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救世の召喚者  作者: 五月 和月
42/51

42 皇帝陛下との謁見

 翌朝、目が醒めると知らない天井・・・そりゃそうだな。ここはセルジュさんのお屋敷だった。


 俺たち五人にそれぞれ部屋をあてがっても部屋数は全然余裕らしい。一体何部屋あるんだろう。とは言え、ルルは俺と同じベッドで寝てたけど。


 この客間には、それぞれに風呂とトイレが付いている。昨夜は結構飲んだが、今朝はすっきりと起きる事が出来た。良い酒は翌日に残らないものなのだろうか。今日は皇帝と謁見だから、朝風呂を浴びよう。


 浴槽に湯を貯めているとルルも起きてきた。珍しく寝癖が付いているのが愛おしい。


「ユウト様、おはようございます。あっ、お風呂!ルルも入りたいです」


「おはよう。ちょっと狭いけど、一緒に入る?」


「・・・はい!」


 さすが貴族の浴室、とても良い匂いがする石鹸とシャンプーが置かれている。残念ながら、今朝はあまりじゃれ合ってる時間はない。それぞれ自分で身体と頭を洗い、一緒に浴槽に浸かって風呂から上がる。


 髭を剃ろうと浴室の鏡を見たが、思わず二度見した。この前より若返ってるように見える。これは・・・三十代前半くらいではなかろうか?


「ね、ねぇルル。俺、この前より若くなってない?」


「ユウト様、何を今更?」


 そ、そうか。俺は自分の顔をあまり見ないけど、ルルや他の皆は毎日見てるもんな。たまにしか見ないからギョっ!とするのだ。これからは出来るだけ自分の顔を見る機会を作るとしよう。


 そんな事をしているとメイドさんが呼びに来た。朝食の準備が出来たらしい。


 食堂に向かうと、既に皆集まっていた。そして、皆同じ石鹸とシャンプーの良い香りがした。アスタ、ユナ、カエラの三人も朝風呂したようだ。


「ユウト殿。一昨日は朝十時に騎士団本部へ、と伝えたが、この屋敷から直接城に向かってくれ。そうだな、十四時に迎えを寄こすから、それまでゆっくりしたら良いよ」


「それは有り難い。お言葉に甘えて時間までゆっくりさせて頂きます」


 朝食の席にフェルノは居なかった。既に仕事へ出掛けたらしい。フリッカは、いつの間にかアスタと随分仲良くなったようで、隣同士でお喋りしながら食べている。


 しかし、さすがは貴族の娘。服はもちろん、髪も綺麗に整えられ、薄っすらと化粧までしている。ほけーっとしている俺なんかとは大違いだ。


 十四時まで時間はあるが、あちこち出歩く訳にもいかない。俺たちはフリッカの案内で屋敷の中や庭を見て回り、「ほーっ」とか「へーっ」とか感嘆の声を上げて分かったフリをした。一頻り屋敷の内外を見て回った後は思い思いに時間を潰した。


