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救世の召喚者  作者: 五月 和月
9/51

9 初めての召喚①

 冒険者ギルドを出て、ルルとドラゴと共に食事処と宿屋を探す事にする。


「ユウト様!ルルはもう、お腹がペっコペコです!」


 フレアを間近で見た恐怖はすでに無いようだ。若い子の順応性は素晴らしいな。


「美味しい物がありますかね~。ルルはお肉が食べたいです」


 まあ狼だし、若いからな。俺くらいの歳になると、お肉はちょこっとで良いんだよなぁ。出来れば酒を飲みながらちょこちょこと色んな物を摘まみたいのだ。ギガ肉は別物だが。


「そうだなあ。アーロンに聞いた宿屋に行ってみるか。美味い飯が評判らしいし」


 俺はちゃんとアーロンにお勧めの宿屋と食事処を聞いていたのだ。伊達に五十年も生きてない。その辺は抜かりないのである。


「そうですね!美味しいお肉、あるかな~」


 ギルドから南へ五分ほど歩くと、教えられた宿屋があった。その名も「銀狼亭」。ルルにぴったりの名前だ。


 中に入ると受付があり、奥で食事と酒を提供しているようだった。部屋を二部屋頼み、宿代は銀貨一枚で払ってお釣りが小銀貨二枚。一部屋一泊四千円ってところだ。


 俺は受付のおばちゃんにお釣りの小銀貨二枚を握らせ、ドラゴに快適な場所を用意してくれるようお願いした。


 銀狼亭には、馬小屋とパンゴル小屋が併設されていた。パンゴルは馬を襲ったりしないが、馬の方がビビッて落ち着かないらしい。


「ドラゴ、お疲れさん。ゆっくり休めよ」


 パンゴル小屋にドラゴを連れて行き、水が入った大桶と、大きな葉っぱにバナナもどきのジョールを山盛り載せてやった。葉っぱはお皿替わりだが、ドラゴはこの葉っぱも残さず食べるのだ。


 ルルと二人でドラゴを一頻り撫でてから銀狼亭一階の食事処に向かう。店内は八割方席が埋まっていた。うまい具合に四人掛けの席が空いていたので、二人でその席に陣取った。


 がやがやとした騒々しさが妙に心地よい。気取った店だと静かで落ち着かないし、うるさ過ぎても嫌になる。ここの騒々しさは丁度良い感じだ。


 ルルが色んな種類の肉料理を頼んだので、俺は冷えた麦酒を頼み、ルルの皿から少しずつ摘まむ事にする。


「ぷはーっ!美味い!」


 程よく冷えた麦酒が喉を通ると、思わず声を出してしまった。ルルは肉料理を頬張りながら、麦酒を見つめている。


「ん?麦酒だけど、ルルも飲んでみる?」


 ルルがこくこくと頷くので、俺は自分の麦酒をルルに渡す。頬張っていた料理をごくん!と飲み下してから、麦酒に口をつけるルル。ひと口飲んで、「にっがー!」と言って慌てて水を飲むルル。ふふふ。これが大人の味ってヤツさ。


 麦酒を飲み終えて、お店の人イチオシの「はちみつ入り果実酒」を頼んでみた。これは美味い!丁度良い甘酸っぱさで、ぐいぐいイケちゃうヤツだ。


「ルル、これは美味いぞ?少し飲んでみるかい?」


 ルルが再びこくんと頷いたので、取っ手のついた木製のジョッキを手渡す。


「美味しいー!ユウト様、これは美味しいです!」


 ルルが目をまん丸にして言うので、ルルの分も追加した。


 料理も食べ終え、二杯目の果実酒も飲み終えたので、部屋に戻る事にした。はちみつ入り果実酒があまりにも美味かったので、寝酒にボトルを一本買ってしまった。


 部屋に戻ったが、ルルは当たり前のように俺の部屋に一緒に入ってくる。


「ルルさん?部屋はもう一部屋あるんだけど」


「ユウト様!そのお酒、独り占めするつもりですか?せっかく美味しいお酒を買ったんだから、一緒に飲みましょ!」


 お、おう。一人でボトル一本は多いしな。ルルは、もう一つの部屋から備え付けのコップを素早く持って来る。俺がおっさんだから警戒心が湧かないのかもしれないな。


「「かんぱーい!」」


 飯を食いながら何度も乾杯したのだが、こういうのは何度やっても良いのだ。果実酒をちびちび飲みながら、とりとめのない話をする。トルテアの街の雰囲気やアーロンの印象、さっきの料理の感想。


