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救世の召喚者  作者: 五月 和月
48/51

48 意外な協力者

こちらは五話中の二話目になります!

続きは数分後に投稿します。


 城の西棟から中央棟に移動する。道中で一度だけ見回りと遭遇したが、ルルが事前に気配を察知したので、危な気なくやり過ごす事が出来た。


 捕虜のイメージで、城内の様々な場所は事前に「見て」いたが、やはり一度は自分の目で見ておきたい。そうする事で、いざという時の転移ポイントも増える。


 戦闘を前提としているのでどうしても広いスペースが気になる。舞踏会などを行う広間をチェックしようと中央棟一階の奥に続く廊下をそろそろと進んでいる時、ルルが俺の袖を引っ張った。


 ルルの手を見ると、指を三本立てている。曲がり角の向こうから三人来る、という意味だ。大きな柱の影に身を潜ませるが、ルルが怪訝な顔をしている。


(一人、嗅いだ事のある匂いがします)


 ルルが俺の耳元で囁く。なんだって?共和国の人間で会った事がある奴・・・?もしくは残った匂いをルルが覚えている奴?アトラスかっ!?


 アドレナリンが身体を駆け巡り、瞬時に戦闘態勢に入る。左腰の黒刀の柄に手を置く。今夜の目的は偵察だが、チャンスがあれば倒すべきだ。柱の影から、そいつが見えた瞬間に首を刎ねるべく神経を研ぎ澄ませる。


 こちらに近付いて来る足音が聞こえる。ルルによれば三人。こちらには気付いていない。


 来た!


 まず、鎧を着け、松明を持った兵士。こいつじゃない。


 ルルが俺の上着の裾を軽く引っ張った。次だ!


 指の先と爪先が見えた瞬間、俺は黒刀を抜いた。


 そいつの顔が見えた瞬間、反射的に首めがけて黒刀を振り、


 おおおっとぉぉぉ!


 違う!アトラスじゃない!女性だ!


 俺は全力で黒刀を止めた。


 ポニーテールの赤髪、雀斑の浮いた白い肌。目の前に突然現れた刀に緑色の目をまん丸にしている。


 竜族のシエラ、そしてルルと共に森の中を数日追いかけ、ルルが殺されそうになって、俺が怒りのあまり殺してしまった、あの女召喚者だった。


「あなたは・・・」


「お前は・・・」


 俺と女召喚者が、お互いにどうしたものかと見つめ合っている僅かな間に、女を前後に挟んでいた二人の兵士をルルが無力化していた。


 全然音がしなかったけど?一体どうやった?


 誇らしさと頼もしさが湧き上がると共に、奥さんだけは怒らせないようにしなきゃと気を引き締め、目の前の女召喚者に意識を向ける。


 敵側の召喚者は四人。こいつを殺せば残りは三人になる。相手は武器も持っていないが仕方ない。大切なものを守るためだ。


 俺がもう一度黒刀を振ろうと身構えた時、女が慌てて口を開いた。


「待って!私は戦うつもりはない!」


 女がこちらに両の手の平を向ける。


「私はアンナ!アンナ・リヒターよ!」


「・・・ユウトだ」


 俺は女から目を離さず、いつでも転移できるよう警戒を続ける。ルルが、一番近い扉に耳を当てて中を探る。


「ユウト様、こちらへ!」


 ルルの言葉に従い、部屋の中に入る。アンナと名乗る女に刀の切っ先を突きつけたまま。ルルが、倒した兵士を一人ずつ部屋に中に運び込み、扉を閉じる。


 そこは謁見を希望する者の控えの間のようだった。灯は窓から差し込む僅かな月明かりのみ。アンナの微かな動きも見逃さないよう集中する。


「アンナと言ったな。戦うつもりはない、とはどういう意味だ?」


「そのままの意味よ。私はもう・・・疲れた。やっと自由になれたと思ったのに、またあいつに召喚されて・・・もう・・・嫌なの・・・」


 アンナの緑色の瞳から涙が零れ落ちる。やがて顔をくしゃくしゃにして床に崩れ落ちた。


(嘘は言ってないみたいです)


