ジュエリーロジャーの挨拶歴
イタリア郊外。
街並みから少し離れたところに屋敷が建てられていた。
そこに住むのはバートン夫人。
彼女は数年前から私と交流があり、そのたびに何かしらのお土産をくれるいい人だ。
巨大な屋敷を持つ彼女には一つ、人生を語る上で、人生のエピローグを語る上で、どうしても用意しておかなければならない重要な出来事があった。
彼女には夫がいた。
『いた』と語ることにはもう感付いている人もいるだろう。
死んでいる。
亡くなっているのだ。
前述した上で私には彼女の夫である彼にも交流があった。
だからこそ、彼が死んだという話が届いた頃には驚いていたし、ほんの少し泣くこともあった。
だからこそ、彼女の終わりの手伝いを任された時、特にどんな内容かも聞かずに了承したのだろう。
ーーーおっと。名乗りを上げるのが遅かったね。
俺の名前はジュエリーロジャー。怪盗さ。
俺は数ある難事件をも解き明かした探偵や、数多の警察すらも出し抜いてきた。
そこには自負がある。自慢だね。
さて、何故このことを話すようになったのかは一つ理由がある。
単純な話さ。
今日はーーー彼女の一周忌なんだ。
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大雨の降る夜。
雷も轟々と鳴り響くその日、バートン夫人は書をしたためていた。
古めかしい羽根ペンで羊皮紙に書き連ねるそれは、何か遺言のようなもの。
一つ風が吹く。
こんな雨の日だ。普通なら戸締りをしているはずなのだが。と思うのだけれども、夫人にはとある人物を確信していた。
「来たのね。ジュエリーロジャー」
夫人は車椅子に仕込まれている拳銃を突き出してそう言った。
「伯爵夫人のお呼びとなれば、駆けつけないには参りませんーーーそんな物騒なモノ仕舞ってくれないか?」
伯爵夫人はジュエリーロジャーの紳士な装いではなく、フォーマルなスーツを身につけている姿に彼女は顔を綻ばせながら言った。
「貴方に頼みたいものがあるの」
そういうと夫人は拳銃を机に置いて、そこに置かれていたスマホ大の大きさのリモコンを持ち出して、一つボタンを押す。
すると古めかしい機械音と共に、博物館に展示するときに使われそうなショーケースが部屋の床から現れる。
最も、博物館に飾るとしては余りに高価すぎる代物だが。
「報酬はこの指輪よ」
「え?」
「これが欲しくて貴方は何度もやってきた。その結果が」
彼女は机に散らばせた写真にはジュエリーロジャーが指輪を盗もうとして失敗した瞬間が面々と記録されていた。
「あらら・・・・・・。こんなモノ大事に持ってやがったのか。だがよ、この指輪はモンパスサン家に伝わる家宝ーーーそれに、あんたの愛した人の形見だろう?」
「三年前。夫フィリップはパリで何者かに銃撃され殺された」
「だが、迷宮入りで捜査が打ち切りになったとも聞いてるがなぁ」
「だから私は独力で捜査を続けることにしたの。そして遂に犯人と思しき人間を見つけた」
彼女の答えにロジャーは、ほぅ、と相槌をつく。
「容疑者は3人。でもその内の誰がやったのかはーーー」
彼女が言い切る前にドアを三度ノックされる。
そしてガチャとドアを開けたメイドがこう言った。
「お客さまがそろそろ御付きになります」
「そう・・・・・・」
メイドは一度会釈をしてドアを閉じる。少しの行為に少しギクシャクとしていたが、そのことには疑問を持たないでおこう。
「その3人をここへ招待したわ」
「んぇ・・・・・・?」
「誰が夫を殺したか、貴方に突き止めて欲しいの」
「おいおい、冗談だろ」
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フィリップ・ドゥ・モンパスサン伯爵。
一代でフランス警備会社のシステムを作り上げた男。
天才の名を欲しいままにし、政界の進出も噂されていたが、三年前、パリの公園をジョギング中、何者かに射殺された。
あてがわれた部屋に貰った写真やパソコンで手に入れた情報をもとに繋がりを見つけていく。
そうしていると、外から車の音が近づく。