 昼食の前には、メイドさん達が総出で女性陣を飾り立ててくれた。もちろん指揮を執ってるのはフリッカだ。


 昨日山ほど買った服をマジックバッグから全部出し、謁見に相応しい服をチョイス。そして髪を整え、軽く化粧までしてくれる。


「なんだか面映ゆいのう。普段通りではいかんのか?」


 アスタがちょっぴり不満げだ。


「普段も可愛いけど、今日は特別可愛いぞ!」


「そうか!それなら我慢のし甲斐もあるの」


 元々の素材が良いのだが、フリッカのセンスも素晴らしかった。黙っていれば神秘的な美少女に見える。実際神なのだけど。


 ルルは、いつもは元気っ娘な印象で実際に元気っ娘なのだが、今日はとても清楚な雰囲気だ。奥さんの新たな一面を発見して得した気分。


「あぁ、ルル・・・とても綺麗だよ」


「た、たまにはこんな恰好も良いですね・・・」


 喋り方も清楚な感じになってる。うん、たまにはお家でもそういう恰好をするようにお願いしてみよう。


 ユナは、ボーイッシュな革ジャンスタイルから一転、ショートヘアを活かした大人の雰囲気になっていた。


「ユナ、凄く似合ってるね」


「そ、そうかしら。変じゃない?」


「全然変じゃない。綺麗だよ」


「そ、そう?なら良いわ」


 カエラは、スタイルを活かしたセクシー路線である。しかしいやらしい感じはしない。女性らしさを強調しているが、凛とした芯のある女性って感じだ。


「カエラ、とても素敵だね」


「ん・・・こういうのが好き?」


「普段も良いけど、こういうのも新鮮だね」


 カエラは俯いて顔を真っ赤にしている。


 女性陣全員が、普段の美しさに輪をかけて輝いている。一方、俺は全くもっていつもの恰好だ。俺はこれで良いのだ。ポリシーと言っても良い。本当はただ服を選ぶのが面倒臭いだけなのだが。


「ユウト様、これにお着替えしてみませんか?」


 自分のポリシーについて考えていると、フリッカから声を掛けられた。その両手には何やら男物の黒い服が載せられている。


「いやぁ、俺はこのままで良いよ」


「そう仰らずに。昨日、ユウト様のために選んだのですよ?もしお気に召さなかったら、それでも構いませんから。わたくしのためと思って、ね?」


 俺が知らないうちに、自分の服まで買わされていたらしい。


「そうなの?じ、じゃあ着てみようかな」


 俺がいつも黒い服しか着てないのを誰かから聞いて、黒が好きだと勘違いしたのかも知れないが、なんとなく黒なら無難かなと思って着ているだけだ。つまり、センスが無いのである。


 フリッカが選んでくれた服は、黒のジャケットとパンツ、それに白のシャツ。それだけ言うと何の変哲もない組み合わせだが、素材や細かい装飾が凝っていた。


 ベロアっぽい少し光沢のある素材で、良く見るとあちこちに艶を消した黒糸で刺繍の飾りを施してある。白いシャツにも、白糸で細かい刺繍があった。


 見事な刺繍があっても実用性には何ら影響はないが、なんか見えないお洒落みたいで俺の心をくすぐった。


 着替えた俺に、メイドさんがわーっ!と群がる。髪をセットしたり、顔にお粉をはたいたりする。髭の剃り残しもチェックされた。


「とっても素敵ですわ!」


 フリッカが鏡越しに俺の出来栄えを見て満足気に頷く。正直、どこがどう変わったのか分からないが、まぁいつもよりシュッとして見えるのは間違いない。


「まぁ!ユウト様、素敵です!」


 ルルがすかさず俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。


「おお!お主もそんな風になるんじゃな!」


「ま、まぁ良いんじゃない?」


「ん・・・ユウト、さん、かっこいい」


 女性陣が口々に褒めてくれる。褒めてくれてるんだよね?


