06-05 友好な関係!
ラレンがアルマリア神聖帝国現国王の息子で第三王子であることは屋敷の主人であるアーロン男爵の口から使用人たちに伝わっている。王族に命じられたとなれば屋敷の主人であっても地下牢に閉じこめざるおえない。
「オリーとバラハの村が魔族に襲われたって話も、僕がアーロン男爵から聞いた魔族との戦争の話も、結局、どちらも嘘だったってことか」
アーロン男爵不在の客間のソファに腰かけてため息をつくラレンの様子をすみに控える使用人たちは緊張した面持ちでうかがっている。
戸惑っているようにも怯えているようにも見える使用人たちの表情に縮こまっているのは魔族であり魔王であるジーだ。黒い角も赤い瞳も隠れるようにフードを深くかぶっている。
「指揮官として数百人を引き連れて戦場に向かったんだ。そんな大それたうそをアーロン男爵一人でつけるとは思えないんだよね」
「魔族と戦ったってうそをついてるヤツが他にもいるってことか」
「魔族は人族を襲っていない。三百年のあいだ、戦争をしていない。そう、ジーとジーキルさんに言われてもにわかには信じられませんでしたが……本当にそうなのかもしれないと思えてきました」
子供の頃から慕っていたし信じてもいたアーロン男爵のうそと裏切りにうなだれているラレンはもちろんのこと、オリーとバラハの表情も暗い。
ジーはといえば三人の表情を見て手を伸ばしたり、引っ込めたり、また伸ばしたりとおろおろしている。そんなジーの隣に座るリカはニッコリ勇者スマイルを浮かべてアーロン男爵邸の使用人たちが出してくれた紅茶を飲みながら言う。
「僕としては誰が誰に対してどんなうそをついていても構わないんだけどね。うそと誤解が原因でジー君を傷付けようとする者が出て来るなら排除するしかないよね。全力でうそと誤解の根源を排除するしかないよね」
「さわやか好青年風の顔して暗殺者を雇う裏組織のボスみたいなことを言うなよ、リカ」
「まあ、リカの場合は誰かになんて任せずに自らヤるんでしょうけど」
「もちろん僕自ら全力で排除するよ」
「リ、リカ……」
オリーとバラハにツッコまれようが白い目で見られようが気にする様子もなく、勇者スマイルのまま殺気をダダ洩れさせるリカにジーがおろおろとする。
「勇者様自ら排除しないでください! ていうか、排除するとか血なまぐさい選択を一切の迷いも躊躇もなく選ばないでください、勇者様!」
勇者崇拝過激派のラレンがバシンバシンとテーブルを叩いて涙目で抗議する。子供の頃に憧れてた人はアレだし今の推しはコレだしで散々だ。バシンバシンとテーブルを叩いて涙目で抗議する。
ひとしきりバシンバシンとテーブルを叩いたあと、深呼吸を一つ。
「長い間、組織的に虚偽の報告がされていたとわかれば一気に状況が変わるかもしれないな」
ラレンは顔をあげると真っ直ぐにジーを見つめた。ラレンたちの重たい空気におろおろし、使用人たちの怯えた表情におどおどしてたジーは背筋を伸ばした。
「それは、つまり……魔族が人族を滅ぼそうとしているという誤解もとけるかもしれないということか」
「ああ」
「魔族と人族が友好な関係を築けるかもしれないということか」
「いや、そこまでは……」
と、否定の言葉を口にしかけたラレンだったが――。
「友好な……関係……!」
そうつぶやくジーを見てあわてて口をつぐんだ。
あいかわらず淡々とした表情をしているけど心の中ではウッキウキに浮かれているのだろう。目をキラキラと輝かせ、ノリノリで左右に体を揺らし始めるジーをしばらく眺めたあと、ラレンはフン! と鼻を鳴らした。
そして――。
「築けるんじゃない? 簡単にはいかないだろうし、時間もかかるだろうけど」
ぶっきらぼうな口調でそう答えるとそっぽを向いた。ラレンのその態度が気恥ずかしさから来るものだとわかっているオリーとバラハ、リカがくすりと微笑む。
ジーはといえば――。
「友好な関係!」
ラレンのお墨付きを得て、ますます目を輝かせたのだった。




