38 竜族の舞
更新が遅くなってしまい申し訳ございません。
今日もお読み下さりありがとうございます!
陽が暮れた頃、準備が出来たと竜族の若い男がシエラの家まで呼びに来てくれた。
シエラのお父さんとすっかり話し込んでいる間に、シエラと妹のカエラはいつの間にか居なくなっていた。宴の準備を手伝いにでも行ったんだろう。
呼びに来た若い男に案内され、竜族の集落で一番広い広場に案内された。
もう、結構遠くから見えていたのだが、広場の真ん中で盛大に火が燃えている。近付くと熱気が凄い。高さ十メートル程のやぐら状に木が組まれ、それが燃えている。
今まで見た中で最大級のキャンプファイヤーだ。
火を大きく回り込んで更に奥まで案内された。そこに身長二メートル近い大男が待ち構えていた。
人族なら還暦くらいの見た目だ。黒髪には白髪が混じり、灼けた顔には深く皺が刻まれている。老いというより歴史を感じさせる。燃えるような赤い目は力強い輝きを放っている。
「竜族の族長、グリムスだ。この度は、儂らの仲間を助けてくれて感謝する」
差し出されたデカい右手を握り返す。
「ユウト・マキシミリア、竜人族です。俺は手を貸しただけで、実際に頑張ったのはシエラですよ」
「気に入った!今宵はゆっくりと楽しんでくれ。そちらの方々は?」
「竜人族のユナです」
「狼人族のルルです。ユウト様の妻です」
「ディアスタシスじゃ」
三人は簡単に自己紹介する。アスタなんかもういちいち次元の神って言うのが面倒臭くなったようだな。
「ほう!ルル殿はユウト殿の奥方であったか!そして竜人族が二人も来てくれるとは!」
「竜人族って珍しいんですか?」
「そうであるな、儂ら竜族も竜人族も、あまり里から出ん。それ故今はあまり交流はないが、大昔は色々と協力しておったそうだ」
立ち話もなんだから、と席に促された。地面より一段高くなった所に、テーブルと椅子が用意されていた。
「ユウト殿は、シエラが我を忘れて暴れておった時、拳骨一発で正気に戻したそうじゃな?」
運ばれてきた酒で乾杯しながらグリムスが愉快そうな声を上げる。
「ええ。固い頭でしたね」
「わっはっは!お主は愉快な男じゃな!どうだ、今度儂と手合わせしてみんか?」
「族長と?いやいや、遠慮しときます」
「わっはっは!そうかそうか!まあ良いわ!」
グリムスは豪快な男だ。こういう人は嘘を吐かないから良い。ちょっとウザいけどね。あと、こういう人から頼み事をされると断り辛い。押しが滅茶苦茶強いから。
下らない話をしていると、どこかから太鼓の音がし始めた。いや、太鼓で合ってるんだろうか?
地の底から響くような、身体の芯まで震えるような、迫力のある音だ。
音の間隔がどんどん短くなって行く。やがて連続した打撃音になり、最後に「ドンっ!」と腹に響く一発が鳴って静寂が訪れる。
すると、炎の向こうから十人程の人影が現れた。全員女性のようだ。際どい部分だけを隠したビキニの上から、肌が透ける程薄い腰巻きを巻き、足元は裸足だ。
彼女たちは炎を背に、こちら側を向いて整列した。そしてまた太鼓の音が響き始める。その地の底から響くリズムに乗って、女性たちがゆらゆらと揺れ始める。まるで背後の炎と一つになるかのように。
手の平を合わせ、真っ直ぐ天に腕を伸ばし、そこからゆらゆらと足の爪先まで、身体全体が滑らかに揺れている。
突然蹲り、両手両脚を広げて高く飛び上がる。何度も何度も。そしてまたゆらゆらと揺れる。
それは今まで見たどんな踊りとも違っていた。ゆっくりしているのに激しい。妖艶でいて神秘的。半裸の女性たちが一糸乱れぬ動きで一つになって行く。
片手を頭上に伸ばし、もう片方の手を腰の辺りでひらひらさせながら回転している。脚を頭の上まで蹴り上げ、上体を極限まで反らす。
彼女たちの顔は上気し、玉の汗が浮かんでいる。
火の粉が舞い、彼女たちから飛び散る汗に炎が反射する。燃え盛る炎と踊る女性たちが混ざり合って一つになって行く。
俺は息をするのも忘れて見入っていた。まるで幻想の世界に囚われたように。
真ん中には、一際美しく踊る女性がいる。良く見るとカエラではないか!あんなに人見知りで大人しそうなカエラが、一番力強く堂々と踊っている。
そして、その隣にはシエラが居た。いつもの残念さは微塵もない。二人とも、この踊りを踊るために生まれて来たかのような、得も言われぬ美しさに溢れていた。
