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救世の召喚者  作者: 五月 和月
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4 意外なグルメ

 転移魔法が使えれば移動は便利なのだけど、俺が使えるのは目視による転移と、一度訪れたことがある場所の記憶を頼った長距離転移の二種類だ。


 魔族領はこの大陸の南端部、広大な森林地帯の中にあるので、道も森の中をぐねぐねしている。従って、目視の転移をしてもせいぜい二十~三十メートルしか進めない。だから移動は徒歩か馬車になるが、魔族領では馬車は一般的ではないようだ。


 代わりに、バカでかいトカゲのような魔物が引く荷車が一般的だ。ちなみにそのトカゲ魔物は「パンゴル」と呼ばれている。人が直接乗っても大丈夫で、見た目と違って草食で大人しいらしい。


 俺一人なら走った方が遥かに早いのだが、ルルもいるし、そもそも目的地が分からない。と言う事で、狐人族の村でこのパンゴルを借りる事にした。ジャン婆さんの好意でタダで貸してもらえた。


 俺たちが借りたパンゴルは体長四メートル程。この大きさなら大人が四人乗っても問題ないらしい。


「ユウト様、この子の名前は『ドラゴ』らしいですよ!よろしくね、ドラゴ~」


 ルルが頭を撫でると、ドラゴと呼ばれたパンゴルは嬉しそうに目を細めた。こうやって見ると可愛く見えない事もない。しかし俺には爬虫類を愛でる趣味はないのだ。すまんな、ドラゴ。


 背中に人を乗せる為の鞍を着け、腹這いになって俺たちが乗るのを待つドラゴ。俺はパンゴルに乗ったことがないので、ルルが前になって手綱を握る。ルルと俺の間に両手で握るバーが設置されているので、ルルに捕まるという屈辱は免れた。


 おっさんがうら若い美少女の腰に腕を回してる姿は洒落にならないからね。


 目の前でルルの太くて長い銀色の尻尾が左右に揺れている。めちゃフサフサしてる。


 触ったらやっぱりセクハラかな・・・?


 尻尾をもふりたい衝動をありったけの自制心を総動員して抑え込む。なんか昨日もこんな場面があったな。


 ルルはなんだか楽し気だ。さっきからミミはピンっと立って忙しなく動いている。尻尾もずっと左右に振っている。この子は多分、感情がミミと尻尾に出やすいんだろう。


 パンゴルの乗り心地は思いのほか快適だった。とにかく上下動が少ない。鞍の座面はクッション素材が使われ、快適性に寄与している。


 これは馬より快適なのではないだろうか。まぁ、乗馬とかした事ないんだけど。


 スピードも結構出てるな。時速三十キロくらい?整地されていない悪路でこのスピードはかなり立派なものだ。


 ふと気付くと、左右の森の中を同じくらいのスピードで並走してるヤツらがいる。黒い影は俺たちを追い越すと、いきなり目の前に現れた。


 蛇だ。ただ、頭の大きさだけで軽自動車くらいある、馬鹿でかい蛇だ。全長がどれくらいあるか分からない。


 そいつらの一匹が、ドラゴの進路上で大きな顎を開いて待ち構えている。後ろからも一匹。敵意があるのは間違いない。


 森の中なので火魔法は使えない。大蛇の頭の真横に転移する。


「よいしょっと!」


 俺は大蛇の首根っこを両手で掴み、そのまま上空に放り投げた。今まで大蛇が口を開けていたその場所をドラゴとルルが通過する。


 後ろから迫っていた大蛇には、鼻先にカウンターパンチをお見舞いした。


 ドゴォン!


