愛は贅沢、だから殺意を
グッドイブニング……それとも、グッドモーニングだったりハローだったりするのかな?
キミと日中にあったことはないから、もしもグッドモーニングやハローなら新鮮だ、それはそれで悪くない、キミの色は月の下だけでなく太陽の下でも美しく輝くのだろうし。
実は、それを一度も見ずに人生を終えるのはちょっとした後悔だったりするのだけど……キミには関係ないか。
さて、この音声記録をキミが聞いている頃、ワタシはきっと死んでいるのだろう。
正確にいうと、キミがワタシを殺してくれたのだろう。
まずはありがとうを言わせてもらおうと思う、このたびはこんなロクでもないワタシのためにわざわざ罪を犯していただき、感謝感激あめあられだ。
ほんとうに、ほんとうにありがとう。
……ふふ、意味がわからない? 頭がおかしい?
なにを今更。ワタシの頭がとってもおかしいのは、キミもよく知っているだろう?
……さて、どうでもいいだろうけど一応弁明をしておこうか。
ワタシがここ数日、やかましくキミにつきまとっていたのは、ずばりキミに殺してもらうためだった。
ああやっていれば意図的にしろ衝動的にしろいずれ殺してくれると思っていたんだ。
きっとものすごくうざったかっただろうから謝る、ゴメンナサイ。
ふふふ、きっと謝罪なんかよりも『どうして自分の手を汚させたのかその理由を吐け』ってキミは怒り狂っているのだろうから、一応理由というか動機も言っておこうか。
どうでもいいなら今すぐこの音声を停止してゴミ箱にでもブチ込んでくれ。
別に御大層な理由があったわけじゃあないんでね。
キミからするととてもくだらないと思う。
……殺意というのはとても大きく強い感情だ、そうでない人は当然いるのだろうけど、少なくともキミはそうではないだろう?
だからそれが欲しかった、どうしても欲しかった。
キミは知っているだろうけど、ワタシはキミのことが大好きだから……一回切りで十分だから、ワタシに対して強く大きな感情を抱いて欲しかったんだ。
だから、ご馳走様だよ、一番欲しかったものをキミはやっとワタシにくれたんだ。
きっと最期まで笑っていたであろうワタシのことをキミは不気味に思ったに決まっているけど、ワタシが笑っている理由はただそれだけだから、あんまり気にしないで欲しい。
さあ、キミはきっとこの後忙しくなるのだと思う。
誰のせいかって? うん、ワタシのせいだね。
だけどワタシはそれも含めて嬉しいんだ、だってキミが今から大変な思いをするのはワタシのせいだから。
ワタシってば謙虚だからさ、ワタシの何かががキミの行動の理由になるっていうだけで天にも登る気持ちになるんだ、ものすごく嬉しいの。
怒っていいよ、ううん、どうかいっぱい怒ってくれ。
明日には綺麗さっぱり忘れてくれていいけれど、今この瞬間だけはワタシのことを盛大に怒ってくれ、憎んでくれ。
そういうのは大歓迎だ、ワタシはキミから向けられる『無関心』以外の感情を何よりも尊び、喜べる。
……だから。
あー、あー……そうそうワタシの死体は好きにして構わないよ、それはもうただの抜け殻、ただの肉の塊だ。
どこかに捨ててもいい、面倒ならワタシの親にでも引き渡してくれれば適当に処理してくれるだろう。
それじゃあ、あんまり長く時間をとってしまうのもよくないだろうから、この辺で。
グッドナイト、さらば我が愛、さらばこの世。
さようなら、どうしようもない人。
これで永遠のお別れだ、もう二度と会うことないなワタシのことをキミはすぐに忘れてしまうに決まっているけれど……
……いいや、なんでもない。
十分、もらえるものはもらったから。
それじゃ、ほんとうにさよならだ。
この記録媒体は再生後に爆発する!! ……わけがないのでゴミ箱にでも放ってくれ。
じゃ、ばいばーい。