既にここはモンパスサン家の領土内だ。つまりここに来るのは件の客だと言える。
重苦しい城門と振り下ろし式の橋が下されて、そこに三台の車が見えて来る。
俺はそれを部屋の窓から見える位置に移動して観察する。
ーーー最初の車は、既に橋前で待機されており、下されたと同時に城の中へと入っていった。それを観ていると、夫人は気を利かせて紅茶を持ってきてくれた。
世界にその名を知られたソムリエーーーフレデリック・オートリア。宝石コレクターとも有名で、伯爵のエメラルドをコレクションに加えるべく、売却を迫っていた。
ーーー次の車は、ぬかるみに入った時、後ろにバランスが上手く取れず、立て直すにギクシャクしている。
伯爵の甥。アラン・リボは父親が事業に失敗した際、伯爵に援助を断られ自殺。一家は離散。アランはそのことで伯爵を恨んでいたらしい。現在は投資家として成功を収めている。
ーーー最後の車は、ぬかるみに車輪が取られ、三度立て直してようやく前に進める。その光景に夫人と俺は苦笑した。
ピエール・サミット。警備システム会社の社長だったが、会社が伯爵に買収され解雇。その後も事業に失敗し、現在はパソコンの修理屋として細々と過ごしている。
@@@@@
「あの3人の中に本当に犯人がいるのか?」
「間違いないわ」
「警察だって馬鹿じゃない。ちゃんと調べたんだろ?」
「ええ。でも3人にはアリバイがあった」
「じゃあ手の打ちようないなぁ」
「だから罠を仕掛けるのよ。犯人は夫の指輪を外そうとしていたらしい。だけど外す寸前に人が来て慌てて逃げ去った。私は新たに開発した薬品でエメラルドの表面からDNAを見つけた」
「ホントか!」
「嘘よ」
「って嘘か」
ロジャーはガクッと項垂れる。
「でも犯人は何かしらの動きを見せる。ロジャー、貴方は抑えて欲しいの」
「やれやれ・・・・・・こりゃ面倒なことになっちまったなぁ」
夫人は呼び出したメイドにこう言う。
「皆さんをお部屋にお通ししたら一時間後に食堂に集まるように伝えて」
「かしこまりました」
ロジャーはこの部屋のバルコニーに錠前が付けられていることに気づくと、ほぇ〜、と情けない声が漏れる。
「バルコニーは崩れる恐れがあるので、ドアには全て鍵を掛けているのよ」
夫人がスイッチを押すと、絵画の裏に隠されたテレビが現れる。
そこからは廊下や部屋のようすが映し出される。
「うふふ、私もこの城も年をとった」
「しかし、随分と思い切った手をとったモンだなぁ。もしかすると犯人はアンタの命を狙ってくるかもしれないんだぜ?」
「心配は無用よ。『NZフェイス』。世界最初の商用顔認識システム。登録されていない者が侵入すればすぐさま警報が鳴るわ」
「ってことは俺も登録されてるわけ?」
「もちろんよ。そして玄関には金属探知機がある、武器類は当然持ち込めない」
「一つ聞くが、どうして俺なんだ?探偵ならわんさかいるだろ?例えば日本の探偵シュガーって奴はやっかいだったしな」
「貴方にも破れないシステムを開発することが夫の悲願だったのよ。貴方が話題になるたびにそうやってファイリングしていたのよ。いつのまにかファンになってたのねーーーどう?答えになってるかしら?」
ロジャーは肩をすくむ事で答えを表した。
「さあ、始めましょうか?」
@@@@@
食堂で男が3人座っていた。
一人は携帯用の酒を煽り、それを見て一人は顔をしかめる。一人は時計と睨み合いを続けていた。
そうしているとドアが開けられ、夫人が登場した。
その後ろにはメイドのロジャーを含めてだが。
「おまたせ致しました」
「急に呼びつけて、一体なんなんだ?」
「それに一杯のワインも提供されないとは」
「申し訳ありません。今日ここにいるのはマリーだけで、手が回らず」
「おいおいメシもなしかよ」
「それよりみなさんにはコレをお見せしたいわ」
夫人がスイッチを押すと、机の中心からエメラルドが入ったショーケースが現れる。
3人がその宝石に対して各々リアクションをしていると。
「3年前・・・・・・覚えていらっしゃるわよね」
「ーーーやはりそう言うことか、ここに集まったのは伯爵殺しの容疑者だ」
「おれは帰らせてもらう」
「なんだ逃げる気か?」