 鼻先が顔の半分くらまでめり込み、首から下の胴体が勢い余って浮き上がる。尻尾が真上を指した状態で一瞬静止し、本来あるべき方向に轟音と砂埃を伴って倒れこんだ。


 次の瞬間、放り投げた大蛇の方も地面に激突し、盛大な音と砂埃を辺りにまき散らした。


「ユウト様!!」


 ルルが細い片手剣を持って駆け寄って来る。砂埃にケホケホ言いながら俺の傍に寄ると、辺りを警戒していた。


「ルル、もう大丈夫だよ。怪我はない?」


「ルルは大丈夫です!それよりユウト様は?お怪我はないですか?」


「ああ、問題ない。こう見えて、俺は結構頑丈だからな」


「これはギガント・アナコンダですね。凶暴な魔物ですが、見た目に反して肉は大変美味しくて、皮も頑丈で貴重な素材になるんです」


 これだけ大きければ結構な人数を賄えるだろう。胴体の直径が二メートル以上ある。全長は五十メートルくらいありそうだ。


 しかし、この大きさでは持って行くことが出来ない。ルルを見ると涎を垂らしている。そんなに美味いのか。


 ドラゴが恐る恐るこっちに来たので、括りつけていたリュック型マジックバッグから「黒刀」を取り出した。さっきぶん殴った感触では皮が非常に硬い。風魔法で切断も出来るが、刃物で斬った方が断面が綺麗だ。多分味にも影響しそうだし。


 元の持ち主である前魔王も、自分の刀が蛇料理に使われるとは思ってなかっただろう。


「ルル、どの部分が一番美味いとかある?」


 ルルが目をキラキラさせて「ここです!」と首の下辺りを指さす。俺は黒刀を上下に二閃させ、幅三十センチで蛇を輪切りにした。さらに小分けにし、皮を剥いで肉の部分だけルルに渡す。


 料理はルルに任せ、俺は大蛇をどうするか考えた。こんなデカいヤツを道の真ん中に置いておく訳にも行くまい。かと言って森に放置すると他の魔物が肉を求めて集まって来るかもしれない。


 魔族にとって貴重な素材らしいので、肉は持てるだけ持ち、後で皮だけでも取りに来れるよう、残りは埋めておく事に決めた。


 ルルが美味いと言っていた部分を中心に、二匹の蛇から合計で幅三メートル分の輪切りを切り出す。皮を剥ぎ、大きな木の葉を取ってきて、小分けにした肉の包みに利用する。紐替わりに蔦を使って結ぶ。


 マジックバッグがあるのに、と思うかもしれないが、俺のマジックバッグにはおよそ三立法メートルという容量制限があるのだ。もっと性能の高いマジックバッグもあるようだが、俺は見つけることが出来なかった。収納魔法が使えたらなあ。


 転移は出来るのに収納魔法は使えない。いや、修行したら使えるようになるかもしれないが、今のところ使えないのである。こればっかりは仕方ない。


 と言う事で、作った肉の包みをマジックバッグに放り込んでいく。これでも相当な量だ。犬人族の村に何人いるか知らないけど、これだけあれば全員に回るかもしれないな。


 残りは土魔法を使ってさらっと埋めておいた。溝を掘って蛇を放り込み、その上から土を盛っただけなので、他の道に比べてそこだけ少し盛り上がっている。まあ、良い目印になるだろう。


 そうこうしてるうちにルルが料理を終えたようだ。と言っても、火を熾し、味付けした肉を串に刺して焼いただけだが。味付け用の各種調味料は俺が提供したものだ。


「ユウト様!焼き上がりましたよ!」


 そう言って、ルルが串焼きの一本を俺に差し出す。鶏肉のような白身っぽい肉だが、脂が溢れ出てすごく美味そうだ。少し焦げ目が付いているのが食欲をそそる。


「「いただきまーす」」


 俺とルルは同時にかぶりついた。口の中いっぱいに溢れ出る肉汁。癖や臭みは一切なく、旨味だけが広がる。


「これは美味い!」


 思わず口をついて出る言葉。ルルは肉にかぶりつきながら尻尾をブンブン振っている。


 焼けた串から肉を外し、木の葉の皿に乗せてドラゴにもお裾分けする。忘れてた。こいつは草食だったわ。ドラゴは肉汁の滲みた木の葉を美味そうに食っていた。もったいないので肉は回収して俺たちが食べる。


 それから俺たちは無言で食いまくった。ジューシーなんだが、脂が全然重くない。おっさんの胃袋にも優しいお肉だ。


 かなりの量があったが、二人で無言で食い尽くした。美味い物を食べるのに言葉はいらないよね。


「ユウト様、ルルは久しぶりにギガント・アナコンダのお肉を食べました!これもユウト様のおかげです」


「いや、ルルが美味いって教えてくれたからだよ。俺一人だったら知らずに放っておいたよ。ありがとうな」


 俺は無意識にルルの頭を撫でていた。ルルは最初ビクッ!ってなってたが、撫でてるうちにリラックスして来て、終いには尻尾がブンブン揺れていた。いつかミミと尻尾を存分にもふらせてもらおう。


