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救世の召喚者  作者: 五月 和月
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7 ルルの恋心

 黒竜と遭遇してから、ルルの口数が極端に少ない。若い子との接点が少ないだけでなく、日頃面倒臭い人付き合いを避けてきたおっさんは、こういう時にどうすれば良いか皆目見当もつかない。


 だから自然と会話もない状態で進んで行った。やがて谷を抜けると、数キロ先に街が見えてきた。トルテアだ。




SIDE:ルルアージュ


 ああ、あれがトルテアの街なんですね!ルルは森を抜けるのは初めてだし、人族はスティーブさんとアルノーさんくらいしか知らないから、少し緊張しちゃいます。


 それにしても先ほどの黒竜との遭遇、思い出しただけでも寒気がします。あまりの恐ろしさに、ルルは身動きも出来ませんでした。情けないです・・・


 ユウト様がルルの肩を優しく叩いて下さって少し安心しましたが、その後ずんずん黒竜に近付いて行くものだから、生きた心地がしませんでした。


 でもユウト様は、恐れるどころか興味津々な感じで黒竜の鼻先に触れていらっしゃいました。食べられちゃうんじゃないかとルルは冷や冷やでした。もしかしたら、本当に恐ろしいのはユウト様の方なんでしょうか?


 いえ、そんな事はないですね。ユウト様はお優しい方なので。ユウト様と一緒に二週間ほど過ごしたルルには分かります。


 最初は、ただの子供好きなおじ様かな?と思っていましたが、どうやらユウト様はルル達の耳や尻尾がお好きなようです。こんな物がお好きなんて。ただの耳と尻尾なのに。


 でも、たくさんの子供たちに囲まれて、たくさんの耳や尻尾を撫でているユウト様はとても幸せそうで、子供たちも嬉しそうでした。それを見ていると子供たちの事をなぜか羨ましく思えた事を覚えています。今では、ルルの耳と尻尾も撫でてくれたら良いのにと思っています。今度ユウト様に言ってみようかな?


 犬人族の集落に向かう途中で、ギガント・アナコンダを投げ飛ばし、パンチ一発で仕留める姿を見た時は、雷に打たれたような衝撃を受けました。


 ルル、本当に雷に打たれた事はないんですけど、多分あんな感じですよね?


 狼人族がギガを仕留める時は、大人総出で行います。集落の近くに出現した時、放っておくと危険なので仕方なくです。罠を用意して、たくさんの武器も用意して、機会を伺って少しずつ攻撃を加え、少しずつ弱らせて・・・何日も掛けて倒すのです。