「おっおれは別にーーー!」
(あまりにも暇な口論のためにロジャーは欠伸を漏らす)
「会社を乗っ取られて今はしがない修理屋か。さぞや恨んでいるだろうな?」
「行きつけのバーで飲んでいたんだ。常連客が証人だ」
(胸ポケットに入れていたノートにフレデリックをフランケンシュタインに模して落書きをして、それをメイドのマリーに見せると、彼女は笑ってくれた)
「君こそ、伯爵のエメラルドを狙っていたらしいな」
「ホテルのパーティーに出ていたんだ!私こそアリバイがある!」
「現場から走って5分の距離のホテルーーーしかもワインセラーに一人きりじゃね」
(その上で他の二人を狼男にバンパイヤに変えて落書きしたらさらに笑ってくれた)
「父親を殺されたも同然の君に言われたくない!」
「それに、君を現場で見かけたと声もある」
「シシリー島にいたんだ。人違いだって証明している」
(あまりにも暇なので欠伸を漏らしていたが、横でそれを見ていたメイドのマリーが静かに欠伸を漏らしたところを俺は見逃さなかった)
「金持ちは危ない橋は渡らないよーーーまっ、不貞腐れて飲んだくれの君は分からんがね」
「なっなんだと!」
「言い訳する必要はもうありません!犯人を指摘する証拠を私は見つけました」
「「「!!?」」」
「証拠はこのエメラルドにあります。犯人の痕跡がこのエメラルドにあったんです。特殊な薬品でそこからDNAをーーー」
瞬時、ガシャン!と明かりが遮断される。
「なんだ!?停電が!?」
バシュ!
「なんだ!今のは銃声だぞ!」
再び電気がつく頃には、メイドが悲鳴を上げていた。
そのしたには車椅子の上でグッタリとしている夫人の姿、その胸元にはじんわりと血が湿っていた。
「なんてこった・・・・・・!?」
「これでいいのよロジャー・・・・・・。犯人を見つけて」
「まさか・・・・・・最初からこのつもりで・・・・・・」
夫人は手に持っていた赤いスイッチを押すと、防犯ブザーが鳴り響き、橋が遮断された。
「夜明けまでこの城は完全に封鎖された。ーーーその間に犯人を見つけて・・・・・・報酬はアレよ・・・・・・。夜明けとともにケースのロックが解除される。貴方が最後まで開けられなかったーーー」
「バートン!」
「奥様!」
そういうと夫人は静かに息を引き取った。
「ーーー何ということだ」
「跳ね橋が上がっている」
「閉じ込められたということかーーー」
「お静かに皆さん。この城は、今から夜明けまで封鎖されましたーーー故人の意志によって」
「なんだと!?ーーーというか君は誰だ」
「私はジューーーいや、シュガー・・・・・・伯爵夫人に雇われた探偵だ。まずは皆さんのボディーチェックをさせていただく」
「なに!?」
「なんだと!?」
「探偵風情が・・・・・・」
「言うまでもないことだが、城にいたのは私を含めて6人。伯爵夫人は凶弾に倒れた。・・・・・・つまり、この中に犯人がいる」
ーーー誰が伯爵夫人を殺ったのか。
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「なーんてこった。テープが抜き取られてる。監視カメラの映像は全てアウトか・・・・・・」
「でも、顔認識システムは無事です」
「君と俺、それとあの3人以外がこの城にいれば、警報が鳴るって訳だーーーで、彼らは?」
「ーーーお部屋にお戻りです。食堂には鍵を掛け、誰も入らないようにしてあります」
「俺としたことがーーー夫人の覚悟を読みきれなかった・・・・・・」
ロジャーはベッドに寝かせた夫人の亡き骸を見つめ、自身に悪態をつく。
「奥様安らかな顔・・・・・・シュガー様、貴方を信頼しているのですね」
「ーーー待ってろよ、バートン」
ロジャー達は食堂に移動する。
散らばった席などはそのままにしておいて、あの時の状況は夫人の亡き骸は変わっていない。
そしてロジャーはあの時と同じ位置に立って思い返す。
ーーーあの時、3人はあの席の辺り・・・・・・停電、閃光、銃声・・・・・・伯爵夫人。
問題は凶器だ。3人のボディーチェックをしたが、誰も銃など待っていなかった。凶器の銃は何処に・・・・・・?
