03-10 〝くまのパン屋さん〟か!
「人族が瘴気と呼んでいるものは魔王領周辺の土地で自然と発生する物。人族にとっては瘴気で、毒を含んだ危険な物のように感じるかもしれないが、しかし、魔王領で暮らす魔族や魔獣、動植物にとってはこの空気こそが当たり前で、この空気でなくては生きていけないのだ」
ジーの表情はいつも通りの淡々とした表情だ。しかし、静かだがよく通る低い声には固さがあった。
「魔族の長である魔王として、私にはこの土地に暮らす者を守り、環境を維持する責任がある。だから、魔王領のこの空気を浄化されては困るのだ」
強張った声の理由は何かあればオリーやバラハ、ラレンと対立せざるおえないと覚悟しているからだろう。ジーの胸中を察したオリーとバラハは顔を見合わせた。
そして――。
「争うつもりはない。今は、な」
両手をあげて敵意がないことを示した。それを見たジーがほっと息をつく。あいかわらず表情は変わらないけれど心の中では安堵の微笑みを浮かべているのだろう。
ジーの後ろに伸びる影がゆらりと揺らいだ。それに気が付いて横目に見ながらジーは話を続ける。
「私は魔族と人族のハーフだが、肉体は人族であった母の血を強く受け継いだのかもしれない」
「ジー君が? そんなにも立派な気品溢れる黒い角が生えているのに?」
「ああ。魔王領の空気が合わなくて魔王城に連れてこられたばかりの頃はベッドから起き上がることもできなかった。だから、髪と瞳の色以外はほとんど人間の姿と変わらないリカの肉体が魔族寄りでも不思議はない」
「ジラウザ様、お持ちしました」
ジーの影の中からジーキルが姿を現わした。〝ありがとう〟と言ってジーキルから受け取った物をジーはオリーとバラハ、ラレンに差し出す。
「魔王領の空気の中から人族にとっては有毒な成分を弾いて体内に取り込まないようにする空気清浄塗布薬だ」
「くまさんだ」
「薬入れがくまさんですね」
「子供用の薬なのか?」
「魔族と人族のハーフのために作られた薬らしいが……今は実質、私専用の薬だな。この薬入れもジーキルが私用に用意してくれた物だ」
あいかわらず表情は変わらないけれど心の中ではニッコニコの笑顔を浮かべているのだろうジーを見て、孫を見守る祖父のような目でジーを見つめるジーキルを見て、最後に薬入れに描かれているパンを手にしたかわいらしいくまを見て、オリーとバラハ、ラレンは同時に叫んだ。
「〝くまのパン屋さん〟か!」
「ゴーレム五万基を動員したスペクタクル超大作〝くまのパン屋さん〟のキャラクターグッズですね!」
「キャラクターグッズまで自主的に作ってんなよ、このじじバカが!」




