06-06 いっしょに王都に行こう。
「魔王、そんなわけだから僕たちは一旦、王都に戻るよ」
「そうか」
ラレンの言葉にジーは勇者パーティの面々の顔をぐるりと見まわした。オリーとバラハ、リカも同意するようにうなずく。
指揮官として魔族と戦ったとうその報告をした罪と魔族に襲われたとうそをついて領内の村を焼いた罪。アーロン男爵の二つの罪についてラレンの父親であるアルマリア神聖帝国現国王に報告しないといけない。それにアーロン男爵邸の地下牢にいつまでも閉じ込めておくわけにもいかない。
「ラレンの細腕じゃあ、軍人上がりの領主様を連行するのはキツイだろうからな」
「キツイっていうかムリだよ。筋肉バカなオリーじゃないとムリ。バラハの氷魔法で両手に手錠かけてもらってもムリ」
「そうですよね、ムリですよね。私もムリです。ここぞとばかりに筋肉バカをこき使ってください、ラレン」
「筋肉バカ、筋肉バカってそんな風に言うなよ。悲しくなってくるだろー!」
ワーワーギャーギャーとにぎやかなオリーとバラハ、ラレンをジーはあいかわらずの淡々とした表情で見守る。よく見ると目を細めているから心の中では〝仲の良いパーティだな〟とニコニコしているのだろう。
リカはといえば――。
「ジー君を傷付けようとする者たちを全力で排除し、うそと誤解の根源を迅速に排除するため、僕も王都に行ってくるよ。嘘偽りのない真実をとっとと告白してもらうためにも女神アルマリアの力が必要だろうからね」
ニコニコと勇者スマイルを浮かべて神剣の柄をなでなでなでなでしている。〝女神の懺悔〟を使いまくって真実を白日の下に晒しまくる気満々だ。
「二次被害的なことが起こらないといいけど」
こっそり心配するラレンをよそに表情を引きしめたリカがジーの赤い瞳を見上げた。
「それでジー君はどうする? 魔王城に戻るならバラハに空間転移で送ってもらうよ。ジーキルさんも心配してるだろうし」
口をはさむすきもなく早口でそこまで言い切ったリカをじっと見つめたあと、ジーは肩をすくめた。多分、心の中では苦笑いをしているのだろう。
「心配してくれているんだな、リカ。ありがとう」
そう言ってジーは目を細めた。ジーの表情と言葉にリカはほっと息をつく。
人族と魔族は長く対立してきたとされている。少なくとも人族側はそう思っているし、魔族を敵視している。人族の中でも魔王領の隣国であり、大国でもあるアルマリア神聖帝国の国王と魔族の長である魔王が接近する、場合によっては対面するとなったら何が起こるか。
ジーの身に降りかかるかもしれない危険をリカは恐れているのだ。
リカが心配する理由をジーもよくわかっている。だからこそ、ももの上で組んだ両手は小刻みに震えているのだ。
それでも――。
「だが、私も王都に行きたい。リカたちといっしょに行きたいと思っている」
ジーはそう言った。リカは目をむいて凍りつき、オリーとバラハ、ラレンも心配そうな顔でジーを見返した。
「魔王城には数百年に渡って祖父や父に仕え、魔王領を治めてきた者たちがいる。父の後を継いで魔王の座につきはしたが私がいなくても困りはしないのだ」
あいかわらず淡々とした表情だけれど心の中では自嘲気味に笑っているのだろう。ジーは肩をすくめてみせた。
「人族の母の血を引く私が魔王としてやれることは魔族が人族を滅ぼそうとしているという誤解をとくことや人族との友好関係を結ぶこと……だと思う。魔族の長である魔王自ら人族の王に会いに行き、直接、話をすれば誤解も早くとけるかもしれないし」
「血の惨劇を想像するだけで気を失えるくせに。繊細な性格してるんだか雑な性格してるんだか。わけのわからない魔王だな」
あきれ顔で深々とため息をついたあと、ラレンは眉間にしわを寄せているリカに向き直る。つられてオリーとバラハも顔を向けた。
「勇者様、魔王がこう言ってるんです」
「いいじゃねえか、リカ。ジーもいっしょに連れて行ってやろうぜ」
「心配なのもわかりますが私たちもいっしょなんですから」
ラレンとオリー、バラハにじっと見つめられてもリカは黙り込んだままだ。
でも――。
「……リカ」
ジーが震える手を差し出すのを見てリカはため息をついた。
そして――。
「わかったよ、ジー君。心配だけど……ものすっっっごく心配だけど……ジー君の望みを叶えるため。何よりジー君の安心安全な暮らしのため」
ジーの手をにぎると困ったように微笑んだ。
「いっしょに王都に行こう。そして、いっしょに誤解をとこう」