 ルルが俺の後ろから囁く。しかし、そう簡単に信用できない。カエラを始め、多くの竜族を攫い、あまつさえルルを簡単に殺そうとした女なのだ。


「・・・ごめんなさい。あなたなら、私を自由にしてくれるかも、と思って・・・」


 アンナが掠れた声で呟く。


「自由とは何だ?また竜族を攫うのか?それとも、多くの人を殺すのか?」


 自分でもぞっとするような低い声で尋ねた。


「そう・・・そうよね。簡単に信用出来る訳ないわよね・・・」


 アンナが肩を落とす。しかし、何かを決意したかのようにキッ!と顔を上げた。


「私は十六回目。国王は二十七回、アトラスは二十二回、エスペンは二十四回召喚されてる」


 アンナが淡々と告げる。


「知っての通り、私は従魔術が得意。もう使う気はないけど。アトラスは魔法が苦手。素手の戦いを好む。エスペンは逆。素手や剣が苦手で魔法が得意」


 アンナは、共和国の召喚者たちの情報を教える事で信用を得ようとしているらしい。


「国王は・・・何でも出来る。剣も魔法も。そして・・・冷酷だわ」


「その話を信じる根拠は?」


 俺が冷たく告げると、アンナは唇を噛んだ。


「あなたが国王を殺してくれるのなら、今ここで私を殺してくれて構わない」


 アンナはそう告げ、目を閉じて自分の首を差し出すように顎を上げた。両膝に置いた拳が小刻みに震えている。


 俺は黒刀を鞘に収めた。


「アンナ・・・君は国王の事が嫌いなのかい?」


 アンナが目を開け、俺の目を見返す。


「嫌い・・・?いいえ、憎んでるわ。私の人生を滅茶苦茶にして、恐怖でがんじがらめにしたあいつ・・・出来る事なら自分の手で殺したい・・・」


「そうか・・・分かった。じゃあ、知ってる事を詳しく教えてくれ」


 俺はアンナの目の前に右手を差し出した。アンナが目を丸くして、おずおずとその手を握る。


「ええ。ありがとう」





 アンナをどこへ連れて行くか、物凄く悩んだ。


 このまま城に置いておく、というのも一案だが、一緒に居た二人の兵に見られてるし、そこから敵に気取られてしまう。


 かと言って、魔族領や竜族、竜人族の里に連れて行くのも嫌だし、帝国の皇城もなぁ。十六回目の召喚者なら、その気になれば武器なしでも大量殺戮が可能だ。


 グズグズしてる場合じゃない。こういう時は仲間に相談だ。ルルの同意を得て、アスタたちが待っているアジトへと戻る事にする。気絶してる二人の兵士を両脇に抱え、ルルとアンナに掴まってもらい転移した。


 転移先はアジト内の捕虜が居る場所。突然現れた俺たちに、捕虜の四人が腰を抜かす。とりあえず、兵士二人の鎧と剣を剥ぎ取り、縄で縛っておいた。


 ルルが三人を呼びに行き、アスタとユナ、カエラもこちらの部屋に来た。


「こちらはアンナ。共和国の召喚者だ」


「なんですって!?ユウト、あんた何考えてるのよ!?」


「ん・・・この人、見覚えがある」


 うんうん。やっぱそうなるよね。カエラに至っては、従魔術を掛けられた訳だしな。


「うん、皆の気持ちは分かるんだけど、敵じゃない。彼女は他の三人の召喚者について色々と教えてくれた。まぁ、俺たちに協力してくれるって事だ」


「ルルも、この人は大丈夫だと思います。嘘の臭いがしません」


「ルルちゃんがそう言うなら・・・分かったわ」


 おいおい、ユナ。その言い方だと俺の事は全然信用してない、って聞こえるけど?


「ユウトさんが信じるなら、わ、私も信じる」


 おぉ・・・カエラ・・・ありがとう。


「と言う事で、アンナ、君に聞いておきたい。君はこの先、ユルムントと地球、どちらで生きて行きたいのかな?」


「それは・・・私に選べるの?」


「ああ、今ならどちらでも選べるぞ?」


「私・・・私は・・・あの男の支配から逃れられるなら、どちらでもいい。でも・・・出来るなら、故郷に帰りたい」


「戻ったら、二度とこちらの世界に来れないけど、それでも構わない?」


「ええ。構わないわ。ずっとあの男に支配されていた・・・こっちの世界に未練はない」


 アスタに隷従の刻印を外してもらい、俺が殺せばアンナは地球に帰り、二度とユルムントに召喚されない。これで彼女の望みは叶う。


 でも嫌だなぁ。無抵抗の女性を殺すなんて・・・


「ねえ、アスタ。前にリュウにやったみたいに、二度と召喚されないようには出来るよね?」


「うむ、もちろんじゃ」


「え?リュウが召喚出来ない事、あいつは物凄く不思議がってたけど、あなた達が何かやったの!?」


 アンナが驚きの声を上げる。そうか・・・アンナがまた召喚された事を疑問に思ってたけど、リュウも召喚しようとしてたのか。


「うん。そうなんだけど・・・どうしてタクマは特定の人間を召喚できるんだい?」


 俺の疑問にアンナは素直に答えてくれた。俺が召喚された時、本当は俺の両親を召喚するために、竜人族が召喚陣に魔力を込めたって話を聞かされてたから、本人が魔力を込めるって話はすぐに腑に落ちた。


「そ、それで!?私もリュウのように、二度と召喚されないように出来るの!?」


 アンナが勢い込んで聞いて来る。そんなにユルムントが嫌なのか。なんだか少し切ないな。


「ああ、出来るよ。このアスタの力があればね」


 俺がアスタの方を手で示すと、その先には腰に手を当てふんぞり返ってドヤ顔を決めたアスタが居た。


「うわーっはっはっはっはー!我はディアスタシス。次元を司る神。異世界からの召喚も我の管轄じゃ!」


 アンナは目を丸くし、アスタと俺の顔を交互に見ている。俺は厳かに「うむ」と頷いてやる。すると、アンナは「はっ!」と息を呑んだ。


「あ・・・あ・・・私・・・もうこの世界に来なくて良いの・・・?」


「うむ!お主がそう望むのであれば、我が望みを叶えよう」


 アスタがそう言うと、アンナはアスタの前に跪き、アスタの腰に縋ってわんわん泣き出した。


「お、おぅ・・・それほどまでに辛かったのじゃな・・・」


 珍しく、アスタがおろおろしている。俺はアスタに耳打ちした。


(ねぇ、アスタ。アスタの力で、殺さなくても地球に戻せない?)


