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救世の召喚者  作者: 五月 和月
37/51

37 ユナの××

 目を覚ますと、ルルとアスタに挟まれて寝ていた。ちゃんと人数分の寝床があったし、夕べは二人ともそこに寝た筈なんだが、いつの間に?


 ユナの姿は見当たらない。里の自分の家に帰ったのだろう。酔っ払ってて記憶が朧げだが、ここは宴会の場所から近くの家だった気がする。


 俺は二人を起こさないように寝床を出た。部屋が数か所ある平屋のようだ。木の床を裸足でぺたぺた歩いて台所と思しき方に行く。


 誰も居ない。水差しが置かれていたのでコップに注いで水を飲む。


 部屋に戻ろうとしたが、向こう側に旅館で見かけるような暖簾が掛かっている事に気付く。もしかして風呂かな?


 昨日は風呂にも入らずに酔っ払ったまま寝てしまった。せっかくだから風呂に入らせてもらおう。


 広い脱衣所で素っ裸になり、風呂の入口を開ける。


「きゃあーーー!!」


「ご、ごめん!」


 出て来ようとするユナと鉢合わせた。なんで居るんだよ?自分の家があるだろうに。


「どうしましたか!?」


 ユナの叫び声にルルが走り込んで来た。俺は慌てて腰にタオルを巻いて脱衣所から出た。


「いや、誰も居ないと思って・・・」


 ルルが風呂の入口から中に声を掛けている。「大丈夫ですかぁ?」とか言ってるのが聞こえる。しばらく外で所在無げに待っていると、濡れたオレンジの髪に上気した顔のユナがきちんと服を着て出て来た。