 俺は、少し気がかりだった事をルルに尋ねる。


「ルルは、森を出て家族と離れて、寂しくはないかい?」


「うーん・・・弟や妹の事は少し心配ですけど、まだ半月ですし、今は新しい事にわくわくする気持ちの方が大きいです。ユウト様もいるし」


 俺を見てると面白いのかな?もしそうなら何よりだ。


「そうか。もし寂しくなったら遠慮なく言ってくれよ?一度行った場所なら転移魔法で連れて行けるからね」


 ルルは果実酒を口にしながらこくこく頷く。そして話題は今日見せた魔法に辿り着く。


「ユウト様、ルルも魔法は何度か見た事があるけど、あんなに大きくて綺麗な炎は見た事ありません。あれは一体なんなのですか?」


「うーん。実は、俺にも良く分からないんだ。普通の火炎系の魔法は、赤やオレンジだと思うんだけど、俺の炎は最初からあの色だったんだよね」


 物理的に温度が高いって事は分かるのだが、特に意識せずに青白い炎になるのだ。逆に赤やオレンジの炎は俺には出せない。理由は未だに分からない。大きさについては魔力量だろう。


「初めて出した時からあの色だったんですか?」


「そうなんだよ」


「あの、ユウト様が初めて魔法を使ったのって、いつですか?」


「うん、俺が十四の時。今のルルより少し下かな?」


「そうなんですね・・・ルルより二つ年下のユウト様かぁ」


 おっと。やはりルルは十六だったか。見た目通りの年齢という事だな。ルルは「へぇー」とか「ふふーん」とか謎の言葉を口にしている。何を想像してるんだろう?


「それって、ユウト様が初めてこっちの世界に・・・?」


「うん、そうだねぇ」


「その時の事、聞いても良いですか・・・?」


「ああ、別に構わないよ。あれは十四歳の夏休み、あ、俺の世界には学校ってものがあって、夏には一か月以上の休みがあったんだよ。その夏休みに・・・」


 俺は初めてこの世界に召喚された時のことをルルに話し始めた。




◆◆◆◆◆◆◆◆




 十四歳の夏休み、友達の家でゲームをして遊んだ帰り道。家路の途中にある小さな公園でそれは起きた。正確には、公園の砂場の横。


 地面に、直径二メートル程の二重円と見た事のない奇妙な記号。それが白く輝いていた。夕方の公園には、俺のほかに誰もいなかった。恐る恐る光る円に近付く。


 円の中に入った瞬間、眩しさに目が眩み、俺は一瞬の浮遊感に襲われた。


 そして次に目を開いた時には、見た事のない場所にいた。


 床、壁、天井、全て白。あまりに白く眩しいので、それがある種の部屋だと認識できたのはもう少し後のことだった。


「あなたは別の世界に召喚されました。ここは世界と世界の間にある転移の間。あなたの世界で言うところの『控室』のようなものです」


 一体いつの間に現れたのだろう?後ろから柔らかい女性の声が聞こえた。振り返ると、真っ白なローブに長い金髪の美しい女性が立っていた。


「はじめまして、私はウリエル。次元を司る神ディアスタシス様の眷属で、この転移の間の管理者の一人です。お名前をお聞きしても?」


「は、はじめまして・・・僕はユウト。巻島優斗です」


「ユウト・マキシマ様、ですね。初めてのことでさぞ驚きでしょう。今から色々ご説明いたします。分からないことがあれば何なりとお聞きください」


 それから、ウリエルと名乗った女性から説明を受けることになった。


 俺が召喚される世界は「ユルムント」と呼ばれ、文明レベルは地球の中世くらい。地球との一番の違いは「魔法」があること。


 「召喚士」が魔力に応じた「召喚術」を執り行った結果、俺が召喚されたこと。

 召喚された者(召喚者)は次元神ディアスタシスの加護により、各種能力が約十倍に引き上げられること。


「言葉は?言葉は分かるのでしょうか?」


「ユウト様がこの転移の間にいらっしゃる間、能力が引き上げられると同時に脳の言語野に働きかけ、ユルムントで使われるあらゆる言語を聞くこと、話すことはもちろん読み書きも可能となります」


