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救世の召喚者  作者: 五月 和月
49/51

49 決戦①

こちらは本日投稿の三話目になります。


 その日は早々に訓練を切り上げ、根城に戻った。実は、訓練をしていたこの一週間、共和国のアジトではなく帝国の「赤龍亭」で寝泊りしていたのだ。


 アルさんの家でも良かったのだけど、アンナも居るし、なんとなくアルさんの家は避けてしまった。


 赤龍亭で借りている俺の部屋に皆が集まる。


「アンナ。ここまで協力してくれてありがとう。俺たちは明日、召喚者を倒しに行く。その前に、約束通り君を地球に帰そう」


 俺の言葉にアンナが目を丸くする。


「私・・・いえ、私も一緒に行くわ」


 その言葉に、今度は俺たちの目が丸くなる。


「私では力不足だけど、誰かの盾くらいにはなれる」


「アンナさん・・・でも―」


「ルルちゃん、ありがとう。私、あなたに酷い事しようとした。それにカエラちゃん、あなたと、あなたの仲間たちにも。だから、少しでも罪滅ぼしさせて?」


 アンナの瞳には決意が漲っている。


「ルルはもう、気にしてませんから!」


「ん・・・アンナのおかげでユウトさんに会えたし」


 九日間という時間を共に過ごし、アンナはタクマの呪縛から解放され、本来の自分を取り戻したように見える。


「アンナ、もう一度確認だけど、どっちの世界で生きて行きたい?」


「ええ・・・あなた達のおかげでこっちの世界も好きになれた・・・だけど、やっぱり故郷に帰りたい」


「そうか、分かった。じゃあ、今のうちに『隷従の刻印』の問題だけ、取り除いておこうか」


「そうしてもらえると凄く嬉しいわ」


「じゃあ、アスタ。頼めるかい?」


「うむ!」


 アスタが腰の後ろに手を回す。そして、前に戻したその手には・・・あれ?


「ほれっ!『恩寵のハリセーン』じゃ!」


 スパーン!と小気味良い音が部屋に響く。ハリセンでひっ叩かれたアンナは驚きのあまりポカンと口を開けていた。


「あの、アスタ?『恩寵』で良かったっけ?『懲罰』じゃなく?」


「何を言っておるのじゃ、お主。お主の時もこっちじゃったろうが」


「だってあれは、俺が地球に戻らない為・・・だったよね?」


「あ?そうじゃったか?あれ?・・・じゃ、こっちじゃな」


 そう言って、アスタは白黒のハリセンで再びアンナの頭をひっ叩いた!