「あの、シュガー様。犯人は暗闇の中で、どうやって奥様を撃つことが出来たのでしょう?」
ロジャーはメイドの質問に、少ししゃがんで車椅子の方を向いて喋った。
「この車椅子は電動だからな、移動用スイッチがあって、それは少し点滅している。こいつを目標に撃つのか」
メイドは納得したように頷く。
そして、彼女が左を向くと、とあることに気付いたらしい。
ーーーそれは、花瓶のある自分達とは真反対にいる位置だ。
「皆さんの食堂に入られる直前に確認しました。『花粉』がこんなに落ちていたら気づくはずです」
「ほーん・・・・・・」
ロジャーはその言葉を聞いた後に、食堂のドアを開ける。
そこにはカーテンが閉められた廊下が延びている。
「窓のカーテンを閉めたのは君か?」
「いいえ、私が閉めたのは食堂のカーテンだけです」
ロジャーは窓を開ける。豪雨の中、雷も降っている。激しい天気だ。影は付きやすい。
二人はまた、夫人の部屋に戻る。
ロジャーは夫人が持っていた銃を持って弾倉を抜く。
そして手つきで銃内部の弾丸を取り出して、その銃弾と弾倉を見つめる。
仕事柄上ーーー銃を使うのは慣れているが、この銃は女性にも持てるように作られている軽い物だ。腕や脚を打って動きを致命的にするほうが用途として多い。ただ、弾倉の中身は二発分の空きがあった。銃本体に一発、おそらくだが、この銃が凶器なのだろう。ならば犯人は誰でもない可能性が高いとも言える。
その中で、ロジャーは思い出す。
3人の車の使い方を。
一人は橋前にいて、そのまま直行。
一人は車の後部の移動にもたついて、立て直すのにギクシャクしていた。
一人はぬかるみに車輪がとられ、無様にも何度も移動に失敗していた。
「ーーー3人を案内したのは君だね?」
「はい」
「3人はずっと部屋にーーー?」
「フレデリック様は部屋を出ておられました」
「出ていた・・・・・・」
「フレデリック様とお会いしたのは地下階段への廊下です」
@@@@@
「どうかなさいました?」
「ち、地下にあるワインセラーを見てみたくてね」
「こちらは奥様のお許しがないと・・・・・・」
「そうかいーーーなら後で・・・・・・」
@@@@@
「ーーーなるほど。じゃあアランとピエールの姿を見ていないと」
「いえ、アラン様はお部屋にいらっしゃるところをお見かけしました。廊下を通った時、ドアが少し開いておりましたので」
「アランは確かに部屋にいたと」
「はい。窓からじっと、外を見ておられましたーーーこんな感じで」
「ピエールは・・・・・・?」
「ピエール様は、部屋に閉じこもったままでした」
「そうか」
「お役に立てなくてすみません」
「いや・・・・・・」
ロジャーが否定しようとした瞬間、雷が鳴り響く。彼女は可愛らしい悲鳴をあげて、椅子の近くでしゃがむ。ロジャーはそのまま窓の外を見ているとーーー。
「ーーーそうか、そう言うことだったのか!」
「ーーーえ?」
「マリー、みんなを食堂に集めてくれ」
@@@@@
「ピエールはどうしたーーー?」
「さあ?」
集められる同時刻、犯人と思しき影が夫人の部屋を訪れ、そこにある銃を盗み出した。
「よぉ〜!んーっははっ、すまん。うたた寝しててよぉ」
「さて、みなさんお揃いのようで」
「犯人は分かったのかね?」
「ええ、分かりましたよ」
「ソイツは楽しみだ!オレたちはこの城に入る時、銃もナイフも没収されてんだ。どうやって夫人を撃てる?」
「伯爵夫人の銃の弾が一発減っていた」
「それこそナンセンスだ!事件が起こる前夫人の銃を見たのはいつだ!」
「夫人と部屋を出た時だ」
