06-02 すっかり大きくなられて!
応接室に通されて一時間ほどが経っただろうか。
「お久しぶりです、ラレン様。お待たせしてしまい大変もうしわけありません。ああ、あの小さかった王子様がすっかり大きくなられて!」
両腕を広げて歓迎の意を表したのはこの屋敷の主であり、この土地の領主であるアーロン・ユーバンク男爵だ。
六十代に差し掛かろうかという年令のはずだが、五十代と言われても四十代と言われても疑わない外見をしている。今も鍛えているのだろうガッシリとした体躯や凛とした立ち居振る舞い、良く動く表情や張りのある声もあって実年齢よりもずっと若く見える。
「いいえ。こちらこそ突然、お邪魔してしまいもうしわけありません」
「何をおっしゃいますか。私のひざに座って魔族と戦ったときの話を語って聞かせてほしいと何度も、何時間もせがんだ〝かわいい王子様〟はどこへ行ってしまわれたんですか。突然の来訪などうれしい贈り物以外の何物でもありませんよ」
豪快に笑うアーロン男爵にラレンははにかんだ微笑みを浮かべた。子供の頃の話を持ち出されるというのは気恥ずかしいものがあるのだろう。
アーロン男爵の方もラレンの胸中を察したのだろう。くすりと笑うとリカとオリーとバラハ、フードを目深にかぶって顔を隠したジーへと視線を向けた。
「それで……こちらは? もしや、勇者パーティの方々ですか」
「ええ」
「ラレン様が勇者パーティに加わったといううわさはこの辺境の領地にも届いておりましたが……ご無事で何よりです。今回はどのようなご用件でこちらに? どのようなご用件であってもどうか、しばらく屋敷に滞在して旅の疲れを癒してください」
「アーロン男爵」
部屋のすみに控えているメイドに指示を出そうとするアーロン男爵をラレンが止める。
「十五年前、魔王領の一番近くにある村が魔族に襲われたと聞きました。村を襲った魔族をアーロン男爵が一度は捕らえた、とも。どんな魔族だったか、話して聞かせてもらえませんか」
ラレンの言葉にアーロン男爵は目を丸くした。でも、すぐにくすりと笑みをもらすとソファに座るよう手振りですすめる。
「すっかり大きくなられたと思っていましたが今も変わらず〝かわいい王子様〟ですね。まさか、またラレン様に魔族と戦ったときの話をせがまれるとは。もちろんです。喜んで、いくらでもお話ししましょう」
ラレンを含めた勇者パーティの面々がソファに腰かけるのを待ち、自身も空いている席に座るとアーロン男爵は顔をくしゃくしゃにして笑った。そんなアーロン男爵を前にうつむくラレンの横で勇者スマイルを浮かべたリカがつぶやく。
「……〝女神の懺悔〟」
と――。