「見た?」


「見てない」


「見たでしょ!?」


「いや、見てない!」


 常人を遥かに上回る俺の能力は、一瞬で全てを見取っていた。はっきりと。


「ふん!」


 ユナはぷんすか怒りながら台所に消えて行った。ふぅ。何とか誤魔化せたぜ。


 改めて風呂に入る事にする。脱衣所でルルが尻尾を振って待っていた。


「ユウト様、一緒に入りましょ?」


「そ、そうだね・・・入ろうか」


 一人でゆっくりバスタイムを楽しむつもりだったのに・・・


 目をこすりながらぺたぺたとアスタも脱衣所に入って来る。


「朝から何の騒ぎじゃ・・・お!?これは風呂か!我も入るぞ」


 なぜだか三人で風呂に入る事になった。




 風呂から上がって台所に行くと、ユナが朝食の準備をしてくれていた。


 これは・・・!米か!?こっちは味噌汁?ユルムントで米らしき食べ物を初めて見た。味噌汁も。


 焼き魚に卵焼き。漬物まである。和朝食だ。ルルとアスタは物珍しそうに見ている。俺は一人静かに感動していた。


「「いただきます」」


 俺とユナが手を合わせてそう言うと、ルルとアスタも「「いただきます!」」と真似して食べ始める。


「う~ん、美味い!」


 思わず声が出る。俺は和食至上主義ではないが、日本人として長く生活してたから米があると落ち着くよね。


「そ、そう?口に合って良かったわ」


 ユナが少し照れながら言う。さっきの事は引き摺っていないようだ。一安心だな。


「さてと。とりあえず、キーラ族長の話は終わったって事で良いのかな?」


「ええ。他には特に聞いてないわ」


「それじゃ、魔族領に帰って助け出した獣人たちの様子でも見に行こうか」


 俺たちは帰る準備をする。念のため、セルジュさんから渡された通信魔道具をチェック。着信はないようだ。


 三人でユナに掴まり、キーラの元に転移する。昨日のおもてなしの礼を言った。


「ユウト、ここはあなたの故郷でもあるのだから、いつでもいらっしゃい」


 祖母が居るし、昨日の宴会でも親戚だって言う人が何人か居たし。まだ実感は湧かないけど、また訪れるのに抵抗はない。たまには米も食いたいし。


「ありがとう・・・ございます。また来ます」


 そう約束して、またユナに掴まり昨日八人に囲まれた場所に転移する。そこには、昨日の八人が待ち構えていた。


「昨日は済まなかった!」


 一番体格の良い男がいきなり頭を下げる。他の男たちも口々に謝りながら頭を下げてくれた。


「いや、俺の方も済まなかった。怪我は大丈夫かい?」


 昨日は俺も意地になってしまった。大人げなかったと反省している。


「大丈夫だ。あんたが治してくれたから」


 昨日、脚の骨を折ってしまった男が頭を掻きながら手を差し出して来る。


「また里に来てくれ」


 俺は差し出された手を握り返して頷いた。他の男たちとも握手を交わす。


 手を振って別れを告げた。ユナがまた一本の樹に手を添えると門が出現する。


「ユウト。ここに手を添えて。名前を言って」


 俺は言われた通りにした。


「これであなたもいつでも通れるわ。ディアスタシス様とルルちゃんはごめんなさい。これは竜人族しか反応しないの」


「ユウト様と一緒なら、ルルもまた里に来ても良いですか?」


「もちろんよ!」


「その時は我も一緒じゃな!」


「もちろんディアスタシス様も!いつでも歓迎します」


「そうか!また美味い酒を飲ませてもらいたいものじゃな!」


 アスタもいつもの調子に戻ったようだ。昨日は何だったんだろう?ま、本人が言いたくなったら言うだろう。


 門を潜り、昨日の高台へと向かう。


「この道を憶える自信がないんだよな・・・」


「大丈夫!ルルが憶えましたから」


「おお!さすがルル。頼りになるなぁ」


 俺はまたアスタをおんぶし、ぶんぶん唸っているルルの尻尾を見ながら後に続く。高台に着いて、景色を振り返った。


 ここは美しい場所だな。故郷か。俺にも故郷と呼べる場所があったとは。それだけじゃなく、血の繋がった人とも会えた。ユナに感謝だ。


「ユナ、ありがとう」


「何よ、突然」


「いや、里に連れて来てくれて、さ」


「そ、そう?お礼なんて別に良いわよ」


「そうか。それでもありがとうな。さっ、帰ろうか」


 帰りは俺に掴まってもらい、狼人族のアルさんの家に向けて転移した。





「アルさん、一人増えてしまいました・・・」


 俺は竜人族の里であった事、キーラ族長が祖母であり、両親の話を聞いた事、そして族長命令でユナがしばらく俺たちと行動を共にする事を伝えた。


 義理の父に向かって、さすがに子作り云々の部分は言えなかったぜ。


「はっはっは!ユウト様、どうかお気になさらず!何と言っても、ユウト様はうちのお婿様、家族ですからなー!」


「ねぇ、お父さん、オムコってなにー?」


 一番下の妹、リリが聞いて来る。


「ルル姉さんの番の事だよ!」


「なあんだ!やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんなんだ!」


 リリが「ムコーっ!ムコーっ!」と叫びながら走って行く。何が気に入ったのか良く分からん。


 魔族領に居る間、ずっとアルさんにお世話になってて気が引けるなぁ。妻の実家でお世話になるなんて、これでは日曜の国民的アニメの入り婿のようではないか・・・


 早く俺の家、完成しないかな・・・


 そう言えば、家の進捗を全然確認してなかった。ちょっと様子を見に行こう。


「やあ、スティーブ!ありがとうな」


「ユウト!いや、仕事だからな!」


 家の建築の事は良く分からないが、素人から見ても半分くらいは完成しているように見える。


 しかし、思ってたより随分大きくないか、コレ?


「スティーブ?なんか大きくない?」


「ああ、ルルちゃんとアルさんが、将来の事も考えて大きめにしてって言うからさ」


 施主は俺だけど?何も聞いてないんですけど?