「君たちがここに入って来た時、我々は既に席についていた。彼女の部屋に銃を取りにいけるはずがない!」
「まだ疑問があるぞ。君は我々のボディーチェックをしたが、凶器の銃は見つからなかった。これをどう説明する?」
ロジャーは適当にノートを開いて話し出す」
「まず犯人は、監視カメラの録画データを抜き取った。そしてタイミングを見計らって城の電源を落とす。暗闇に包まれた中犯人は車椅子のランプを目印に銃を発射。夫人を殺害した」
「っーーー!」
今のメイドの反応は、これ見よがしにパラパラとページを捲り、さもここに情報が書かれているのかもしれないと思ったところを白紙のページを見せられて、ちょっと恥ずかしくなった反応だ。
「馬鹿馬鹿しい!そんなことできるわけがない!少なくともこの部屋にいたこの3人には!」
「アンタいい線ついてるぜ!そう、この部屋にいた人間に犯行は不可能だ」
「だがこの城には我々しかいない。ーーー確か顔認識とやらで登録された者しかーーー」
「登録されてない人間がいるとすぐに警報がなる」
「それだったらーーー」
「そこの花を見てほしい。下の絨毯に花粉が落ちてるだろう?あんたたちがここに来るまでには無かったそうだ」
「それがどうした!?花粉なんてちょっとしたことだけで落ちるだろう!?」
「その通り。誰かが通っただけでも落ちる。問題は『誰が』通ったかだ。これだけの量の花粉。通った者の衣服にも付着してるはず。だが誰にもついていなかった」
ロジャーは付け加えて、食堂のドアを開ける。
「さらにもう一つ。この廊下も妙だ。マリーの話だとカーテンを閉めたのは食堂だけで、あとは全て開けてあったそうだーーーでは何故開けたはずのカーテンが閉まっているのか」
「いい加減にしろ!花粉だのカーテンだの、そんな些細なことはどうだっていい!君はどうしても我々を犯人にしたいらしいが、ここは私の推理を聞いて貰いたいな!」
「お聞きしましょう」
「君がどれだけ優秀な探偵かは知らないが、一番疑わしい人物を容疑者から外すのはどう言うことだ!」
「っーーーーーー!!」
フレデリックはメイドのマリーを指差して言った。
「そう君だよ。君なら探偵の目を盗み、夫人の銃を持ち出しすことも、戻すことも可能だった。花粉もカーテンも全て君の仕業だ!捜査の撹乱!そして我々の中に犯人がいると見せかけるための!」
「そんな!私が奥様を殺すだなんて!」
「大方、遺産に目が眩んだか」
「違います!奥様は身寄りのない私を引き取って」
「暗闇になった一瞬の間に我々の後ろに周り、テーブルの向こうから夫人を撃ったんだ!」
「違う・・・・・・違います。私はーーー」
「大丈夫だマリー。ーーーその手袋を取ってみんなに見せつけるんだ。なんなら手伝ってやろうか?一人でできるかい?」
「は、はい。ありがとうございます。シュガー様」
差し出したその手からロジャーは手袋を引き出す。すると、その手は全体が包帯に包まれていた。
「これが召使いの中で唯一君を夫人が選んだ理由だ」
「三日前、不注意で火傷をーーー」
「マリー」
ロジャーをマリーの方へボールペンを投げ飛ばす。
するとマリーはボールペンを取ろうとはするが、その包帯のぎこちなさ故、取りこぼしてしまった。
「あ、ごめんなさい」
「この状態で引き金は引けないよな。さて、俺の推理だ。廊下のカーテンは何故閉められたのか?犯人にとってこの稲光は邪魔だったんだ。だからカーテンを閉めた」
「しかし、何故廊下のカーテンを?それにドアはずっと閉まっていて・・・・・・」
