06-03 残念ですよ。
「私がその村を通りかかったのは偶然……ではなく、村の青年四人と約束したとおりの日時のこと、でし……た……。……?」
自身ののどを手で押さえて首をかしげるアーロン男爵の目を真っ直ぐに見つめてラレンが言う。
「勇者様が女神アルマリアから授かった神剣の力。過去に犯した罪悪を告白できずにいる人々を女神アルマリアの慈愛によって救い出す力、だそうです」
そして――。
「というのが建前で、本音はうそなんてついてジー君の時間を無駄に浪費させてなるもの……ふぐっ」
「……」
余計なことを言おうとするリカの口をジーが無言でふさいだ。リカとジーのやりとりを一瞥したあと、アーロン男爵は黙ってラレンに向き直る。
「今日、僕が聞きに来たのは子供に語って聞かせる作り話ではなく、十五年前の事実です」
行使された女神アルマリアの力というのがどういうものか理解したらしい。アーロン男爵はため息を一つ。
「残念ですよ、ラレン様。〝かわいい王子様〟が会いに来てくれたと信じて喜んでいたのに」
「私も残念です、アーロン男爵。私にとってあなたは憧れの〝指揮官殿〟でしたから」
「〝指揮官殿〟……ですか。懐かしい呼ばれ方ですね」
苦い笑みを浮かべたあと、アーロン男爵はソファに深々と腰かけ直した。手を組んで悠然と微笑むとラレンや目をつりあげているオリー、バラハを挑むような目で見返して言った。
「村の協力者から聞いて大体のことはご存知なのでしょう。でしたら、手間も時間もかけずにいきましょう。知りたいことはなんですか。質問をどうぞ」
「この……!」
開き直っているようにも聞こえるアーロン男爵の物言いにガタン! と大きな音を立ててオリーが席を立つ。そんなオリーの腕をつかんで止めるとバラハは黙ってラレンの横顔を見つめた。
ここはラレンに任せる。
そう決めているのだろう。バラハも、リカもジーも唇を引き結んで成り行きを見守っている。三人の様子を見たオリーはガリガリとえり首をかいたあと、ソファにドサリと腰かけた。
「村に火を放った理由は?」
四人の考えを察してラレンは背筋を伸ばすと淡々とした口調で質問を始めた。
「客人をもてなすのにちょうどいい狩場を探していたんですよ」
アーロン男爵も淡々とした口調で、しかし、悠然とした笑みを浮かべたまま答える。
「あの森はイノシシにシカ、キツネにウサギにキジと獲物が豊富なんです。魔王領からの瘴気も季節風の関係で狩りのシーズンには届かない。穏便に立ち退いてもらおうと村長に他のもう少し肥えた土地をすすめたのですが……」
自分たちが苦労して拓いた土地だからと移ろうとしなかったのだろう。年かさの村人たちの顔を思い浮かべてオリーとバラハは唇をかんだ。
「それで魔族に襲われて村は焼け落ちた、ということにしてあの土地から立ち退いてもらったんです」
「村の青年四人を仲間に引き入れて、ですか」
「働き口をチラつかせて協力はしてもらいましたが……仲間という表現が正しいかどうか」
そう言ってアーロン男爵は鼻で笑う。正しいかどうか、などと言ってはいるが駒程度にしか考えていないということだろう。苦々しい表情のオリーとバラハを見返してアーロン男爵はにこりと微笑んだ。
「あの森はもう狩場としては使えない。心苦しいが彼らもそろそろ解雇しなければと思っていたところだ。彼らとキミらでもう一度、あの土地を開拓したらどうかね?」
「コイツ……!」
「……オリー」
「もう一つ!」
つかみかかろうと再び身を乗り出すオリーの腕をリカがつかんで止め、ラレンは強い口調でさえぎった。
「魔族に襲われたと信じこませるために赤い眼球を見せたと聞いています。どこで手に入れたんですか」
ラレンの言葉にアーロン男爵は目を丸くして首をかしげた。でも、すぐに思い出したのだろう。
「ああ、そういえば……そんな小道具も用意してましたね」
そうつぶやいて天井を仰ぎ見た。
「たしか……そう、魔族の子供から拝借したんです。母親は人族だったようだから魔族とのハーフかもしれませんね。十才くらいの黒い髪をして、黒い角を生やした、――!」
戦士であるオリーはもちろん、バラハやラレン、隣に座っていたジーが止めるよりも早く――。
「ジー君の敵は僕の敵。ジー君を傷付けた者たちは全力で排除する」
アーロン男爵の喉元に剣先を突きつけたリカは冷ややかな声で言った。
「ジー君から左目とお母さんを奪ったのはお前か」