「大きめって・・・どれくらい?」


「まぁ、アルさんの家より一回り大きいくらいだな。風呂もでっかいぞ!」


 アルさんの家よりデカいって・・・何人で住むんだよ。それより、


「なぁ。そんなにデカくしちゃ、最初の金じゃ足りないんじゃないか?」


「そうだな。でもアルさんや他の族長が出すって言ってたし。心配しなくて良いぞ」


「いやいやいや、それは駄目だ。ちゃんと俺が出す。金はあるんだ。足りなくなったらまた魔石でも売りに行けば良いし。俺に請求してくれ」


「ああ、分かったよ。あと二か月もあれば完成すると思う。楽しみにな!」


 俺はスティーブに再度礼を言ってその場を後にした。アルさんの家に戻る。


「アルさん!俺の家が、思ってたよりデカくなってるんですけど!?」


「ユウト様。仮にも魔王様の住居ですぞ?私の家より小さくては困ります」


 そんなものか?


「それについては、もう作ってるから仕方ないです。けど、家を建てるお金は、ちゃんと自分で払いますからね?駄目ですよ、アルさんも他の族長さんもお金出しちゃ」


「そんな・・・これは我々のほんの気持ちで・・・」


「駄目ったら駄目です!迷惑ばっかり掛けてるのに、その上家のお金まで出してもらうなんて甘やかし過ぎです、俺を!!」


 なんか自分でもおかしなことを言ってると思ったが気にしないでおく。


「分かりました・・・ユウト様がそう仰るのなら」


 アルさんの耳がしゅんとしてしまった。強く言い過ぎたかな?


「アルさん、お気持ちだけで十分です。ありがとうございます」


「はっはっは!それでしたら、新築祝いを豪勢にせねばなりませんな!」


 いつもの調子に戻ってくれた。新築祝いくらいなら気持ちよく受け取らせてもらおう。





 昼食後、救出した獣人たちの様子を見るため、各種族の集落を回ろうと思ったのだが、よく考えてみたら昨日迎えに来たばかりだ。一番遠くの集落へはパンゴルの脚でも三~四日はかかる。


 今のところセルジュさんからも連絡はない。一昨日会ったばっかりだしな。まだ謁見とやらの日取りは決まらないだろう。これについては永久に決まらなくても何も問題ない。


「と言う事で、何もする事がありません」


「何が『と言う事で』なのよ?」


「あー、ユナよ。ユウトはよくこういう所があるのじゃ。自分の頭の中で考えて、突然喋り出すのじゃな。お主も早う慣れることじゃ」


「何かやりたい事がある人ー?」


「別に無理矢理やる事決めなくても良いんじゃないの?ゆっくりすれば」


 もちろんそれでも構わない。休みは大事だからな。


「ユウト様?それならシエラさんの所に行きませんか?」


「「シエラって誰?」じゃ?」


 そうだった!落ち着いたら行くって約束してたわ。完全に忘れてた。


 考えてみたら、シエラに手を貸さなければアスタとも出会ってなかった。囚われた獣人たちを救出する事もなかった。


「そうだな。シエラの所に遊びに行こうか?」


「だからシエラって誰よ!?」


「シエラは、アナトリ山脈の竜族の子で、捕えられてた竜族の仲間を助ける手助けを・・・いや、結局助けたのは黒竜か。まぁ、なんだかんだで、なんだ、その、竜族だ」


「なによそれ!全然分からないわ!」


「ユウト、端折り過ぎじゃぞ?」


「シエラさんは従魔術を掛けられて、黒竜様に会うためにトルテアの街に来たんです。ユウト様とルルは一緒にシエラさんの集落に行って、それから召喚者の人族の女と会って―」


「分かった!もう良いわ!話が長くなるのね?」


「とにかく、シエラと会ってなければアスタとも出会ってなかった。落ち着いたら行くって約束してたんだ」


 ルルからシエラの名を聞くまで完璧に忘れてたけどな。


「シエラには世話に・・・はなってないな。むしろこっちが世話したのか。まぁどっちでも良いか。いい機会だから行こう」


 シエラにはルルと二人で行くと言ったが、二人増えても問題あるまい。せっかくだから四人で行く事にした。アルさんに、シエラの所に行って来ると伝える。アルさんはシエラに会ってるから話が早い。


