01-04 子供時代の話。(勇者編)
「ジー君と出会ったのは僕が九才の頃。当時、僕が暮らしていた人族の町でのことだったんだ」
「胸の前で手を組んで、お目目キラキラさせて。お前は恋する乙女か、リカ」
「スクワットしながら何、言ってるんですか。あなたは筋肉バカなんですか、オリー。……あ、筋肉バカでしたね。紛うことなくバカで、筋肉バカでしたね」
フン! フン! と暑苦しい声をあげながらスクワットするオリーにも、そんなオリーを冷ややかな目で見つつツッコミを入れるバラハにも動じることなくリカは話を続ける。
「人族と魔族のハーフで、髪や目の色もこんなで。何より、その頃の僕は弱虫の泣き虫だったからいじめっ子たちのいい標的でね。その日もいつものようにいじめっ子たちに取り囲まれてしまって……」
「時間があれば鍛えるのが戦士だ!」
「魔王を前にしても?」
「その通りだよ! 魔王を前にしてどうしてのんきにボケとツッコミをやってるんだよ、オリーとバラハは!」
フン! フン! と暑苦しい声をあげながらスクワットするオリーにも、そんなオリーを冷ややかな目で見つつツッコミを入れるバラハにも、そんなオリーとバラハにブチギレ気味にツッコミを入れるラレンにも動じることなくリカは話を続ける。
「そこに現れたのがジー君だったんだ。九才とは思えない気品を漂わせて颯爽と現れると僕を背にかばい、いじめっ子たちにやめるよう注意し、怒ったいじめっ子たちにボコボコにされても決して殴り返したりせず、ただじっといじめっ子たちを見つめてた」
「魔王を前にしても、だ!」
「体力を消耗したところを魔王に狙われたらどうしようとか考えないんですか。あなたは筋肉バカなんですか、オリー。あ、筋肉バカでしたね。紛うことなくバカで、筋肉バカでしたね」
「魔王を前にしてどうしてのんきに勇者様の思い出話を聞いているんですか、僕たちは! 推しが語る推しの子供時代の話とか最の高ではあるけれども!! あるけれども!!!」
「殴られても殴り返さず、怒鳴ったり泣いたりもせず、ただ静かに目をそらすことなく見つめ続けるジー君の内なる強さに恐れ戦いたいじめっ子たちはそのうちに心が折れて捨て台詞を吐いて逃げて行った。……あの日から僕にとってジー君は憧れの存在で、僕の勇者様なんだよ!」
「筋肉バカ、筋肉バカってそんな風に言うなよ。悲しくなってくるだろ。昔はオー君、オー君っていっつも俺の後をくっついてまわって、あんなに可愛かっ――」
「うるさいですよ、筋肉バカ。いつの話をしてるんですか」
「ゆ、勇者様が……勇者様が魔王のことを勇者様とか言わないでくださいー! 憧れとか言わないでくださいぃぃいいいーーー!!!」
「……ふむ」
幼馴染で親友のリカを筆頭に賑やかな勇者パーティの面々を眺めてジーは静かに頷いた。
そして――。
「君たちはとても仲の良いパーティなんだな」
大真面目な顔でそう感想を述べたのだった。