47 城への侵入
予定より早く書き上がったので投稿します!
本日は完結まで五話投稿します。
こちらは五話中の一話目です!
SIDE:アンナ・リヒター
アンナは絶望していた。
森であの男に殺されて、十数年振りに元の世界に帰る事が出来た時、アンナは歓喜に打ち震えた。あの、共和国国王の座についている召喚者の、圧倒的な恐怖から解放されたからだ。
しかし一方で、いつまた召喚されるかと怯えていた。自分の事など忘れて欲しい。あの召喚陣に何かが起こって二度と召喚出来ないようになっていて欲しい。
アンナは神に祈った。私をあの世界に連れ戻さないで下さい、と。あの男と二度と会わなくて済むように、と。
その祈りは聞き届けられなかった。アンナは再びユルムントに召喚された。
召喚されてすぐ、何が起こったのか説明を求められた。ジブラル砦南方の森の中で、黒い服を着た男に殺された、と伝えた。
直前に獣人の若い女から話し掛けられ、その子を斬ろうと剣を振ったが空振り。そして突然現れた男に斬られたのだ、と。
その説明で国王は納得したようだった。そして、また新たな召喚陣に魔力を注ぎ込めと言われた。
再び召喚されてから六日。監視付きで、アンナは毎日決まった時間、召喚陣に魔力を注ぎ込む事を強要されていた。
あの男は、国王は、私を自由にする気なんかない。このままどちらかの寿命が尽きるまで、私はあの男に怯えながら生きて行くしかないんだ・・・
アンナは涙をぽろぽろと流しながら召喚陣に魔力を注ぎ込む。
そして、自分にひと時の自由を与えたあの男を思い出す。自分を殺したあの男を。
(あいつなら、国王に勝てるかも・・・いや、そんな訳ないか。でも・・・)
可能性はほんの僅かかも知れない。でも、ゼロよりマシだ。アンナはそう思った。
SIDE:ユウト
俺たちは共和国諜報員のアジトに二日間籠りっきりだった。いい加減外に出たい。新鮮な空気を吸って陽の光を浴びたい。が、今は我慢だ。
ドイルさん達が捕えた共和国側の人間は四人。この四人は非常に協力的だった。その理由は、簡単に言うと共和国の現国王と、国の体制が気に入らないからだった。
約二十七年前に戦争が終結したと同時に、このコンクエリア共和国は誕生した。元は七つの国である。これらの国々を、現国王は武力で制圧したのだ。
この首都ムルスがある場所は、元々ロズリンド王国という国だったらしい。そして、捕虜となった四人はいずれもロズリンド王国時代から城に勤めていたか、勤めていた人の子息だった。当然、現国王の事を良く思っていない。
この四人だけではなく、城に勤める者の多くが現国王を嫌っていると言う。しかし、あまりにも強大な力を持っているため、逆らう事は叶わない。
それでこの四人に対し、家族と一緒に帝国へ亡命させる事をちらつかせると、それはもう渡りに船と言わんばかりに協力的になったのだった。
こちらが聞きたい事はもちろん、聞いていない事まで教えてくれるので、情報の大渋滞である。
俺たちにとってはこの上ない情報源であるが、これは共和国とその国王の求心力の低さを物語ると言えるだろう。要は簡単に裏切られている、と言う事だ。
国王の名は「タクマ・カトウ」。明らかに日本人だ。
日本人の強い召喚者と言えば、どうしても前魔王を思い出す。
「それじゃ、国王の姿を出来るだけはっきりとイメージしてくれ」
俺は捕虜の一人に指示を出す。アスタが、捕虜と俺の頭にそれぞれ手を置くと、俺の脳内には捕虜のイメージが写真のように浮かび上がった。
念のため他の三人でも同じ事を試す。結果的に、当たり前ではあるが同じ人物だった。俺は確信した。三十年経って年齢を重ねているが、これは間違いなくあの「魔王」だ。
「ったく・・・何の因果だよ・・・」
「ユウト様?どうされたんですか?」
ぼそっと呟いただけなのに、聴覚が鋭いルルが心配そうに俺の顔を覗き込んで来る。
「ああ。共和国の国王ね、俺が昔倒した魔王だわ」
部屋中から「ええぇ!?」というどよめきが上がる。おいおい。ここは一応隠れ家なんだから静かにしなさい。
「魔王って、あの?ユウト様が話してくれた、あの魔王ですか!?」
他にも魔王が居るなら教えて欲しい。いや、やっぱり知りたくない。
「うん。あれから三十年経ってるから、それなりに歳は重ねてるけど間違いない」
「改心した、のでしょうか・・・?」
ルルが聞きたい事は分かる。三十年前は暴虐の限りを尽くしていた人間だ。それが一国の王とは・・・
「どうなんだろう・・・でも、部下にあんな酷い事をする奴がいるんだ。改心したと言うより、上手く立ち回る事を憶えたんじゃないかな」
「そうじゃな。人の本質など、そう易々と変わるものではないからの」
アスタが言うと滅茶苦茶重い。忘れがちだけど神様だからな。ユナとカエラがポカンとした顔をしていたので三十年前の魔王討伐について簡単に説明した。
「でも、その時はユウトが勝ったんでしょ?だったら今度も勝てるわね!」
ユナが、もう勝ったも同然といった感じだ。その時、捕虜の一人が遠慮がちに言い出した。
「国王は、当時のロズリンドで何度も召喚を繰り返したと聞きます・・・隣国の十万の大軍を一発の魔法で灰にした、とも・・・」
その言葉に、部屋が静まり返る。そして、全員の視線が俺に注がれるのを感じる。
「ユ、ユウトだってそれくらい楽勝よっ!・・・そうよね?」
さっきと打って変わって自信なさそうにユナが聞いてくる。
「いや。実際にやった事はないけど、一発で十万は、俺には無理だと思う」
心情的に出来るかどうかは別にして、十万もの大軍が、仮に一か所に集まっていたとして、どれくらいの広さを燃やし尽くす必要があるだろう?