 それでも命を落とす人が何人もいる。それくらい危険な相手です。それを事もなげに倒してしまうユウト様。いったいどれほどお強いのでしょう。


 狼人族の雌は、強い雄に惹かれます。これは本能なのでどうする事もできません。これまで身近で一番強い雄はお父さんでした。


 虎人族やミノタウロス族の皆さんはもっと強いかもしれませんが、ルルは番になりたいとは思えません。その、見た目的に。ごめんなさい。


 ユウト様の強さは規格外。耳の場所は違って、尻尾は付いてないけど、それを除けばルル達と見た目は変わりません。


 もの凄く強いのに、全然威張らないし偉そうにもしません。それどころか、色んな事に気を遣っていらっしゃるような気がします。


 スティーブさんのお家でお酒を飲んだ時、ルルはユウト様に大人の雌として見てもらいたくて飲み過ぎてしまいました。


 あの時、机に突っ伏してたけど実は起きてたんです。狸寝入りってやつですね。狼ですけど。


 ユウト様達は難しいお話をしていたけど、途中でユウト様が少し泣いていらっしゃったのに気付きました。


 あんなに強い方が涙を流すなんて・・・ルルは胸がきゅーっ!ってなりました。


 その後、ユウト様に抱っこされてベッドに寝かされて。少し期待してたのに、ユウト様は床で眠ってしまいました。


 しばらくしてルルは、毛布と一緒にユウト様の傍に身を横たえました。ユウト様の腕を抱きしめながらルルもいつの間にか眠ってしまいました。


 ユウト様は、どうもルルの事を子供扱いしてるようです。もう大人の雌なのに。


 でも、昨夜は違いました。


『この世界で許されない事をしようとしたらお前が止めてくれ』


 そう言われたのです。


 初めて、ユウト様がルルの事を必要としてくれてると感じました。


 ユウト様が間違った事を自ら進んでするとは思えません。むしろ、強過ぎるから、全部お一人で背負ってしまおうとするんじゃないかと心配です。


 だからルルは、ユウト様の心の支えになるって決めました。


 だからこそ悩んでいるんです。ルルはユウト様と番になってお支えしたいけど、ユウト様はルルの事を大人の雌として見てくれていません。


 この二週間で、ユウト様は日毎に若返っているように見えます。このままユウト様が世界を見て回れば、ユウト様の強さや優しさに気付いた雌たちが大勢群がって来るでしょう。


 この世界は一人の雄が何人もの雌を養うのも普通だから、それは構わないのです。


 でも、ルルが邪魔者扱いされたら?ルルの事を忘れられたら?


 そんなのは絶対に嫌です!


 せめて、一日も早くルルの事を大人の雌として認めてもらわなくては。


 ドラゴに乗ってる時、後ろのユウト様がルルの耳と尻尾を触りたそうにしてるのには気付いていました。狼人族はそういう気配に敏感なんです。


 まずは、耳と尻尾をたくさん触って貰えるように頑張ってみようかな?




SIDE:ユウト


 だいぶ陽が傾いてきた頃、ようやくトルテアの入口に着いた。人の背丈より少し高いくらいの石垣に街全体が囲まれ、入口には軽装備の兵士が二人立っていた。


 ルルは何か考え事をしているようだったので、俺一人ドラゴから降り、手綱を握りながら兵士たちに近付いた。


 意外な事に、身分証の提示も求められず、面倒臭そうに手を振って通された。まあ、こちら側にはベルーダ(魔族領)しかないし、国境という訳でもないしな。


「えーと・・・ルル?トルテアに着いたけど?」


「は?はいっ!ルルは頑張ります・・・!?・・・はい?」


 何を頑張るんだろう。よく分からんな。


「うん、ルルはよく頑張ってると思うぞ?ほら、トルテアの街に着いたよ」


 よく分からないので取り敢えず褒めておく。


「ええー!いつの間に・・・考え事してたら着いちゃったんですね」


 ようやくルルがあっちの世界から戻って来たらしい。辺りをキョロキョロと見回しながら「へぇー」とか「ほぉー」とか言っている。田舎から上京した女子高生のようだ。


 南側の入口からすぐの所に、広大なバザールが開かれていた。所狭しと屋台のような店が軒を連ねている。


 入口から真っ直ぐ街の中心部へと続く大通りがあり、右側は飲み物や食べ物の屋台が中心。左側は人族と獣人族がそれぞれ店を出し、多種多様な物を店先に並べている。


 アジアで良く見かける夜市のような雑多な雰囲気で、人族と獣人族が入り交じってかなりの数の人出だ。生気に溢れ、独特のエネルギーに満ちていた。


 あちこちで呼び込みや値段交渉の声が上がりまともに会話も出来そうにない。ドラゴもソワソワしてるようだし、ルルは輪をかけて落ち着きがない。


 腹も減って来たし、今夜泊まる宿も探さなきゃならん。初めて来た街で最初に行く所は冒険者ギルドと相場が決まっている。


 三十年以上前に作ったギルド証が有効か確かめたいし、この辺りで使える通貨を確保するため、転移の間から持ってきた魔石や素材を買い取って貰えると有り難い。


 一応、転移の間から持って来たある程度の通貨もマジックバッグに保管してるけど、ここで使えるか分からないからね。


 俺は手近な人族のおっさんに冒険者ギルドの場所を聞いた。この大通りをしばらく真っ直ぐ行った右手にあるらしい。分かりやすい場所にギルドがあるのもこういった世界のテンプレである。


 二人と一匹で大通りを北に進む事十五分。右手に目立つ紋章の入った看板を見つけた。

 火を噴くドラゴンの紋章。これが冒険者ギルドの目印だ。石造りの二階建て。なかなか立派な建物である。


「ルル、ここがトルテアの冒険者ギルドみたいだね」


「ユウト様、冒険者ギルドってなんですか?」


「ま、行けば分かるさ」


 ドラゴを外の支柱に繋ぎ、荷物を降ろす。ルルの荷物も俺のリュック型マジックバッグに入れているのだが、そこからルルの剣を取り出して渡す。


 俺の冒険者証、少しばかりの通貨、そして魔石も一個取り出して、腰の布袋に移し替える。マジックバッグは三十年前には大変稀少な物だった。あまり見せびらかすような代物ではない。普通に背負っていればただのリュックにしか見えない。


