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幼馴染が魔王/勇者でした。  作者: 夕藤さわな
07.王都編

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07-06 魔王、怖い……!

 王城の正門から真っ直ぐに伸びる道を行くと王都で最もにぎわっている広場に出る。だだっ広い円形の広場から放射線状に伸びる通りには店やら屋台やらが並んでいて人通りも多い。


「俺のオススメ、牛肉の串焼きだぞー。そぉ~ら、食え、食えー!」」


 たっぷりタレをつけて炭火で焼いた串焼きを手に、人の波を華麗なステップでかわして戻ってきたのはオリーだ。ズイッと差し出された串焼きをバラハとラレン、リカはお礼を言って遠慮なく受け取る。

 ちなみに今日はリカもマントのフードを深々とかぶっている。銀色の髪と金色の瞳は目立つし、〝勇者様〟の代名詞だ。気付かれれば大騒ぎになってしまう。


「ほら、ジーも! 食え、食え!」


 広場のベンチに腰かけたジーの目の前にもオリーはズイッと串焼きを突き出した。


「いや、しかし……」


 ジーは困り顔でそう言うと握りしめていた手を開いて見せた。ジーの手には錆びて薄汚れた銅貨が三枚、乗っていた。十五年前に死んだ人族の母親が用意していたわずかな旅費の、ほんのわずかな残りだ。

 ただ――。


「さっきも話しただろ、魔王。その銅貨はもう何年も前に使われなくなっているんだよ。未練たらしくいつまでも眺めてるなって」


「十五年前に比べると物価もずいぶんと高騰していますからね」


「今じゃあ、ガキの小遣いにすらならねえよ」


 というわけである。

 仏頂面のラレンと苦笑いしているバラハ、オリーを見上げてジーは肩を落とした。あいかわらず淡々とした表情だけれど心の中ではしょんぼりとうなだれているのだろう。

 ちなみにジーがしょんぼりとうなだれている理由は――。


「だが、そうすると……私は串焼きのお代を払うことができない」


 というわけである。

 うつむいたまま、オリーが差し出す串焼きを受け取ろうとしないジーを見てラレンは盛大にため息をついた。


「魔王のクセに真面目かよ。魔王って言ったら無銭飲食どころか脅迫強奪当たり前、傍若無人の権化ってイメージなのに」


「それは人族のあいだで伝わっているイメージだ。魔王領でも脅迫強奪はもちろん、無銭飲食も犯罪だ。傍若無人な振る舞いもいけないと教わる。お代を払わなければ串焼き屋のおじさんだけでなく、家族にも迷惑をかけることになってしまう。お代は……串焼きのおはをきちんと払わなければ」


「……魔王のクセに真面目かよ」


 深々とフードを被った頭を抱えてうめき声をあげるジーを見下ろしてラレンは再びため息をついた。ただし、表情は苦笑いだが。


「大丈夫だよ、ジー君! ジー君の分の串焼きのお代は僕が払うから! スープのお代もクレープのお代も全部、僕が払うから! なんなら屋台ごとでも店ごとでも僕が買ってあげるから!」


「落ち着いてください、リカ。ジーがあまりの勢いにドン引きしてます」


「串焼きくらい俺が奢ってやるって。遠慮もドン引きもせずに食え、食え!」


 再びズイッと差し出された串焼きのイイ匂いに鼻をひくつかせ、ジーはオリーを上目遣いに見た。


「こう見えてこの中で一番年上のオリーが奢ると言っているんです。遠慮なんてしなくていいんですよ、ジー。というわけでごちそうさまです、オリー」


「遠慮するとむしろ失礼にあたるらしいからね、というわけでごちそうさま、オリー」


 まだためらっているジーの背中をポン! と押したあと、バラハとリカはにんまりとオリーを見上げた。


「え、いや……奢るのはジーだけ……」


「ごちそうさまー、オリー!」


 慌てふためくオリーの言葉をラレンが大声でさえぎる。おろおろしているオリーとニヤニヤしているバラハ、リカ、ラレンを見上げたあと、ジーは目を細めた。あいかわらず淡々とした表情だけれど心の中では嬉しそうに微笑んでいるのだろう。


「ありがとう、オリー。みんなも。遠慮なくいただく」


 そう言ってようやく串焼きに手を伸ばした。パーティメンバー全員分の串焼きを奢ることになっておろおろしていたオリーも笑顔になった。


「おうよ。遠慮なく食って大きくなりなさーい」


「これ以上、魔王コイツ図体ずうたいが大きくなったら邪魔だろ」


「邪魔……!」


 串焼きを受け取ったジーがラレンの言葉にショックを受けて動きを止めた瞬間――。


「スキあり!」


「こっちもいただき!」


 小さな影がサッと魔王と勇者パーティの面々のあいだを駆け抜けた。

 突然のことに目をパチクリさせて固まっていたジーだったがギシギシときしんだ音がしそうなほどにぎこちない動きで自分の手を見下ろした。


「串、焼……き……」


 を、にぎりしめていたはずの右手と――。


「銅、貨……」


 を、にぎりしめていたはずの左手を見下ろした。

 見下ろした手に何もないことを確認してジーはみるみるうちに青ざめると叫んだ。


「ご、強奪……ま、まままま……魔王が、出た……!」


「いや、お前が魔王だろ」


「ま、まままま……魔王! 魔王、怖い……!」


「いや、だから! お前が魔王だろ!? 怖いってなんだ!」


 ガクガクブルブルと震えるジーに怒鳴りながらラレンは串焼きを頬張ると念のために持ってきていた杖を手に駆け出す。オリーとバラハも串焼きを頬張って、ラレンよりも一足先に駆け出している。

 そして――。


「ジー君の敵は僕の敵。ジー君の串焼きとジー君のお母さんの形見の銅貨をジー君の手から強奪する者がいるなら僕は全力で取り返すし、全力で……」


 誰よりも早く駆け出していたリカは殺気をダダ洩れさせつつ神剣をなでなでなでなで、小さな影を追いかけていた。


「排除する!!!」


 勇者とは思えない形相で、だ。

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