「ありがとう、フリッカ。これで謁見に行くよ」


「やった!嬉しいです!」


 フリッカも、ルルと逆の方の腕に腕を絡めてくる。選んでもらった服を着ただけなのにこんなに喜んでくれるとは。全くもって女心って奴は俺の理解を軽々と超えているぜ。


 着せ替えショーを終え、昼食を頂くと間を置かずに騎士団の制服を着た若い男性が迎えに来た。俺とルル、アスタ、ユナ、カエラの五人は一台の馬車に乗って城に向かった。





 セルジュさんの屋敷から城壁まで十五分。そこは貴族街の門兵とは比較にならない厳つい雰囲気の兵たちが守りを固めていた。


 話が通っていたので、大きな足止めをされることなく通過。ただし何人もの兵から握手を求められたが。


 そこからさらに五分程で城の入口に到着。入口と言っても裏口のような場所で、派手な出迎えなどはなかった。


 屋敷まで迎えに来てくれた騎士団員に礼を言って別れ、そこからは城勤めの文官が案内してくれる。あちこちに警備の兵士が立っている。


 俺たちが入った場所が特別なのか、内部の通路は思ったより狭く、曲がり角だらけだった。角には必ず警備兵がいる。


 俺にとってはまるで迷路のようだ。恐らく、万が一敵が城の内部に侵入した場合に、易々と皇帝の元に辿り着けないようにこんな造りになっているのだろう。


 三十年前に召喚された時には通らなかった通路である。


 十分ほど文官の後を歩いていると、広くて天井も高い通路に出た。こちらがメインの通路のようだ。


 豪華な造りの扉の前で「こちらでお待ち下さい」と言われ、俺たち五人はぞろぞろと中に入って行った。


 セルジュさんの屋敷で昨日の夕食前に案内された部屋を、さらに広く豪華にしたような部屋だ。


 そこかしこにソファが置いてあるのだが、俺たちは五人で固まって一つのソファに腰掛けた。


「なんだか落ち着かないわね」


「ユナさんも緊張してます?ルルはもう喉がカラカラです」


「ん・・・もう帰りたい」


「まったくじゃ。とっとと終わらせてのんびりしたいものじゃ」


 アスタは緊張してる訳じゃなく、単に面倒臭いだけのようだ。


「まぁまぁ、そう言わず―」


 俺が皆を宥めようとした時、「コンコン!」と扉がノックされる。皆がその音にびくっ!として口を噤んだ。


「失礼します。お茶をお持ちしました」


 お城の侍女の方々だった。丁寧な所作でソファに一列に並んだ俺たちの前に淹れたての紅茶を並べてくれる。


 侍女たちが出て行くと、皆神妙な面持ちで紅茶に口を付ける。


「良い香りの紅茶ね」


「ルルもこの香り、好きです」


「ん・・・美味しい」


「紅茶はまあまあじゃの」


 どうやら、愚痴を言っても始まらないと皆観念したらしい。しかし、皇帝がどんな人か知らないので、俺も落ち着かない。セルジュさんにもっと詳しく聞いておけば良かった。


 こういうときの時間の流れは異常に遅い。やはり、謁見なんて全力で断っておくべきだったか。やべぇ、だんだん緊張してきた。


 だが、ここでおっさんスキル発動。


 どんなに緊張する事も、どんなに嫌な事も、時が来れば終わる。謁見なんて、せいぜい十分か十五分くらいだ。それに俺たちは帝国国民じゃない。何か粗相をしでかしても問題ない。本当にまずい事になったら転移で逃げちゃえば良いのだ。


 おっさんスキル=開き直りである。


 緊張とおっさんスキルの発動を四回繰り返した頃、再び扉がノックされた。扉を開けた騎士団の制服を着た男性が「お時間になりましたのでご案内します」と告げる。


 都合の良い事に、ちょうどおっさんスキルターンのタイミングだった。


「よっしゃ!いっちょぶちかましに行こうか!」


 実際に何かをぶちかましたら大問題だが、こういうのはノリである。女性陣からは「「はい!」」「ええ」「よっしゃ!」と元気な声が返って来た。


 謁見の間の前にセルジュさんが待っていてくれた。親しい人の顔を見て安堵感が押し寄せる。同時になんだか力が湧いて来るような気がする。


「ユウト殿、そう固くならずに。陛下も楽しみにしておられるようだよ」


 セルジュさんが俺の肩をニギニギしながら教えてくれる。よし!もう色々とセルジュさんに任せよう!


 俺たちは皇帝を直視しないよう俯きながら謁見の間に入り、セルジュさんに倣って玉座の手前で下を向いたまま跪いた。


「皇帝陛下。ユウト・マキシマ殿ご一行をお連れいたしました」


 セルジュさんの余所行きの声が響く。


「うむ。ご苦労であった。皆、おもてを上げよ」


 ん?物凄い違和感がある。女性が無理して低い声を出しているような・・・


「ユウト様!もう、顔を上げてくださいな!みなさんも!」


 聞き覚えのある声・・・と言うか、つい一~二時間くらい前にも聞いた声に顔を上げる。


「・・・フリッカ・・・?」


 玉座には、豪華かつ貫禄のある服を纏ったフリッカが座っていた。


いつもお読み下さりありがとうございます!

そろそろストックが切れてしまいそうです・・・orz

今週末くらいから一度投稿をお休みする予定です。

それまでは毎日投稿します!宜しくお願い致します。

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