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救世の召喚者  作者: 五月 和月
5/51

5 三十年の空白の理由

 スティーブは、偶然にも俺と同じ歳(五十)でアメリカ人だそうだ。う~ん、欧米人って見た目で年齢分かりにくいな。


 そして家族を紹介してくれた。奥さんは犬人族のミアさん。スティーブよりずっと若い。もしかして二十代ではないだろうか。あくまで見た目の話ね。獣人族は見た目通りの年齢とは限らないから。


 そして子供たち。十歳の男の子、八歳の女の子、そして四歳の双子の女の子。子供たちは実際の年齢で、見た目も年齢相応だ。上の二人は人族そのものだが、双子の女の子たちにはケモミミと尻尾が生えていた。


「ユウト。今からもう一人の召喚者も来るぜ」


 もう一人の召喚者はアルノーさん。フランス人男性で五十五歳。こちらも犬人族の女性と結婚し、三人のお子さんがいるそうだ。


 スティーブは元大工、アルノーさんは元パン職人だったらしい。魔族領でふっくらした美味しいパンが食べられるのは、専らアルノーさんのおかげだそうだ。


 俺がスティーブの双子の娘をもふっているとアルノーさんがやって来た。アルノーさんはくるくるした癖毛の細身の男性だった。俺たちは互いに自己紹介し、握手を交わした。


 俺とルル、スティーブとアルノーさんの四人はリビングで寛ぎ、スティーブ自家製の果実酒で乾杯した。ルルはこの世界ではすでに成人らしく、酒を飲んでも問題ないらしい。しかも結構好きなんだとか。まあ、魔族に未成年飲酒は関係ないか。


 女子高生と酒飲んでるみたいでなんだか落ち着かないぜ。


「ユウトはなんで魔王と呼ばれてるんだい?」


 酒が進んでくると、アルノーさんから聞かれた。言語補正は地球言語にも効くらしい。自慢じゃないが、俺はフランス語はおろか英語もさっぱりだから有り難い。


 アルノーさんの問いに、なぜかルルがドヤ顔で答える。


「ユウト様は我等の魔王に相応しい方として召喚されたのです。そしてこの目で見ました。あのギガント・アナコンダ二匹を素手で仕留めるところを。


一匹は空の彼方に投げ飛ばして、もう一匹はパンチ一発です。パンチですよパンチ!武器も使わず仕留めるなんて。まさにユウト様こそ魔王様です」


 ルルが身振り手振りを交えて話す。だいぶ酔ってるな。


 地球人のおっさん二人が「「ほほう」」とハモった。


「ちなみにユウト、召喚は何回目なんだい?」とスティーブ。


「二十一回目」


「「Oh!」」とまた二人がハモる。


 さっきからハモってるおっさん達にルルがツボったようで、体を折りテーブルをバンバン叩きながらケタケタ笑っている。


 俺たちおっさん組は、そんなルルの様子に若干引きながら続ける。


「それは確かに、魔王と呼ばれてもおかしくないね」


「魔王ユウトに乾杯!」


「「「「かんぱーい!」」」」


 乾杯する俺たちにルルも混ざる。さっきから様子がおかしいが、ルルさん大丈夫かね?

 既に真っ赤な顔をしていらっしゃるルルはさておき、俺は二人に三十年前のことを尋ねた。


「戦争の巻き添えで召喚されたって聞いたが、それは本当なのかい?」


 それから二人は訥々と当時の事を語ってくれた。


 二人にも正確な事は分からないけど、前魔王、そしてそれを倒した者が召喚者だった事から、召喚者が大きな戦力になるとの認識に至った。


 異世界の召喚者を戦わせれば、自国の戦力を損なう事はない。強大な召喚者を召喚することが出来れば、一人で一国を滅ぼす事も不可能ではない。


 そしてある国が召喚を行うと、他国は防衛のために召喚を行わざるを得ない。そうやって年に何十回も召喚が行われた。


 中には召喚の儀式について十分な知識を持たない国もあった。そのような国では、召喚者は勝手に自国の為に戦ってくれると思っていたらしい。


 スティーブとアルノーさん始め、当時魔族領に逃げ込んで来た召喚者達は、そんな国から逃げ出した人たちだった。オーダーを与えられなかった為、強制力が働かなかったのだ。不幸中の幸いと言えよう。