太鼓の間隔がどんどん短くなる。踊りは更に激しさを増して行く。連続した打撃音になる頃には、そのまま踊り続けたら死んでしまうのではと心配する程激しい動きになる。
そして、「ドンっ!」と打ち鳴らされると同時に、女性たちは全員地面に突っ伏した。
助けに飛び出そうとする俺の腕を、グリムス族長が押さえる。
やがて女性たちは起き上がり、俺たちに向かって一礼した。俺は思わずスタンディングオベーションした。ルル、アスタ、ユナ、そして竜族の皆も、立ち上がって歓声を上げ拍手している。
「凄い!凄い!」
感動し過ぎて、語彙力が無くなってしまった。
「ユウト殿。ルル殿。これは竜族に代々伝わる舞だ。竜族以外でこれを見た者は儂の知る限り居らん。儂らの感謝の印だ」
「これは神代から竜族に伝わる『火の神』への奉納の舞じゃな」
「ほう。何故それを?」
「なあに、火の神はちょっとした知り合いでの。見事じゃった」
アスタの顔も上気している。見るとルルとユナも顔を上気させていた。あの踊りを見て、興奮と感動を感じない者など居ないだろう。
俺なんかちょっと泣いているもん。
「グリムス族長。素晴らしい物を見せて頂き、本当にありがとうございます」
俺がグリムスの両手を握って上下にブンブンしていると、踊りを終えたシエラとカエラがこちらへやって来た。
「ユウトさん!どうでした?」
「凄かったよ!言葉に出来ないくらい素晴らしかった!シエラとは思えない!」
「ちょっと!どういう意味ですかぁ!?」
「ほんと、あのシエラさんがあんな凄い舞を踊るなんて!」
「ルルちゃんまで!?もう!じゃあ楽しんで頂けたんですね、良かった!」
アスタとユナも、シエラに興奮気味で感想を伝えている。シエラは照れ笑いしている。
「あの・・・ユウト、さん?どうだった?」
ふと気付くとカエラが隣に居た。踊っていた時はあんなに堂々としてたのに、なんだか自信無さげだな。
「おう、カエラ!凄かったよ!真ん中で、あんなに堂々と踊って。一番輝いてた!」
「そ、そう?・・・良かった」
カエラは目を伏せて少し微笑む。踊りの後だからか、まだ顔が真っ赤だ。そのままテテテっ!とどこかに走って行ってしまった。
その様子を見ていたルルが俺の腕をつんつん突いて来る。
「ユウト様?」
「ん?」
「ルルは、ユウト様の一番目の妻です」
「一番って・・・奥さんはルル一人だけど」
「前話した事、憶えてます?」
「なんだっけ?」
「ユウト様には、お嫁さんが何人も来るって話です」
初めてギガント・アナコンダを倒し、絶品BBQをした後にそんな話をしたな。
「うん。憶えてるよ」
「ルルは、ユウト様を独り占めしようと思ってません。むしろ、お嫁さんに来たい女性が沢山居れば居るほど誇らしいです」
「ほんと?いや、そんな事にはならないけど」
「本当です。だって、最初にユウト様を好きになったのはルルだから。それに、その、最初にユウト様から・・・好きって言ってもらったし」
「うん」
「何人お嫁さんが来ても、ルルの事好きでいてくれますか?」
「ルルの事、俺は死ぬまで愛す。それに―」
「いいの。それだけで十分です」
ルルが俺に抱きついて来る。いつもより力強く。
「どうしたんだい、ルル?」
「カエラさん」
「カエラが何かしたの?」
「ううん、何も。ただ、カエラさんはユウト様の事を好きみたいだから」
「ええー!?」
「さっきのカエラさん、凄く綺麗だった・・・まるで炎の精霊が踊ってるみたいで。ユウト様もそう思ったでしょ?」
「確かに綺麗だと思ったけど」
「あんな綺麗な人だったら、ルル、納得です」
「いや、納得すな!そもそも今日初めて会ったし、二言三言しか話してないし、俺の事なんか何も知らない筈だけど」
いつの間にか、シエラが傍に来ていた。
「ユウトさん?」
「はい?」
「カエラの事、どう思います?」
「何を言ってるのかな、君は?」
「カエラは私と違ってしっかり者ですよ?ちょっと人見知りですけど、料理は上手だし、可愛いし、掃除や洗濯も完璧で可愛いし、何より可愛いでしょ?」
「だから、何が言いたいんだ?」
「ユウトさん、すみません!!」
シエラがガバっ!と頭を下げる。
「私がユウトさんと出会って、拳骨で正気に戻してもらって、黒竜様に会って、召喚者の女を倒した所まで、ある事ない事カエラに聞かせたんです!」
ある事は良いとして、ない事って何だよ?
