07-04 絶品料理……!
「フードで顔を隠してたときとはまた違った不審者感があるな、魔王」
「……!」
だだっ広い浴場に入ってくるなり冷ややかな声で言うラレンにジーはビクリと肩を震わせて小さくなった。
あいかわらず表情は淡々としているけれどよく見ると目が動揺で泳いでいる。頭部から生えている雄牛のような黒い角と赤い瞳を隠して湯船に浸かろうとしてタオルを巻いてみたのだろうけどコソドロにしか見えない。
そんなジーを見下ろしてラレンはため息を一つ。
「人払いはしてあるからタオルを外して堂々と、のびのびと湯船に浸かってろ。もし見られても勇者様に使役された魔族だっていいわけすればいいだろ」
「ジー君は僕の幼馴染で親友で憧れで勇者様で崇め奉る存在だ! ジー君に〝ご主人様〟なんて呼ばれるのは解釈違いだ!!!」
「魔王の身を守るためです、勇者様! 嘘も方便というやつです、勇者様!」
「よろしく頼んだ、リカ」
「解釈違い……解釈違いだけど……わかったよ、ジーくぅぅぅうううーーーん!」
「ふぐ……っ、……た、助か……る……」
結構な勢いで突進し、首にしがみつくリカにうめき声をあげつつ、ジーは被っていたタオルを外した。
「ラレンのやつ、リカの扱いが上手くなってきてねえか?」
「ええ、あの勇者崇拝過激派だったラレンが完全にリカを口先であしらってますね」
リカとジーと、その隣で久々の広くてキレイな風呂を満喫しているラレンを見てオリーとバラハはこそこそと小声で言い合った。
「それで、ラレン。久々に家族に会ってきてどうだった?」
オリーとバラハのコソコソ話は聞こえていないらしいリカがラレンに尋ねる。
「元気でしたよ。アーロン男爵の件も軍幹部含めて話をすると言っていましたし、魔王との面会も了承してくれました。……時間を作るから一週間くらい待ってくれってさ」
「そうか。ありがとう、ラレン」
目配せして後半部分を言うラレンにジーはこくりとうなずいた。あいかわらず表情は淡々としているけれど目を細めている様子からして心の中ではニコニコと微笑んでいるのだろう。そんなジーの胸中がわかるからこそラレンはフン! と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「そういうわけだからしばらくはのんびり王都観光でも楽しんだらいいんじゃない?」
照れ隠しに素っ気ない口調で言ったあとでラレンは口元を手で覆ってうつむいた。
人族であるオリーとバラハに言うのと同じ調子で気安く王都観光をすすめたけれどジーは人族と魔族のハーフで、魔族の長である魔王だ。頭部からは雄牛のような黒い角が生えているし瞳は赤いし、一目で魔族だとわかる外見をしているのだ。
王城どころかラレンが用意させた客室からすらも怖くてほとんど出れないかもしれない。
「まあ、王都観光なんてしなくたって僕の部屋にいくらでも本やゲームがあるんだけどね! それこそ時間がいくらあっても足りないくらいあるから別にずっと引きこもってたって……!」
なんてあわててフォローを入れるラレンをよそに――。
「北の通りに出てた串焼きの屋台、まだあるかな。たっぷりタレをつけて炭火で焼いた牛肉の串焼き!」
「牛肉の串焼き……!」
オリーの言葉を聞いたジーが目を輝かせる。
そんでもって――。
「前にあの屋台を訪れたのは三年前ですからね、どうでしょう。私は西の通りにある店が出していた魚介たっぷりのスープを食べに行きたいですね」
「魚介たっぷりのスープ……!」
バラハの言葉にも目を輝かせた。あいかわらずの淡々とした表情だけれどよくよく見れば目を輝かせている。幼馴染で親友のリカはもちろん、ここ数日、ずっといっしょにいる勇者パーティの面々が見れば一目瞭然の輝きだ。
「串焼きもスープもいいけどジー君にオススメするなら南の通りのクレープ屋さんだよ、絶対!」
「クレープ屋……!」
「生クリームとフルーツがたっぷり乗ったクレープが出てくるんだよ!」
「生クリーム……! フルーツ……!」
リカの言葉にジーはますます目を輝かせる。幼馴染で親友のリカはもちろん、ここ数日、ずっといっしょにいる勇者パーティの面々が見れば心の中はウッキウキだと一目瞭然だ。
「……」
勇者パーティの面々の一人で、ここ数日、ずっといっしょにいるラレンにも一目瞭然。
そんなわけで――。
「心配して損した! ああ、もう! 美味しい物を好きなだけ食べて食い倒れればいいよ、バカ魔王!」
「バカ……!?」
「でもまあ、ウチのシェフが作る料理に敵う料理を出す店なんて王都中探しても一軒としてないだろうけどね! まずは今夜、ウチのシェフが腕によりをかけて作った絶品料理で食い倒れればいいよ、バカ魔王!」
「ブ、ファッ! 顔に水しぶきが!」
「コラ、ラレン。子供みたいに湯船の中で暴れないでください」
だだっ広いお風呂の中で地団駄を踏むというか、バタバタとバタ足をするラレンにオリーは顔をしかめ、バラハはじろりと目をつりあげた。
ワーワーギャーギャーと賑やかな三人をニコニコと微笑んで見守るリカの隣でジーはさらに目を輝かせた。
「絶品料理……!」