 ルルはもちろんアスタも長距離転移でもう酔う事はないし、ユナは転移使いだから問題ない。三人に掴まってもらい、竜族の集落に転移した。





 シエラの家の近くにある竜化のための広いスペース目掛けて転移したのだが、到着した途端に気付いた。


 ここは標高四千メートルの高地だった!もっと厚着してくるべきだった。ルルはちゃっかり厚手のコートを着ている。俺はアスタとユナに、マジックバッグから出した毛布を手渡した。コート代わりに身体に巻いてもらう。


「何じゃここは!えらく寒いではないか!」


「ごめん、アスタ。ユナも。高地だってすっかり忘れてた。早くシエラの家に入れてもらおう」


 外に出てる竜族は見当たらない。記憶にあるシエラの家の玄関をノックする。


「はぁーい!ってユウトさん?それにルルちゃんも!どうぞどうぞ、中にお入り下さい!」


 最後に会った時より格段に明るい声と顔で、シエラが出迎えてくれた。


「あと二人居るんだけど良いかな?」


「もちろんどうぞ!」


 前にお邪魔した時より、家の中が温かい。暖炉には火が入っており、他にも人の気配がする。


「シエラ、お客さんかい?」


「お父さん!前に話したユウトさんとルルちゃん!と、えーと?」


「ユナ。竜人族よ」


「ディアスタシスじゃ。アスタと呼んで良いぞ」


「ですってー!」


 シエラらしい適当さだ。嫌いじゃないぞ、そういう適当な所。俺も似たようなもんだからな。


「これはこれは!あなた方がシエラを助けて下さった、ユウトさんとルルさんですね!その節は、娘が大変お世話になりました」


 柔和な笑顔を浮かべるシエラの父は、顔中白い髭だらけで白髪の好々爺だった。年齢のせいで白髪ではなく、元々こういう髪の色のようだ。


 その父の陰に隠れるように少女が居た。シエラと同じ、黒髪に赤のメッシュが入ったロングヘアーに、燃えるような真っ赤な瞳をしている。シエラと同じような服を着ていて、シエラと同じようなグラビア系のスタイルだ。


「ユウトさん、妹のカエラです。ほら、カエラ!ちゃんとご挨拶しなさい!」


「・・・カエラ・・・」


 随分人見知りな子のようだ。社交性は全部シエラに持って行かれたのかも知れない。


「って言うかユウトさん、何だか雰囲気変わってません?前より若く見えますけど」


「あー、話すと長くなるけど、俺は竜人族で、本来の姿に戻ってる所らしい」


「やっぱり!今の方が良いですよ!ところで、妹のカエラはユウトさんのお陰で助かった一人なんですよ」


「助けたのは黒竜だけどね」


「違うんです。あの後黒竜様が来て教えて下さったんです。ユウトさんがあの女を倒したから、従魔術が解けて助け出す事が出来たって。だからユウトさんのお陰なんです!」


「そうなの?まぁどっちでも良いよ。助かったなら良かった」


 やはり、シエラの身内が囚われていたんだな。だからあんなに必死だったんだ。


「族長に話して来ます!ちょっとここでゆっくりしてて下さい!」


 言うが早いか、シエラは家を飛び出して行った。落ち着きのない子だ。シエラのお父さんに促され、四人で暖炉の近くのダイニングテーブルに座る。


 すると、カエラと呼ばれた子がおずおずと近付いて来る。良く見ると、ルルと同じか、少し年上かも知れない。シエラと似た垂れ目の可愛い顔だが、少し陰がある。


「ユ、ユウト・・・さん・・・助けてくれて、あ、ありがとう」


「ん?どういたしまして。君のお姉さんが必死だったからね。一番頑張ったのはお姉さんのシエラだよ」


「ん・・・それでも、ありがとう」


「うん。感謝の気持ち、しっかり受け取ったよ」


 それからシエラがバタバタ帰って来て、俺たちへの歓迎と感謝の意を示す宴に族長から招待された事を教えられた。


 なんだか連日宴会してるよな。まぁ、四人全員酒好きなので断る理由もない。俺たちは有り難く招待を受け、準備が出来るまでシエラの家で待つ事になった。


例え見てしまっても、見てないと言わなきゃいけない時があるんです、男には・・・


いつもお読み下さりありがとうございます!

明日も19時~20時の間に投稿します。宜しくお願い致します!

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