04-08 あの星空と同じ。
「バラハ、もうちょい火力強めで」
「ねえ、湯気が立ちのぼってるよ。これだと警備兵が駆けつけてくるんじゃない?」
「舞い踊れ、火蝶……もうちょっとだけ激しめで……歌い叫べ、風鶏……ものすごーく小声で……」
「おお、完璧な微調整!」
「そういう指示で威力の調整してるんだ、魔法使いって」
バルコニーに出てイノシシの干し肉スープと言うかお湯で戻したイノシシの干し肉とゆで汁と言うか……なものをワーワーギャーギャーと作っているオリーとバラハ、ラレンをジーは淡々とした表情で見守る。
「やはりキミたちはとても仲の良いパーティだな」
心の中では目を細めて微笑んでいるのだろうジーの隣に立ってリカもニコニコと微笑んだ。
ふと顔を上げると夜の空には無数の星が瞬いている。リカは星空を見上げて目を細めた。
「魔王城から見上げる星空も変わらずにきれいだね」
「変わらずに?」
「うん。昔、ジー君といっしょに夜更かしして見た星空と同じ。とってもきれいだ」
そう言ってニッコリと微笑みながらジーに視線を向けたリカは目を丸くした。ジーが星空ではなくリカのことをじっと見つめていたからだ。
「ジー君?」
あいかわらず淡々とした表情だけれど心の中では驚きに目を見開いているらしい。リカに名前を呼ばれてもジーはすぐに答えなかった。口を開いて、閉じて、何かを言い掛けて、また口を閉じて――。
「……そうか」
ようやくジーはそれだけ言った。
「私が魔王領に連れてこられたのは片目を失ってからだ。どうやら両目が見えていた頃に比べてずいぶんと見えにくくなっていたらしい。私はずっと魔王城から見える夜空には星一つないものと思っていた」
ジーは眼帯をつけている顔の左半分を手のひらで覆ってうつむいた。あいかわらず淡々とした表情だけれど心の中では自嘲気味に笑っているのかもしれない。ジーの横顔を見つめてリカは苦し気に顔をゆがませた。
でも――。
「リカが魔王城に来てくれてよかった」
「え……?」
ジーにそう言われてリカは首をかしげた。
「あの頃に――まだ両目が見えていた子供の頃にいっしょに星空を見たリカが来てくれた。だから、魔王城から見える空も同じようにきれいなのだと知ることができた。……ありがとう、リカ」
心の中ではうれしそうに微笑んでいるのだろう。
「そうか。魔王城から見える空はリカといっしょに見たあの星空と同じようにきれいなんだな」
あいかわらず表情は変わらないけれど目を細めて夜空を見上げるジーの横顔を見つめ――。
「僕の方こそ〝ありがとう〟だよ」
「……ん?」
リカは微笑んで目をふせた。
「僕は僕のままでいいと言ってくれる。僕がいる意味を与えてくれる。ジー君はいつもそう。……だから」
ありがとう、と囁くリカの横顔を見つめたあと、ジーは再び空を見上げたのだった。