 コミュニケーションが取れず、右も左も分からない世界に放り出されるって心配はないらしい。


「魔法は使えるのですか?」


「元々地球人にも魔法を使う資質はあるのですが、地球では魔法の具現化に必要な魔力の元となる『魔素』が不足しています。ユルムントは魔素が豊富な世界ですから、ユウト様にも魔法が使えるかもしれませんね」


 うーむ・・・使えると断言してくれない所が非常に気になる。自分次第ということだろうか。


「それで、僕は元の世界には帰れないんですよね・・・?」


 ウリエルさんは少し驚いたようだが、すぐに口元を押さえて「フフフ」と笑う。


「まさか!帰れますよ、ほとんどの場合で」


 召喚士は召喚者の魂に「隷従の刻印」を施せる。その強さは召喚士の魔力次第だが、一定の強制力が働くらしい。強制力のある使命、これを「オーダー」と呼ぶそうだ。


 そして、オーダーを完遂すれば刻印が解け、元の世界に自動的に送り返されるそうだ。


 そして俺は一番気になることを尋ねた。


「さっき『ほとんどの場合で』と言われましたが、帰れない場合もあるってことですよね?」


「そうです。仮にユルムントで命を落としても、その時点で隷従の刻印が解けて地球に送り返されます。しかし、非常に稀ですが、魂が壊された場合は別です」


「魂が壊される?」


「ユルムントには、魂ごと消滅させると言われている危険な魔法や武具があると言われています」


 魂ごと消滅とか、めちゃくちゃ怖いんですけど・・・


「ただ実際に確認はされていませんので、それ程心配する必要はないでしょう」


 いやいや、じゃあ言わなくても良くない?知らなければ心配することもないのに。


「知りたくなかった、って顔ですね?フフ、でも用心するに越したことはないですからね。あと、オーダーを叶えられなかった場合も戻れません」


 サラッと言ったけど、それが一番可能性高いよね?めちゃくちゃ難しいオーダーだったら帰れないじゃん?


「叶えるのが難しいオーダーだったら帰れない・・・と?」


「その場合は・・・死んじゃいましょう!」


 ウリエルさんが今日一番の笑顔で宣った。


「し、死んじゃうってそんな簡単に言われても・・・」


「まあまあ、意図的に戻ってこない人もいるくらいですから、ユルムントはそう悪くない世界だと思いますよ。お気に召さなければ死んじゃえば良いのです。とにかく召喚されたからには行かなくてはなりませんから、覚悟をお決めください!」


 ウリエルさんがいつの間にか両手に衣服を持っていた。促されて着替える。パンツまで一式。なんでも、ユルムントには地球の物は持っていけないらしく、渡された衣服はユルムント製だそうだ。


「こちらはディアスタシス様からの贈り物でございます」


 そう言って渡されたのは、革っぽい素材の胸・腕・脛を守る防具。そして十四歳の俺でも片手で持てる剣。


「こ、これは!伝説の武具か何かですか!?」


「いいえ、普通の防具と剣ですわ」


 初期装備かよ!


 神様から貰える装備って、もっとこう、何か特別な力とかあるんじゃないの?


 次元の神様って意外とケチなんだろうか・・・


 俺はウリエルさんに促されるまま着替え、防具の付け方を教えてもらいながら身に着けた。剣は適当に腰のベルトに差しておいた。


 なんだろう、この怒涛の展開は。召喚されました、はいそうですか、と言う感じで流されているが、このままで良いのか?


 もっと聞いておくべき事がたくさんあるんじゃないだろうか?


「あの、ウリエルさん?まだ心の準備が・・・」


「ユウト様。もう時間が来てしまいました。いってらっしゃいませ。どうかご武運を・・・」


(ご武運を・・ご武運を・・んを・・を・・・・・・)


 ウリエルさんの言葉がこだまして聞こえ、俺は再び目が眩む光に包まれた。

今日もお読み頂きありがとうございます!

ユウトさんにも若い時があったんですねぇ(当たり前)

次回も回想が続きます。現在のお話にも出て来る人物が登場しますので、後のお楽しみにして頂けたらと思います!

明日も19時に公開します。ブックマーク・評価を頂けると励みになります!

宜しくお願い致します。

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