08-02 ……クソ魔王。
それぞれの面会時間を考えると一番最後に部屋を出るのはジー、次がリカとオリー、バラハだ。そして、一番最初に部屋を出たのは――。
「魔王を連れて王都観光とは……ラレンには昔から驚かされてばかりだったけれど、今回は歴代で五本の指に入るくらい驚いたよ」
「……もうしわけありません、リレマー兄様」
一番上の兄の執務室に向かったラレンだった。
ふっかふかのソファに座って小さくなっているラレンを見て執務席に座るリレマーは苦笑いした。
「孤児院で世話してる子供たちが魔族に遭遇したと言っていると神父から報告があったって聞いてね、肝が冷えたよ。魔族と行動をともにしていた人たちの特徴がどう聞いてもラレンや勇者パーティの皆さんと一致するんだもの」
「大変もうしわけありません、リレマー兄様」
「その件については私の方で上手いことやっておくけど次からはもう少し慎重に行動するんだよ」
「はい、重ね重ね大変もうしわけありません、リレマー兄様。以後、気を付けます」
顔も体も強張らせる末の弟についにはクスクスと笑い出しながらリレマーは立ち上がった。
「ほら、ラレン。そんなに落ち込まなくていいから。お前が好きなハスティングス産の茶葉で淹れたロイヤルミルクティーだよ。冷めてしまう前にお飲み」
自身のティーカップを手に執務席から立ち上がるとラレンの対面に腰かけたリレマーはそう言って目配せする。優雅に足を組んでティーカップを傾ける兄にラレンは困り顔で微笑んでうなずくと自身の前に置かれているティーカップを手に取った。
クンと鼻を鳴らす。ミルクの甘い香りとミルクに負けない濃くて強い茶葉の香りに目を細めてラレンはティーカップを傾けた。
「……やっぱりおいしい」
そうつぶやいた瞬間――。
「あとは上手いことやっておくよ。だから、目を覚ましたあと、きちんと考えてほしい。王族であるということ。王族であるということがどういうことなのかということ」
視界がかすんで手からティーカップが滑り落ちた。床に落ちたのか、テーブルに当たったのか。ティーカップが割れる音がする。
「リレ、マー……兄、さ……」
額を押さえ、ふらつきながらも立ち上がろうとするラレンの肩をリレマーがそっと押す。
「どれくらいのあいだ、お前を幽閉することになるかはわからない。でも、大丈夫だよ。お前の身の回りの世話はサリアに頼むつもりだから。サリアならお前も安心だろう?」
ソファに引っくり返って身動き一つできなくなったラレンの金色の髪をリレマーは愛おし気になでた。
「それにお前の猫も……エリザベスもいっしょだ。エリザベスがいれば少しもさみしくないだろう?」
かすむ視界の中、一番上の兄はいつもどおりの優しい笑顔で自身を見下ろしている。でも、まちがいなくティーカップに一服盛るよう指示したのは兄で、ロイヤルミルクティーを淹れたであろう執事も共犯で――。
混乱する頭でラレンはつぶやいた。
「……クソ魔王……逃げ、ろ……」
と――。