「犯人が恐れたのは、ある瞬間に稲光が起こることだった」
「っ!あの停電!」
「そうーーーあの暗闇に包まれた瞬間」
「ドアが開いていた」
「そんな・・・・・・」
「我々は皆席についていた。誰がドアをーーー?」
「『四人目』の客がいたのさ」
「だが顔認識システムに登録されていないと城の中に入れないはずでは!?」
「それが出来る人間が一人だけいたーーーなあ、アラン」
「っ!?」
「バルコニーに通じる窓の前につっ立ったんでいたそうだな?あんなところで何をしていたんだ?」
「ぐっ!?」
「キャビネットで窓は塞がれていたはず。どうしてわざわざ動かしたんだ?」
「そ、それは」
「もう一つあるぜ。城に入る時、ぬかるみに足を取られ随分苦労していたな、後ろのトランクに何か重いものでも入っていたのかな?」
「ぐっ・・・・・・な、何を言っているのか?」
「3年前、お前は同じやり方で伯爵を殺したんだ。そういえば、さっきの質問に答えて貰ってなかったな?どうしてキャビネットを移動させたんだ?」
「そんなことはどうでもいいだろう!?僕にはアリバイがあるんだ!」
「残念だがそのアリバイは崩れたぜ。夫人は自分の命と引き換えに犯人を突き止めようとした。その計画は見事成功したようだな」
ロジャーのその発言にマリーは机の上に置かれているエメラルドを見たーーーその瞬間!
バァン!
乾いた音と言うには湿度がこもった銃声が鳴り響く。
マリーは慌てて顔をそこに向ける。
アランは勝ち誇った顔を作るが、瞬間何が起こったのか把握して驚愕の色を塗る。
そう、ロジャーの手の先には銃が握り込まれていた。
そして、その銃の口からは煙を吐いている。
夫人はロジャーが銃を持っていることを知っていた。
わざわざ金属探知機を彼が来たときには切っていたからだ。だからロジャーは金属探知機のことは知らずに城に入り夫人と話していた。
ーーー銃は二個あった。
夫人の銃とロジャーの銃。
そして、既に夫人の銃からは銃弾を抜いた上で残していたために引き金を引いても何も起こらないが、ロジャーの銃は的確に、三人の後ろ、カーテンの中から飛び出した手を撃ち抜いたのだ。
「そんなーーー」
「ぐぅっ、がっ」
カーテンから崩れ落ちたのはアランと同じ姿の人間。
「あ、兄貴!あにきぃー!」
「ふっ、双子・・・・・・」
「このシステムはまだ双子の顔を見分けるほどの精度が無かったらしい」
「じゃあ、私が見たのは!」
「ああ、ガラスに映った姿ではなく、双子の兄弟が向き合ってってるとこだった。車のトランクから出た兄をアランが中へ引き入れるとこだったんだろうなぁ」
「迷信深かった父が双子を忌み嫌い、兄を人知れず里親に出した。父が自殺し、無一文になった頃偶然再会したんだ!」
「そして自殺をーーー」
そう言って、アランは倒れる兄を抱いて泣きじゃくっていた。
@@@@@
朝日が主がいなくなった城を照らす。
彼女の言う通り、そのタイミングになると城の橋も降りて、ガラスに仕切られたエメラルドも開けられた。
ロジャーはそのエメラルドを持って夫人の部屋へ行く。
「シュガー様、これは・・・・・・?」
「コイツが無いと、あの世で旦那に合わせる顔がないだろう?」
「シュガー様」
「ハハッ借り物の名前だが良かったぜ、まあ調子よかったし引退したら静かに探偵事務所でも開くかな?そんときは助手を君に勤めて貰おうかな?」
その言葉にマリーは笑顔で言った。
「はい、喜んで!」
その言葉と顔でロジャーは満足した。
本来ならば盗む生業である彼は、それでも、何も盗まずに夫人の城から出て行ったーーー。