するように鉄格子が設置されている。そのせいで狭苦しく、息苦しく感じてしまうのだ。
部屋に入ってきた面々をアーロン男爵は鉄格子越しに見上げた。質素な木製のイスに腰かけ、後ろ手に縛られているらしい。リカたちが部屋に入ってきてから一言も発さないのは口に拘束具が付けられているからだ。
「……取り調べするっつっといたのに」
アーロン男爵の状況を見て第二王子のルグが金色の前髪をくしゃりとかきあげてため息をついた。アーロン男爵の方も鼻で笑う。
たしかに。これでは取り調べをしようにも話すに話せない。
「すみません。そこでちょっと待っていてください」
そう言ってルグと案内役の兵士たちは鉄格子の左端にある扉を腰をかがめてくぐり、アーロン男爵がいる側に移動した。拘束具を外しに行ったのだろうとリカもオリーもバラハものんきにその様子を眺めていた。
最後に扉をくぐった兵士がカギをかけるのを見ても、アーロン男爵につけられていた拘束具を口だけでなく腕まで外すのを見ても、まだ〝ん?〟と思いながら眺めている程度だった。
つまり――。
「数日振りですね、勇者パーティの皆さん。いやあ、それにしてもなんというか……ずいぶんとのんきなことだ」
というわけである。
アーロン男爵が薄笑いを浮かべて質素なイスから立ち上がるのを見て――。
それをルグや案内役の兵士たちが平然とした顔で許しているのを見て――。
「あ、これ……はめられたパターン?」
「たしかにのんきが過ぎたかもしれませんね」
「……」
オリーは顔を引きつらせ、バラハは額を押さえてため息をつき、リカは冷ややかな目でルグとアーロン男爵を見返した。
「ラレンのヤツは今回の件に関係しているのはアーロン男爵を含めた軍だけだと信じて疑っていない様子だった。国の内情についてはラレンが情報源になっているだろう勇者様たちも同じように考えてくれていたらと思っていたんだが……」
勇者パーティの面々の表情や反応を見てルグは肩をすくめた。
「ラレンのことを本当に信頼してくれていたんですね。そんなあなたたちをだますようでなんだか気が引けます」
そう言いながらもルグの背後ではガチャリとカギが開く音がする。案内役の兵士が重たい扉を開けたのだ。鉄格子で二分された部屋の両側には扉があり、どちらからも出入りすることができる。
ただ、出入りするために必要なカギをリカもオリーもバラハも持っていない。狭苦しい地下牢にまんまと閉じ込められてしまったというわけだ。
案内役の兵士の一人が最初に扉をくぐり、次に第二王子のルグとアーロン男爵が出ていく。
「あれくらいの年になれば国とは、政治とは、王族とはどういうものか、薄々、察しがつくものなんですが。いつまで経ってもラレン様は変わらない。子供の頃のまま、今も〝かわいい王子様〟のままです」
出ていく直前、アーロン男爵は苦い笑みを浮かべてそう言い残した。幼いラレンをかわいがっていたというのは本当なのだろう。自嘲の混じるアーロン男爵の微笑みと地下牢を出ていく背中をリカは冷めた目で見送った。
最後に案内役の兵士たちがすべて出て行き、ガチャン、ガチャガチャ……と厳重にカギがかけられる音がした。
「丸腰なうえに下手に暴れればガレキに押しつぶされかねない地下牢の中か」
「さすがは王城の地下牢とでも言いましょうか。魔力を封じる術もみっちり施されていますよ」
あとに残されたオリーとバラハは狭苦しい地下牢を見まわして盛大にため息をついた。
リカはと言えば――。
「……ジー君」
地上からはるか遠く、地中深くにある天井をにらみつけて幼馴染で親友の名前を心配そうにつぶやいたのだった。