「最初は七人いたんだよ」


 アルノーさんが悔しそうに声を絞り出す。他の五人は、寿命や怪我、病気で命を落としていった。魔族の人々は、そんな彼等の死を心から悼み、共に弔ったと言う。


 ちなみに、魔族領の文明レベルがやけに高く感じられたのは、やはり召喚者たちの教えによるものだった。


 召喚者を用いた戦争は三年間続いたそうだ。そしてある時、突然終わりを告げた。勝者も敗者もいない。ただ終わったのだそうだ。理由は二人にも分からない。


 そして、大国ガルムンド帝国の主導で召喚儀式の禁止が議論され、この大陸の全ての国がそれに賛同し、以来召喚は行われていない。


「だから、ユウトがつい最近召喚されたって聞いてびっくりしたよ。まあ、魔族は召喚禁止の協定から外れてたし、まさか魔族が召喚できるなんて人族は思ってないだろうけど」


 俺が三十年間召喚されなかった理由。それは、人族の連中が勝手に戦争を起こし、勝手に召喚を禁止したからだった。戦争中は次々と召喚をしていたから、儀式にじっくり魔力を注ぐことが出来ず、魔力量が多い俺のような者を召喚できなかったのだろう。


 俺が恋焦がれ、頭がおかしくなるほど召喚される事を熱望した異世界では、人同士の醜い争いが行われ、召喚者は戦争の道具として使い捨てにされていたと言う訳だ。なんてことだ。


 俺はどんな顔をしていたんだろう。きっと苦虫を千匹くらい嚙み潰したような顔だったに違いない。スティーブが心配そうに声を掛けてくれた。


「ユウト、大丈夫かい?」


 ルルは先ほどから酔い潰れてテーブルに突っ伏して寝息を立てている。俺は自分の気持ちを二人に打ち明けた。


「ユウトは何度も召喚され、この世界が大好きになっていたんだな。前の魔王を倒した英雄というのはお前だったのか。いやはや恐れ入った」


 スティーブがそう言うと、アルノーさんが続けた。


「ユウト。君はあの戦争に召喚されなくて良かったかも知れない。悲惨な現場を目の当たりにしたら、この世界を嫌いになったかも知れないからね。


長く苦しい思いをしたのだろう。それは私には想像もできないよ。だが、今君はこの世界にいる」


 アルノーさんは俺の目を真っ直ぐ見て語りかける。


「この際、誰が召喚したとか関係ないじゃないか。君はこの世界を何度も救ったんだろ?もう、君が生きたいように生きたら良いさ。その権利は間違いなくある」


 気が付くと、俺の頬を涙が伝っていた。


 生きたいように生きていい。また同じ事を言われた。今度は、俺の心に溜まりに溜まった鬱憤を聞いてくれた、同じ地球人に。


 そうだな、生きたいように生きてみるか。


 俺はアルノーさんとスティーブ、順番にがっちり抱き合った。そして果実酒をおかわりしてまた乾杯した。


 まあ、おっさんの飲み会なんてこんなもんさ。その後はおっさん三人でさんざん下世話な話をした。主に犬人族の女性との夜の営みなどについて。


 散々飲み散らかし、まずアルノーさんが潰れ、スティーブも音を上げたのでそこでお開きにした。


 ルルをお姫様抱っこして二階の寝室に運び上げ、ベッドに寝かせて靴を脱がせて毛布をかけてやる。俺もそこで力尽き、そのまま床で寝てしまった。





 翌朝。夕べは飲み過ぎたな。少し頭が重い。床で寝ていた俺に毛布が掛けられていた。

 そして、右腕に感じる何やら柔らかい感触。


「んんっ・・・」


 寝惚けた吐息の主は、外側が銀色、内側がピンク色したケモミミを持った女の子。ルルが俺の右腕を抱きかかえるように寝ている。


 柔らかさと弾力を兼ね備えた推定Cカップの感触が腕に伝わる。実にけしからん。


 至福の感触を味わいながら、空いている左手でケモミミをもふろうとした俺の脳裏に、突如として厳ついアルさんの顔が浮かんだ。ハッ!と我に返る。


「ルル・・・ルルさんや・・・おいっ!ルル!」


「う・・・ううん・・・?」


 ルルの寝惚け眼が俺の目を捉える。だんだんと焦点が合って来る。突然すべてを理解したルルは、ガバっと起き上がり、俺の横に正座した。


「ゆ、ゆ、ゆ、ユウト様!ち、違うんです!これは、そ、そう、夕べは酔っ払ってて、ふと目が醒めたらユウト様が床で寝てて、寒そうだから毛布を掛けて、そのままルルも横で寝てしまって・・・」