 俺とルルは木の扉を押し開けて中に入る。


 このギルドは、入口から入って右側が受付、左には酒も出す食事処が併設されていた。真ん中に階段があり二階に続いている。受付には依頼を終えた冒険者たちが報告と報酬の受け取りのため並んでいる。俺たちはその列に並んだ。


 冒険者の中には獣人族を仲間にしている者もいるので、ルルが悪目立ちすることはなかった。


「ルルも聞いた事あります、冒険者。狼人族にも、冒険者になった人や元冒険者の人がいます」


「そうか。ここは、そういった冒険者に仕事を依頼したい人と、仕事を受けたい人を仲介する場所だよ」


 正確にはもっといろんな事をやっている組織なのだが、今はこれくらいで良いだろう。


 しばらく並んでようやく俺たちの順番が来た。俺は三十二年ほど前に作った冒険者証を見せる。


「この冒険者証はまだ有効かい?」


 受付のお嬢さんは眼鏡を掛けた小柄な女性だ。古い冒険者証を見て少し驚いたようだが、すぐに答えてくれる。なかなか優秀な女性らしい。


「もちろん有効ですよ。冒険者証は本人が生きてる限り有効ですから。今は新しいカードになっていますが、新しい物に切り替えますか?小銀貨一枚ですけど」


 うーん。この国の小銀貨の価値が分からんな。


「実は、この国の通貨を持っていないんだ。ここでは魔石の買い取りもしてくれるの?」


「ええ、もちろんです。どんな魔石ですか?」


 俺は、腰に着けた袋から取り出したソフトボール大の魔石をカウンターに置いた。薄い紫が美しい魔石である。


 とたんに受付に並んでいた冒険者たちがどよめく。


「おい、あの魔石って・・・」「あれってまさか」「あれ本物か?」


「しょ、少々お待ちください!サブマスター!」


 受付の女性が小走りでカウンターの奥に消える。この魔石はまずかったかな?俺が持ってる中では一番小振りなヤツなんだが。


 後ろに並んでいたガラの悪い顔をした冒険者が絡んで来た。


「おい、おっさん。さっき見えた冒険者証、あんだEランクだよな。その歳でEランクとは。生きてる方が不思議だぜ。その魔石、どこで盗んで来た?」


「心外だな。ちゃんとダンジョンでヒュドラを倒して手に入れたものだぞ?」


 まあ、三十年以上前の話だけど。


「ウソを吐け!Eランクでヒュドラを倒したなんて冗談にも程があるだろ。どうせAランク以上のパーティから盗んだんだろ?怪我しないうちに俺たちに寄こせよ」


 何ということでしょう!ザコ冒険者が難癖つけて絡んで来る。まさしく異世界の醍醐味ではありませんか!


 俺は、この後の展開をあれこれ想像して一人でニヤニヤしてしまっていた。いつの間にか五人の冒険者に囲まれている。殺しちゃマズいけど、腕の一本や二本や三本、イっちゃって良いよね?後でリワインドでちゃんと直すからさー。


 と思っていたら、いつの間にかルルが進み出て男たちを睨んでいた。


「ユウト様は盗み等という下賤な事はしません!今なら土下座して謝れば許してあげます」


 ルルさん!言うじゃないか!カッコいいぞ!


「ああ?それはこっちのセリフだ、こら。魔石を置いてさっさと消えやがれ!」


 あぁ・・・なんて雑魚っぽい台詞。逆に新鮮に感じるよ。


「ユウト様、ここはルルにお任せ下さい。ユウト様のお手を煩わせる必要はございません」


「うん・・・そ、そう?分かった、ルルに任せるよ。でも殺しちゃダメだぞ?」


「承知しました」


 もしルルが怪我しそうなら、すぐに助けに入ろう。万が一ルルがやり過ぎちゃっても怒らないでおこう。


「なんだあ?おっさんはお嬢ちゃんの陰に隠れてるってか。お嬢ちゃんが俺たちの相手って舐められたもんだなあ?」


 ルルのターンが始まった。

いつもお読み下さり本当にありがとうございます。

ルルちゃんの恋心、いったいどうなるんでしょうか・・・?


次回、ルルちゃんの強さが炸裂!ユウトさんの強さの一端も垣間見えます。

明日の19時に投稿します!ブックマーク・評価して頂けると励みになります。

宜しくお願い致します。

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