「そしたら、カエラはユウトさんに憧れるようになって・・・自分を助けてくれた英雄だと思ってるみたいで・・・いえ、確かにカエラたちを助けたのはユウトさんだし、英雄は言い過ぎだけど似たようなもんだし、とにかくカエラはユウトさんの事を『運命の人』って思っちゃって」
原因はお前じゃないか。
「一旦落ち着け。実物を見たら幻滅して夢から醒めたってパターンじゃないかい?」
自分で言ってて悲しくなるけどな。
「そうかも知れないけど、今日のカエラの様子を見てると逆のような気がするんです」
ユナとアスタもこちらへ来た。
「何の話をしているの?」
「ユウト様がモテモテって話です。カエラさんが―」
ルルが半笑いでユナとアスタに説明しようとする。
「ルル、そういうのはやめようね。本人から聞いた訳じゃないし」
「えー、良いじゃないですかぁ。夫がモテるのは、ルルの自慢なんですよ?」
「わーっはっはっはっはーー!ユウト!お主、見かけによらずモテるのう!」
アスタが「この!このう!」と言いながら俺の腰をつついてくる。
「いや、モテてるのか、これ?・・・って言うか、俺はルルが居れば十分幸せなんだけど」
「結婚してる男はモテるらしいわよ。落ち着いててがっつかない所が良いらしいわ」
ユナが身も蓋もない事を言い出す。
「まぁまぁ、もうこの話はやめようね。あんな凄い踊りを見た後なんだから。余韻に浸りながら酒でも飲もうぜ」
強引に話を打ち切り、元居た席に戻る。隣には既にグリムスが戻っていた。
「いやあ、本当に凄い舞でした」
「そう思ってもらえて何よりだ。あの舞を見せたのだ、もうお前は家族みたいなものだ」
そう言って、グリムスはゴツい手で俺の肩を掴む。
「ついでに、カエラの事も頼んだぞ!はぁっはっはっはー!」
そう言って、グリムスは俺の肩をバシバシ叩く。これ、普通の人族だったら骨が砕けてるんじゃなかろうか?
「頼むってどう言う・・・」
「野暮な事は言うな」
グリムスの真っ赤な瞳が俺を射殺すように見据える。しかしここで怯んでは駄目だ。俺も目に精一杯の力を込めて見返す。
「俺にはルルという妻が居ます」
グリムスの目がふっ、と和らいだ。
「それのどこが問題なのだ?」
俺の常識、これ即ち異世界の非常識。ここは分かりやすく言わねばならないようだ。
「俺は同時に何人もの女性を愛する事は出来ません」
「ふむ。正直な男だな。だが、お前が愛さずとも、お前を愛する女が傍に居る事を許すくらいは出来るだろう?」
「それは・・・気持ちに応えられないのに、傍に居るなんて苦痛じゃないでしょうか?」
「苦痛かどうか決めるのはお前ではない。苦しくなって離れて行くのか、それでも傍に居るだけで幸せなのか、決めるのは女の方ではないか?」
そう言われるとぐうの音も出ない。人がどんな事に幸せを感じるか、確かに俺が決めるべきではない。
「まぁ、そう難しく考えるな。お前に妻が居る事はカエラも承知している。それでも傍に居たいと言っておるのだから、それを許してやってくれ」
肩に置かれたグリムスの手からは、無理強いではなく優しい温かみが伝わって来た。
「分かりました」
「はっはっはー!それで良い!」
いつの間にかグリムスの後ろにカエラが来ていた。どうやら全部聞いていたようだ。
「カエラ、本当にそれで良いの?」
「ん・・・いい。ユウト、さんの、傍に居れるなら」
カエラはもじもじしながら消え入るような声で答える。本当に大丈夫だろうか?
こういう大人しい感じの子の方が、恋が叶わなくて突然キレて逆恨みとかしそうな勝手な偏見があるんだけど・・・
俺が寝てる時に竜のブレスぶっ放して来たりしないよね?
シエラの所にちょっと顔を出すだけのつもりだったのに、なんだか大変な事になった気がする。色々と不安ではあるが、考えても始まらない。
甘い香りのするジンのような、竜族の火酒を飲んでいるうちに難しい事は考えられなくなっていった。まっ、なるようになるさ!
ルル、アスタ、ユナ、そしてシエラとカエラも加わり、六人で酒を飲み、料理を頂く。専ら俺が料理を取り分け、空いた盃に酒を注いだりしていると、カエラが手伝ってくれる。
「ユウト、あんたも飲みなさいよ!」
ユナが絡んで来る。
「お主ももっと飲め!ほれ!我が注いでやるぞ!」
アスタがドボドボと地面に酒を注いでいる。
「ユウトしゃまー!」
ルルがしなだれ掛かって来る。もうフニャフニャになっている。
「ユウトさん!料理はもういいから、飲んで下さいよ!」
シエラが真っ赤な顔で盃を突きつけて来る。
「ユ、ユウト、さん・・・どうぞ」
カエラが酒を注いでくれる。
うん。この酒はかなり強いな。皆調子に乗って飲んだからかなり出来上がったようだ。たまにはこういう夜があっても良いよな。昨日もこんなだった気がしないでもないけど。
そうして、広場の真ん中の炎が焚き火くらいの大きさになるまで宴会は続いた。
明日は予約投稿で19時に公開します!
宜しくお願い致します!