 腹がくちくなったついでに、少し休憩する。ルルによれば、犬人族の村までパンゴルの足で残り一時間もかからないらしい。まだ陽は高く、取り立てて急ぐ必要もあるまい。


 同じ釜の飯(?)を食ったおかげか、ルルと気安くなった気がする。この機会にルルと親睦を深めてみるか。


「なあ、ルル。ルルは俺のお供をするのは嫌じゃないのか?」


「嫌じゃないですよ?父から押し付けられた感じだったので、最初はどうかなーって思ってたけど、ユウト様はルルたちに偏見がなさそうだし、全然偉そうにしないし」


「そっか。まあ、偉そうにしないのは、実際偉くも何ともないからだよ。魔王って呼ばれても全然ピンと来ないしね」


 偏見がないのはケモナーだから、とは言えない。


 ルルは「ふぅ~ん」と言いながら少し考えるような顔をする。


「話は変わるけど、ルルには兄弟とかいるの?」


「弟二人と妹が一人います!皆可愛いんですよ!」


 そうかそうか。アルさん似かお母さん似かで客観的な可愛さは変わるだろうが、ルルにとってはどっちに似てても可愛いんだろうな。


「ユウト様は、その、番のお相手とかいらっしゃらないんですか?」


 つがい?ああ、結婚の事かな。球速百六十キロでど真ん中にストレートを投げ込んで来たね。独身おっさんの心は、実はガラス細工のように繊細なんだよ?


「うん・・・独身なんだ・・・」


 この後に来る重い沈黙が嫌なのだ。特に女性は「何て言ったら良いか」って顔になるんだから。


「そうなんですね!じゃあ、こっちの世界でお嫁さんを作っても問題ないですね!」


 おう。ルルさんや。確かに問題ないですね、相手さえいれば。


 でも重い沈黙より百倍マシだったな。この明るくポジティブな考えは若さゆえかな?ルルの若さが眩しくて目に沁みるぜ。


「そうだね。お嫁さん、来てくれたら良いね・・・」


「来ますよ、絶対!なんなら一人じゃなくて、何人も出来ちゃいますよ!だってユウト様は魔王様なんですから!」


 魔王って一体何なのだろう・・・ルルと親睦を深めようとして、最後には若い子に慰められてしまったおっさん。気を取り直して犬人族の村に向かおうか。





 犬人族の村では、族長自ら出迎えてくれ、歓待の意を表してくれた。俺はお土産代わりのギガント・アナコンダの肉を大量にプレゼントしたが、犬人族の人々は大層喜んでくれた。いや「喜んだ」は生温いな。歓喜のあまり、大人も子供も半狂乱で踊りだしだ。


 確かに衝撃の美味さだったからな。気持ちは分かるよ、うん。


 お肉プレゼントの効果は絶大で、俺とルルは村の子供たちから取り囲まれ、もみくちゃにされた。ルルのミミと尻尾が目の前にあるにも関わらず、ずっとお預けを食らっていた反動で、俺が子供たちをもふりまくったのは言うまでもない。


 ひとしきりもふり倒した後、族長自らが召喚者の所に案内してくれた。


 そうだった。召喚者に会いに来たんだった。でっかい蛇やその驚愕の美味さ、そしてたくさんのケモミミに心奪われたせいで、本来の目的を忘れていたぜ。


 村の入口から中心部に向かって歩いて行く。この村は石造りの建物が多い。件の召喚者の家も立派な石造りで、煙突から煙が出ている。夕飯の支度中だろう。


 族長が玄関の外から声を掛けると、中から禿頭の男性が出て来た。欧米人らしい顔立ちで、スキンヘッドが良く似合ってる。


「どうも!あなたが魔王様?僕はスティーブです」


 スティーブと名乗った男は握手を求めて右手を差し出す。俺はその手を握りながら答えた。


「はじめまして、俺はユウト。魔王じゃなくてユウトと呼んでくれたら嬉しいよ」


 俺とルルは、スティーブの招きに応じ家の中に入った。


第四話で、ほんの少しユウトさんの強さを出してみました。

ギガント・アナコンダ(通称ギガちゃん)、実はとんでもなく強い魔物なんです(後に出てきます)が、ユウトさんだと相手にもならない・・・単なる食材になってしまいました。


明日も19時に第五話を公開します。

少しでも楽しんで頂けたら、ブックマークや評価して頂けると非常に励みになります!

宜しくお願い致します。

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