 アスタは俺の方を見て「?」って顔をする。


「出来るぞ?言うてなかったか?」


「いや、聞いてない!ってか出来るんだ!アスタって凄い!!」


 こそこそ話をしていた事を忘れ普通に喋ってしまった。ルルとユナ、カエラの三人が顔に「?」を貼り付けて俺とアスタの様子を伺っている。


 よしっ!これで無抵抗の女性を殺すというトラウマ案件を避ける事が出来たぜ!俺はホっと胸を撫でおろした。


アンナが泣き止み、落ち着くのを待って説明する。


「アスタが、リュウの『隷従の刻印』を壊して、それを二度と刻めないようにしたんだ。それでリュウを召喚する事は出来なくなった」


「わ、私にも、それをして貰えるの?」


「ああ。ただし、俺たちが知りたい事を教えてくれたら」


「教えるっ!何でも話すわ!は、恥ずかしい事でも、何でもっ!」


 いや、別に恥ずかしい事は言わなくてよろしい。


「よし。じゃあ、まずはタクマ・カトウの事からだな」


 それから俺たちは椅子に座って、アンナが知っている事を全て聞き出した。





 幾度かの休憩を挟みながら、アンナから残り三人の召喚者について聞き、作戦を練るのに二日かかった。


 俺とルル、アスタ、ユナ、カエラ、そしてアンナも交え、俺より強い三人とどうやって戦い、勝つか。ひたすら考え、話し合った。


 その後、帝国北部の荒野に六人で転移して、訓練も行った。


 まず、カエラとユナには召喚者のスピードを体験してもらう。敵の三人は俺より早いだろうが、初見で戸惑わないように少しでも慣れてもらおうという考えからだ。


 そこでは、ルルが大変役に立つアドバイスをしてくれた。


「相手の目線と爪先の向き、重心の傾きを見るんです。目で追えない程の速さでも、移動しようとする方向はそれで分かります」


 俺も目から鱗だ。召喚者は力が強大なため細かい事を気にしない傾向にある(と思う)。気にしなくても勝ててしまうと言った方が正しいかな?だから、ルルから見たら動きが分かりやすいんだそうだ。


 それを実践するため、木剣をルルに持ってもらい、全速力で動く俺に斬りつけてもらった。驚いた事に、三回に二回は俺に剣を当てた。シールドで身体を守っていなければ骨折くらいしてたかもしれない。


「ルル、凄いな・・・」


 思わず感嘆と畏怖の声が漏れる。ますます奥さんを怒らせてはいけないと心に刻んだ。


 動体視力や身体の動きなど一朝一夕で飛躍的に向上する筈はない。ないのだけど、ユナは竜人族。カエラは竜族。二人とも普通の人族とは比較にならない身体能力を持っている。


 それから六日間訓練した。その結果、俺とアンナが二人がかりでルルとユナ、カエラに襲い掛かっても回避されるまでになった。


 一対一で対峙しても、簡単には攻撃が当たらない。


 そして俺も。これまで力任せだった刀剣の扱いは、ルルに教えを請う事で身体の一部のように馴染んだ。腕の振り方、足さばき、重心移動。


 そしてケイオス・ブレイカーの使い方。これまでも、黒刀の刀身に魔力を纏わせる事は出来ていたが、ケイオス・ブレイカーは魔力そのものを流し込む事で真価を発揮する剣だった。


 これはアスタの監督の下、意識せずとも常に魔力を流し込めるよう訓練した。ただ、俺の膨大な魔力を以てしても、ケイオス・ブレイカーで戦えるのは五分が限界だった。それ以上は目に見えて身体の動きが悪くなるのだ。


 魔法についても、ユナとカエラに制御を教えてもらった。俺の魔法は威力が高過ぎてあまり使う機会がなかったのだが、虫眼鏡で太陽の光を集めるが如く、範囲を狭めて更に威力を高める方法を会得した。


 訓練を始めて七日目。帝国の惨劇から十二日経っていた。残りはあと二日。明日、俺たちは三人の召喚者に戦いを挑む。


 最後の仕上げに、俺は荒野でケイオス・ブレイカーを握っていた。標的は、遥か彼方の山の頂上。集中し、標的に向けてケイオス・ブレイカーを横薙ぎに振る。


 数秒後、山の頂上に斬撃が届き、頂上が斜めに崩れ落ちる。遅れて「ゴゴゴゴッ!」という音が耳に届いた。


 確かにこれは「最強の剣」かも知れない。

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