「アスタ、やっぱりそれって・・・」


「ち、違うのじゃ!ちょっと間違っただけなのじゃ!」


「えぇ!?私、元の世界に戻れるの?」


 アンナが涙目になっている。


「だ、大丈夫じゃ!これで二度と召喚はされんから!安心せいっ!」


 今の一連の流れだと、不安になるのも当たり前だろう。だって神様が「間違った」とか言っちゃってるもん。


 実際にはハリセンには何の力もない。全てアスタ自身の力だから。ただアスタがハリセンで人の頭をひっ叩きたいだけだからな。


「大丈夫だよ、アンナ。アスタは失敗なんかしないから。な?アスタ」


「うむ!その通りじゃ!ユウトもようやく分かって来たようじゃな!」


 アンナはまだオロオロしてるが問題ない。アンナが死んだら元の世界に帰って二度と召喚される事はない。もちろん、死ななくてもアスタの力で帰らせてあげる事が出来る。


 アンナが最後まで協力してくれる事によって、更に有利に事を運べるかも知れない。





 翌朝。


 俺とルル、アスタは、共和国王城西棟の外側にある「闘技場」に潜んでいた。西棟に最も近い雛壇の観客席の一番手前に外から見えないよう身を屈めている。


 遠くから男の声が聞こえて来た。


「なんだってこんな朝っぱらから闘技場なんだよ?って言うか、お前今までどこ行ってた?陛下が探してたぞ?」


 続いてアンナの声が聞こえる。


「もう、うるさいわね!その陛下が、あんたをここに連れて来いって言ったのよ!」


 アンナは、セルジュさんの仇であるアトラスを闘技場に誘い出す役を買って出てくれたのだ。アトラスは脳筋だから、簡単に誘い出せるとアンナは言ってたが、本当だった。


 そして予めアスタが魔力で地面に印を刻んでいた地点まで来る。


「ちょっと待ってて。陛下を呼んで来るわ」


 アンナがさりげなくその場を離れる。五メートルほど離れたとたん、全速力でその場から離脱した。


 次の瞬間、天空でチラっと十文字に光が煌く。そして、アトラス目掛けて眩しい光の柱が迸った!


 上空二百メートル付近で、竜化したカエラがアトラスに向けて竜のブレスをぶっ放したのだ。その威力は、以前見たシエラのブレスを凌いでいる。


 轟音と土煙を伴い、地面が抉れていく。間髪入れず、天空にいくつもの十文字が煌く。カエラの背に乗ったユナが、上級炎魔法「煉獄炎ヘルズフレア」を放ったのだ。


 俺のと同じ、青白い炎で出来た無数の槍が空から降り注ぐ。アトラスが居た場所を中心に、闘技場の地面に物凄い速さで炎の槍が突き刺さり、地形が変わって行く。


 上空からの攻撃が始まった瞬間、熱から身を守るためシールドを張っていた。その中で、俺はケイオス・ブレイカーのグリップに手を掛け、眩い光と土煙の中を見つめていた。


 これは完全な奇襲だ。卑怯だと思われても構わない。


 最悪なのは、残った三人を同時に相手する事。三人とも俺より召喚回数が上の相手なのだ。一人でも確実に仕留めたい。


 土煙が晴れて来ると、シールドで身を守ったアトラスが平然と立っていた。


 カエラとユナの上空からの攻撃で、アトラスを倒せるとは思っていなかった。これは、奴の気を空に向けるための陽動なのだ。


 こっちの思惑通り、アトラスは空に居るであろうカエラとユナを探すため上を見上げていた。この時すでに、ユナの転移で二人は闘技場の反対側の観客席に身を潜めていた。


 アトラスがシールドを解除する。その瞬間に、俺はケイオス・ブレイカーを左下から右上に向かって振りながらアトラスの背後に転移した。


 ケイオス・ブレイカーがアトラスの左脇腹を切り裂く。しかし、アトラスはその痛みに反応して右側に跳んだ。


 ちっ!浅い!致命傷には至っていない!


 こちらに向き直ったアトラスは鬼の形相で俺を睨んでいる。ボタボタと血が流れ落ちる左脇腹を押さえる右手は、淡い緑色の光を発していた。治癒魔法か!?


 そしてアトラスはこちらに突進して来た。その速さは弾丸を超える程だ。


 だが、真っ直ぐ突っ込んで来るだけなら回避は容易い。俺は左足を後ろに引いて半身になり、タイミングを合わせてケイオス・ブレイカーを横薙ぎに払った。


 左肩に重い衝撃。回避したつもりだったが、アトラスの肘鉄を食らって俺は斜め後ろに吹っ飛ばされた。今の一発で左の鎖骨から肩の骨までやられてしまった。


 しかし追撃は来ない。すれ違いざまに放ったケイオス・ブレイカーの一撃がアトラスを捉えていた。左脇腹を押さえていた右手ごと、さらに左の腹を深く切り裂いていた。それはアトラスの背骨まで達する斬撃だった。