東京ドームの収容人数が五万五千人だから、ドーム二個分。武器や馬、馬車が場所を取ってるとして、ドーム四~五個分くらいだろうか?もっと散開していればドーム十個分くらいかな・・・
「ごめん、やっぱギリギリ出来るかも知れない」
「ほ、ほら!ほらね!ユウトだってそれくらい出来るって!」
ギリギリ出来ないかも知れない。まぁ、そんな事を言ってても仕方ない。今は、国王の力が俺を上回ってるらしい、って事が重要だ。
国王の具体的な力についてはそれ以上分からなかったが、一度戦っているってのは大きいよな。相手の戦い方が、なんとなくでも想像できるから。逆に俺の戦い方も読まれてしまうのだけど。
その後は捕虜の協力を得て、他の召喚者たちの姿や彼らの性格・戦い方など知ってる事を教えてもらう。
そして、これが最も重要なのだが、城周辺と城の内部の見取り図を書いてもらった。そして兵の配置や見回りなどについても知っている限りを聞き出す。
「とりあえず、ここで出来る事はこれくらいだな」
俺たちがフリッカから貰った時間は二週間。あれからすでに四日が経過している。あまり悠長に作戦を練っていられない。
「よし。リュウの時と同じように、まずは偵察に行こうと思う。見回りが手薄な時間帯を狙って、なるべく多くの転移ポイントを作りたい」
「我の出番じゃな!」
アスタがふんすっ!と腰に手を当ててふんぞり返る。
「ルルもお供しますよ!」
音と気配の察知に関してはルル以上に信頼出来るパートナーは居ない。フリッカと初めて帝都のカフェで会った時は潜んでいる護衛に気付かなかったが、あれは警戒していなかっただけだ。
「うん。ルル、アスタ、頼むぞ」
そこから、捕虜四人と頭を突き合わせて最初に転移する場所を検討した。傍から見ると違和感しかない絵図だ。なんせこの人たちの城に攻め入る相談をしてるんだから。
目的は四人の召喚者を殺すこと。可能であれば一人ずつ相手したい。
だが実際には難しい。騒ぎになれば敵の召喚者が一堂に会する事も覚悟しておかねばなるまい。
城の内部で召喚者同士の戦闘が始まれば、城に勤める人々の多くが犠牲になるだろう。出来る事ならば、反体制の人々だけでも避難させたいが・・・。
今回は綺麗事を言っていられない。甘い事を考えていたら、こちら側に犠牲が出るかも知れないのだ。そんな事は許されない。
偵察は早速今日の夜中に実行する事にした。
検討の結果、転移先は城の地下二階にある地下牢付近に決定した。牢の出入口には常に見張りが居るが、タイミングを見計らえば目視の転移で躱せると判断したからだ。
「ユナ、カエラ、行って来るよ。ユナ、もしもの時は頼んだぞ?」
ユナは転移が出来るから、万が一俺たちが戻って来ない場合はアスタとカエラを連れて魔族領か竜人族の里に避難するよう伝えてある。
「分かってる。でも、ちゃんと戻って来るでしょ・・・?」
ユナが珍しく弱々しい声で確認して来る。
「ああ。もちろんそのつもりだ。念のためだよ、念のため」
「うん」
「カエラも、待つのは嫌かも知れないけど、少しの間辛抱してくれ」
「ん・・・待ってる」
「よし。じゃあアスタ、お願い出来る?」
「うむ。くれぐれも気を付けるんじゃぞ」
「うん、ありがとう。じゃあ皆、行って来るよ」
ルルが俺の腕を掴み、アスタが俺と捕虜の頭に手を乗せる。目を閉じると、行った事がないはずの薄暗い通路、そして両側にいくつか並んだ鉄格子の扉が鮮明に見えて来た。通路の突き当りにも鉄格子の扉がある。あれが牢の出入口だろう。
俺はルルを伴ってそこへ向かって転移した。
五十メートルはある石造りの通路だが、左右の壁に合わせて四本の松明しか刺さっていない。牢に囚われるような者に灯は不要、って事だろうか。おかげで通路のほとんどが影に沈んでいる。
