07-03 お前が末の子で良かった。
「なるほど。お前の話はよくわかったよ」
執務室のソファに腰掛けて紅茶を飲み飲み、一言も発しずに話を聞いていたアルマリア神聖帝国現国王である父の笑みにラレンはほっと息をついた。
広い執務室の中央に置かれたソファに優雅に腰かけたラレンの父親は髪もひげも年で白くなってはいるがすらりと背の高い紳士だ。高い鼻と鋭い眼光のせいか猛禽類を思わせる雰囲気がある。
そして――。
「勇者様といっしょに魔王を倒しに行くと言って城を出て行ったときも驚いたけれど、魔王と友達になって帰ってくるとはね」
「友達なんかじゃないですよ、魔王は」
父の隣に座る一番上の兄・リレマーは意地の悪い笑みをラレンに向けた。ラレン同様に金髪碧眼の王子様然とした雰囲気だが大人のよゆうというか落ち着きがある。
そして――。
「魔族全体はわからないけどアイツが言うことは信用できると思う、アーロン男爵を含めた軍幹部がうその報告をしている可能性が高い、なーんて言っておいて〝友達じゃない〟かよ。ラレンはあいかわらずアマノジャクだなぁ」
ラレンの隣に座る二番目の兄・ルグがケラケラと声をあげて笑った。ラレンとリレマーと同じように金髪碧眼だが、鍛え上げられた体のせいで王子と言うよりは騎士か戦士の雰囲気だ。
「魔王を信用しているわけじゃありませんよ、ルグ兄様。勇者様の幼馴染で親友だと言うから信じてやらないこともないんです。勇者様が持つ神剣の力でアーロン男爵がうそをついていると明らかになったから魔王が言うことも信じてやらないこともないんです。つまり僕が信じているのは勇者様です!」
「あー、へー、そうかー。……あいかわらずの勇者崇拝っぷりだな、ラレン」
ガシッ! と拳をにぎりしめるラレンにリレマーもルグも、父である国王も苦笑いした。
「三年振りに帰ってきたと思ったらあいかわらず王族らしい威厳というものがない子だな。お前が末の子で良かったと思うよ。王族らしくあれ、としつこく叱らないで済む」
「えっと……その件については、その……もうしわけありません」
父の言葉に小さくなるラレンを見て父も二人の兄もますます楽し気に笑う。
「とにかく、話はわかった。魔王との面会も了承した。今日明日とはいかないが一週間のうちには時間を作ろう」
「ありがとうございます。魔王にもそう伝えておきます」
ひとしきり笑ったあと、アルマリア神聖帝国現国王の顔つきに戻った父を見てラレンは慌てて背筋を伸ばす。久々に〝王族の威厳〟にあてられて表情が強張っているラレンの肩をルグがバシンと叩いた。
「ほら、お前も風呂に入って汚れを落としてこい。三年ものあいだ過酷な旅をして久々に帰ってきたんだ。しっかり休んで疲れを取らないと」
「ベッドに横になる前に食事もきちんと取るんだよ。〝かわいい王子様〟が帰ってきたってシェフたちも張り切っているんだからね」
「ありがとうございます、リレマー兄様、ルグ兄様。それでは、失礼します」
ニカッと歯を見せて笑う二番目の兄・ルグと目を細めて微笑む一番上の兄・リレマーに笑顔を返してラレンは執務室を後にした。ドアが閉まり、ラレンの足音がすっかり遠のくのを待って父はソファのひじ掛けにひじをついた。
「本当に……いつまで経っても王族らしくならない子だ」
額に手をあてて息を吐き出す父の表情は見えない。ただ、アルマリア神聖帝国現国王である父の言葉に兄二人は黙って微笑むだけだ。
そして――。
「アーロン男爵と軍、それから大臣たちとの調整はお前たちに任せる。私は魔王との面会の準備を進める」
アルマリア神聖帝国現国王の威厳ある低い声に黙ってうなずくと兄二人はそれぞれの仕事に取りかかるために立ち上がったのだった。