 ルルがアワアワしている。真っ赤な顔をして、両腕を派手に振り回しながら言い訳をするルル。おっさんから見ても愛おしさ満点だ。


 しかし、こんな時に何て言葉を掛けるのが正解なのか。若い子と接点がないおっさんにとっては、国の行く末を決める一大事に等しい難題である。


「あー、ルル。気を遣ってくれてありがとうな。もう皆起きてる頃だろうから、下に降りようか」


「は、はい!ルルは顔を洗って来ます!」


 言うが早いか、ルルは部屋を飛び出して行った。洗面所の場所知ってるのかな?俺だって知らないんだが。


 まあ、若い子が酔った勢いでしでかした事で、その気にならない程度の余裕はあるよ。伊達におっさんじゃないからな。今まで勘違いして何度苦い思いをしてきたか。それはもう、語るも涙の物語なのだ。


 皺だらけになった服にリワインドを掛ける。自分自身には効果が見えないが、身に着けている物に対してはちゃんと効果がある。


 さて、俺も顔を洗いに行こうかな。






 階下に降りると、キッチン横のダイニングスペースに、スティーブとアルノーさん、スティーブの子供たちとルルが座っていた。スティーブの奥さんであるミアさんはキッチンで忙しそうに立ち働いている。


 ちなみに洗面所は、寝ていた部屋のすぐ横にあったよ。夕べは酔っ払ってたから気が付かなかった。


 アルノーさんも泊まったんだな。まあ夕べは遅くまで飲んでたから。ミアさんは当たり前のように、人数分の朝食の支度をしてくれている。綺麗なだけでなく、出来た奥様だ。


 朝食を食べながら、俺はこれからどうするか考える。何を見て、何を知るべきなのか。


 しかし、俺はすでに一つ決めた事がある。


 俺はここを守りたい。


 召喚されてまだ二晩過ごしただけだが、この魔族領に住む人々のことが好きだ。今まで出会った人々、アルさん、マエル、ジャン婆さん、犬人族の族長さん。

 スティーブ、アルノーさん、ミアさん、スティーブの子供たち。

 ジャン婆さんの孫たち。犬人族の子供たち。

 そしてルル。ついでにドラゴも。


 ここで食べた食事。暖かい家。その全てが無くなるなんて想像できない。

 だから守りたい。そのために何を見て、何を知るべきか。


 俺はスティーブとアルノーさん、そしてルルに相談することにした。




 おっさんは人の言う事を聞かないと思われてるかもしれない。地球にいる頃、行きつけのバーで知り合ったおっさんの中には、確かにそういうタイプの人もいた。


 自慢話、いらぬアドバイスをする、人の話を聞かない。おっさんが若い子から疎まれる理由の上位三つはこれらではなかろうか。知らんけど。


 俺は必要な事は真摯に聞くタイプでありたいと思ってる。スティーブとアルノーさん、そして若いルルだって、この世界の事を俺よりずっと良く知っているのだ。


 俺はこことここに住む人々を守りたいと伝えた。ルルの目が心なしかキラキラしてるようだが一旦スルーする。それを踏まえ、俺は今後どうするべきと思うか。勿論自分なりの考えはあるが、この世界を良く知る三人の考えも聞きたいのだ。


 俺の考えはこうだ。


 まず、魔族と人族の関係がどうなっているのか。人族は魔族の事をどう思っているのか。どうしたいと思っているのか。


 そしてここが重要なポイントだが、人族は魔族を力(軍事力)で捻じ伏せようとする考えを持っているのか。そういった部分を見極めたい。


 そのためには人族の国々も見る必要がある。もし敵になるようなら、敵の事は出来るだけ知っておかねばなるまい。そうならないのが一番だけどね。


 俺の考えは三人から理解と承認を得た。そして、このまま北に向かって魔族領の他の村や町を見つつ、ここから一番近い人族の街を目指すことに決まった。

ユウトさんが三十年も召喚されなかった理由が明かされました。

そして、ルルちゃんとのラッキー〇ケベ的展開・・・これは・・・!?

ユウトさんとルルちゃんがこの先どうなるのかも見守って下さったら嬉しいです!


明日も同じ時間、19時に第六話を公開します。

楽しみに待って下さってる方もいらっしゃって、作者冥利に尽きます!!

本当にありがとうございます。

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