 ユナがカエラと共に俺の傍に転移して来る。観客席に潜んでいたルルとアスタも俺の元に駆け寄って来る。


 俺は痛みを堪えながら、全員を覆うアルティメット・シールドを張った。その中で、ユナが俺に治癒魔法を掛けてくれる。


「・・・身体を癒し給え。治癒ヒール


 優しい緑の光の粒が舞い、俺の肩に集まって溶け込んでいく。


 アトラスを見ると、その場に膝をついて必死に自分に治癒魔法を掛けていた。しかし、ケイオス・ブレイカーの傷は治癒魔法では治せないようだ。


 カエラのブレスと、ユナの煉獄炎ヘルズフレアで闘技場の地面は穴だらけになっている。土に含まれる粘土がガラス化し、朝日を受けてキラキラと輝く。


 その光景の中で、ついにアトラスが前のめりに倒れた。


 あの、召喚者が死んだ時特有の、目も眩む真っ白な光は発生しない。その代わり、アトラスの全身を黒い炎が覆った。炎が治まると、ただ倒れ伏したアトラスの姿があった。


 今のが、魂が破壊されたという事なのだろうか?確かめる術はない。しかし、アトラスの姿が消えない以上、少なくともこの世界に召喚される事は二度とないと言える。


 セルジュさん。仇は取ったよ。





「ふぅ。もう大丈夫。治ったわ」


「ありがとう、ユナ。それにカエラも。作戦通り上手くいったよ」


「あれ?そこに倒れてるの、アトラスかい?」


 シールドの外から男の声がした。振り向くと、アンナを後ろ手に捕えた金髪の細身の男が立っていた。


「なんか凄い音がするから来てみたら、面白い事になってるね!」


 アンナから聞いていた、別の召喚者。魔法を得意とするエスペンだった。


雷撃ライオット


 エスペンが呟くと、彼の周囲から雷で出来た槍が無数に飛んで来る。しかし、アルティメット・シールドを貫通する事はない。


 俺はチャンスをうかがいながらケイオス・ブレイカーのグリップを握る。上級の大魔法を放った直後を狙う。


「ん~。雷撃ライオットじゃ駄目かぁ。そのシールドは厄介だねぇ」


 命のやり取りをしているとは思えない軽薄な物言い。


「おーい、アトラス?寝たふり止めて、そろそろ起きたら?手伝えよー」


 エスペンは死んだアトラスの横に立ち、爪先で突いている。ずっとアンナを後ろ手に拘束したままだ。


「おい、アトラス。いい加減にしろよ?」


 エスペンの声色が変わる。さっきまでの軽薄さは鳴りを潜め、声に怒気を孕んでいた。エスペンの視線は俺たちから片時も離れない。


「ちっ!もういい!巻き込んでも知らんからな!雷槌トール!」


 ドォォォォゥ!


 アルティメット・シールドの上に雷の柱が襲い掛かる。雷槌トールはただの電撃ではない。物理的圧力を伴って降り注ぐ圧倒的な力。


 シールドの周囲の地面から土くれが剝がれて宙に浮かぶ。ドゥ!という轟音と共に、宙の土くれがまた地面に叩きつけられる。それが周期的に繰り返され、シールドの周囲がクレーターのように抉られていく。


 アルティメット・シールドにヒビが入る。俺の魔力を上回る攻撃力。内側にもう一層、アルティメット・シールドを張り、外側に、平面の盾のように別のシールドを展開する。盾を斜めにする事で雷槌トールの直撃を少しでも逸らす。


 永遠とも思える雷槌トールの攻撃は、実際には数十秒だったろう。平面の盾がボロボロになり、外側のアルティメット・シールドもヒビだらけになった頃、ようやく攻撃が終わった。


 ここだ!


 俺は、エスペンがアンナを捕えている左側の逆に転移した。既にケイオス・ブレイカーはエスペンの右脇腹を切り裂こうとしている。


 ゾクっ


 全身が粟立つ気配に、俺は大きく後ろに飛び退いた。次の瞬間、今まで俺が立っていた場所に黒い影と共に斬撃が振り降ろされる。


「これを避けるか!なかなかやるな!」


 斬撃を放った主は、三十年前に俺が倒した魔王。共和国の現国王、二十七回目の召喚者、タクマ・カトウだった。

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