俺とルルは物音を立てないよう、慎重に牢の出入口に近付く。あと十メートルの所まで来ると、ルルが俺の袖をくいくいっ!と引っ張る。
ルルを見ると立てた指は一本。見張りは一人しか居ないという合図だ。
ルルが集中して気配を探っている。すると突然俺の耳に顔を近付けて囁く。
(居眠りしてます)
超ラッキー!ここから出るのが割と難関だったのだ。俺は鉄格子の先の暗がりに目を凝らし、ルルと共に目視で転移した。
後ろを確認すると、机に突っ伏して居眠りしている兵の姿が確認出来た。静かにその場から離れる。
しばらく進むと地下一階へと続く登り階段があった。捕虜に書いてもらった見取り図通りだ。城の地下には重要な施設はなく、この階段はそのまま一階へと続いている。
城は、一番大きな中央棟、その東・西・北に一回り小さな棟が連なるように建てられている。俺たちが今居るのは西棟の地下だ。西棟にはこの地下牢と物置、地上には会議室や資料室が集まっているらしい。
国王の居室は北棟にあり、一番高い建物になっていて、当然ながら最も警備が厳重だ。共和国近衛騎士の精鋭が二十四時間体勢で警備に当たっている。
そちらに行くと騒ぎになってしまうので、今夜は避ける。
東棟の上階は国王の側室たちにあてがわれた居室スペースらしい。何でも、共和国中から美女が集められているそうだ。うらやm・・・いや、けしからん話だ。
最も広大な中央棟は、晩餐会や舞踏会を行う広間、城の警備に当たる兵の詰所、調理場や食料の保管庫、上階には謁見の間、執務室、会議室、応接室など国の政治にまつわるスペースが集められている。
城の造りとしては帝国の城とあまり変わらない。城から少し離れた場所に、兵や騎士団の宿舎、訓練場などがあるのも同じだ。
少し変わっているには、この西棟の外に「闘技場」がある事だった。
西棟の上階に上がって窓から見下ろすと、その闘技場が見える。雛壇になった観客席が四方を囲んだ四角いスペースだが、かなりの広さがある。
その名の通り、騎士団や兵はもちろんの事、一般人でも腕に憶えのある者たちが、年に二回開催される「闘技会」で死闘を演じるのだと言う。
それはまだ理解できる。理解に苦しむのは、ここが「公開処刑場」としても使われている事だ。
市民を集め、罪人・反逆者、そして反逆を企てたと「疑われただけ」の者まで、大衆の面前で処刑されるのだ。
処刑人はアトラス。武器は一切持たない。そして罪人には希望する武器は何でも与えられる。処刑人に勝つ事が出来れば無罪放免。
俺はそのやり方を捕虜から聞いた時、胸のむかつきを覚えた。
死から逃れられる希望を抱かせて、その最後の希望ごと命を叩き潰すというやり方に。
しかし、最近ではアトラスの異常な強さを誰もが知る事になり、武器を与えられた罪人は、その武器で自害する者がほとんどだそうだ。
このような事態を国王は黙認している訳だから、やはり改心している筈などない。アスタが言った通り、人の本質は簡単には変わらないのだろう。
俺とルルは、今その闘技場に立っている。上から見た時も広いと思ったが、実際に立ってみると思った以上に広い。野球場四個分くらいのスペースがある。更に、ここは見回りの兵も居ない。
「ここなら、多少暴れても被害が少なくて済むかもな・・・」
城の中で戦闘になれば、城は倒壊し中に居る人々は無事では済まない。ここなら、騒ぎを起こせば戦いに無縁の人々が逃げ出す時間を多少は稼げるかも知れない。
俺の頭の中で作戦が纏まりつつある。
「ルル、もう少し城の中を見ておこうか」
「はい!」
ルルと手を繋いで再び西棟に転移した。




